第20話:第一回ローテーション会議
翌日朝食を食べ終わった後、エメルダが女達だけで話があるというので、アキヒトをハブって一つの部屋に集まった。
そしてベッドの縁に座る私とフランティーヌを前に、エメルダが腰に手をやり口を開く。
「色々問題も解決して、これからは宿に泊まる事も多くなります。今までは神様を1人っきりにさせてアキヒトをけしかけたり、フランティーヌに声を掛けて行かせたりしていましたが、これからはもうそんな事やってられません! まずフランティーヌ!」
「あ。はい!」
突然名指しされたフランティーヌが思わず大きな声で返事をする。それに対しエメルダは「いい。これからは」と前置きすると身体をくねらせた。
「傷付いたアキヒトには慰めが必要なの。わらわも本当は望んでいる訳ではないのですけど、アキヒトを慰める事が出来るのは、わらわだけだから……。なんて言うのはもういいのよ!」
と、ビシッ! とフランティーヌを指差した。
指差されたフランティーヌは、うぐ。っと言葉を飲んだ。
ふっ。そうじゃアキヒトは立ち直ったのじゃから、もうフランティーヌの慰めなど必要あるまい。これからは純粋にハーレム要員として励むのじゃ! じゃが、そう考えているとエメルダの矛先が「次、神様!」と私に向いてきた。え? 私?
エメルダは、顔を背け恥らった様な仕草をする。
「本当は嫌なんじゃけど、私はアキヒトの彼女じゃし……。アキヒトがサルの様にさかってくるから断りきれず仕方ないんじゃ……。っていうのも、もう終わりにして!」
と私をビシッ! 指差す。
くっ! 様式美を理解せぬ奴め。お約束というものを知らんのか。無駄に芸達者なところを見せおって。
「いい? 森の中じゃあるまいし、一々1人っきりにさせる為に姿を隠したりなんて面倒くさい事やってられません。順番を決めたので、この順番通りにアキヒトの部屋に行って下さい」
エメルダはそう言って、一枚の紙を私達に見せた。
まったく横暴な奴じゃ。お前はジャ○ヤンか。もっとも一応は仲間を思う気持ちはあるみたいじゃから、横暴なだけのテレビ版じゃなく、仲間思いの劇場ば……。と、私はエメルダが決めた順番に我が目を疑った。
「なんじゃこのオーダーは! 先発がフランティーヌに、中継ぎはエメルダ。私が抑えとはどう言う事じゃ! 先発は不動のエースの私じゃろうが!」
「なんなのよ。先発とか中継ぎとかって。だいたいあなたアキヒトに抱かれるの嫌だったんじゃないの? だったら最後で良いじゃない。とにかくこの順番が一番良いんだから、この通りにしてちょうだい」
エメルダは腕を組んで私を睨むが、お前が今、抱かれるのを嫌と言うのをやめろと言うたんじゃろうが。とにかくここは彼女としての沽券にかかわるのじゃ。怯んではいられん。
「どうしてフランティーヌが一番初めなんじゃ! 理由を言ってみよ!」
「だって、フランティーヌはまだあんまりなれていないんだから最初が良いでしょ? アキヒトだって初めの方が余裕あるだろうし」
エメルダの言葉にフランティーヌは、うんうん、と頷いておる。ちっ! しかし、そう言われては仕方がないんじゃろうか……。じゃがちょっとまてよ?
「その理屈なら、2番手は私じゃろうが。どうして私が最後なんじゃ?」
「だって、前に神様の見た時、なんか凄かったし、だったら最後で良いかなって」
うっ。そう言えばこいつにはしている所を見られたんじゃった。しかし私のってそんなに凄いのか? いや、エメルダの方が経験豊富じゃし、絶対エメルダの方が凄いはずじゃ。
「お前より私の方が凄いなんてありえん。絶対にお前の方が汚れのはずじゃ」
私が憤然と言い返すと、エメルダは怯んだように少し仰け反った。
「よ……汚れって、言うに事欠いてなんて事を言うの。この子は」
エメルダは憮然として私を睨み、私も睨み返す。この後のエメルダの報復を考えると背筋が凍るが、ここは引くわけにはいかんのじゃ!
じゃが睨みあっていると、不意にエメルダは、ふっと微かに溜息を付くと表情を和らげた。
「確かに神様の言う事も分かるわ。なんていっても神様はアキヒトの彼女なんだし……」
おお。なんじゃエメルダも分かっておるではないか。
「でも……」
「でも、なんじゃ?」
「やっぱり彼女だけあって、アキヒトも神様の時は張り切っちゃうみたいなのよ。そしたらいくらアキヒトが若いって言っても体力がなくなっちゃうでしょ?」
「う~~ん。そう言う事もあるかも知れんの~」
「その後じゃ、さすがに私にも荷が重いわ。やっぱり彼女には勝てないんだもの。いえ、多分私じゃなくても、きっと誰だって無理だわ」
ふむふむ。なるほどな。やはり彼女は別格という事じゃの。
「まぁそういう事なんじゃったら仕方が無い。最後でも我慢してやる」
「そう。分かってくれて良かったわ」
エメルダはそういうと安心した様に笑ったが、その表情が若干悪人の顔に見えたのは気のせいじゃろうか?
「じゃあ、順番はこれで決まりね。アキヒトには3人終わったところで、一日休んで貰います。若いから一日も休めば十分でしょう」
ふむ。中一日というやつじゃな。となると4日に1回私の番が回ってくるのか。フランティーヌが入る前は3日に1回じゃったから、あんまり変わらん感じじゃの。
やっぱりここは100人に増やすべきじゃの。そうすれば、途中の休みを考えれば4ヶ月に1回くらいしか回ってこんじゃろう。いや、さすがにそれは寂しいか。やっぱり10人くらいで、2週に1回くらいじゃな。
それくらいなら私も我慢でき……。って、私は何を考えとるんじゃ! なんじゃ寂しいとか我慢できるとかって!
いかん、すでに、かなり毒されてきている気がする。思いの外ハイペースじゃ。あの黒の○太め。このまま毒されてしまっては、神の力が戻った時、全宇宙の危機じゃ。ハーレム要員を増やすのを急がなくては!
私がそう考えていると、エメルダとフランティーヌが何やら喋っておる。
「順番が変わる事があるかですって? それは状況が変わればあるでしょうけど、変わりたいの?」
「あ、いえ……。ただ、その様な事があるのかと思い聞いてみたのです」
「もしかして、一番最後になりたいって言う事?」
探る様な目で言ったエメルダの言葉に、フランティーヌは慌てて首を振った。
「いえ、そういう事ではないのです。わらわは別にその様な事を考えているのではありません」
とは言うもののやはりフランティーヌは、さっきのエメルダが言った「彼女だから一番最後」という言葉を気にしているようじゃ。
その言葉に、
「ふ~~ん」
とエメルダは腕を組み首を少しかしげて疑わしげな視線をフランティーヌに送っておる。しかし、最後になりたいという事は、私の「彼女」ポジションを狙っているという事じゃな。
ふっ。神である私に戦いを挑むとは身の程知らずな奴よ。アキヒトのトラウマが治った今、理想の彼女となっている私に隙は無いのじゃ。
じゃが待てよ? フランティーヌはハーレム要員を増やすのには反対していたはずじゃが、良い機会じゃ。人の感情を操っての騙しあいではエメルダには勝てんが、理屈優先の駆け引きでは私の方が得意じゃ。これを機にフランティーヌを黙らせよう。
「エメルダよ。そう言えばハーレムの人数が増えたとしたら、順番はどうなるんじゃ?」
私の問いかけにエメルダは
「増えた時の順番?」
と言うと顎に手を当てて考え込んだ。そしてしばらくすると
「そうね……」と口を開く。
「もう1人増えて4人になれば、2人ずつに分かれて貰う事になるわね。そしてアキヒトには2人ずつで一日休んで貰うわ」
ふむ。やはりそうなるであろうな。
「そのうちの1グループは当然私が最後になるとして、もう片方はどうなるんじゃ?」
すると私の言いたい事を察したのか、エメルダは一瞬にやりとした。そしてすぐに笑いを収める。エメルダだって女戦士に当てがあると言っておったし、100人はともかく、増やすのには賛成のはずじゃ。だからフランティーヌが増やすのに反対なのは、封じ込めたいはず。
「それは……まだ分からないわ。入る子がどんな子か分からないし、もしかしたたらフランティーヌに最後に行って貰うかも知れないけど」
「わらわ……ですか?」
「ええ。まぁそういう事もあるかも知れないってだけ、だけどね」
エメルダの言葉に確証は無いが、それでもフランティーヌは頭の中で状況を考えているようじゃ。人数が増えるのは好ましくない。しかし人数が増えれば私と「並んで」彼女ポジションと言える最後になれる。かもしれない。
アキヒトに惚れているフランティーヌにとっては魅力的な話のはずじゃ。もっとも私としても、並んだと思われるのは癪じゃが、実際人数が増えれば避けられぬ話じゃ。避けられぬなら精々有効に使わせて貰おう。
「まぁ増やすといっても、まだ当てがある訳ではないしな。それは明日ギルドに行って、名前が売れそうな依頼を見つけてからじゃ」
「ええ。そうね。今日はもう良いとして、明日からまた活動しましょう。100人は行き過ぎだけど、もう何人かは増やしたいし」
そしてエメルダは、フランティーヌに
「ね?」
と片目を瞑って見せた。
「そ……そうですわね。もう……1人くらいなら増えても構わないかも知れませんわね」
よし。上手く行った! これで反対する者は居なくなった。さらに増やす時にまた反対するかもしれんが、その時はその時じゃ。
「まぁとりあえず、順番や人を増やす話はもういいとして、昨日は町に着いたところでみんな疲れてたから休んだけど、今日からは夜アキヒトのところに行きましょう。まず始めは決めたとおりフランティーヌが行ってね」
エメルダが纏める様にそう言うと、表面上は落ち着いて見えたフランティーヌも「彼女」ポジションになれるかも、と彼女なりにテンションが高くなっていたらしい。
「はい。がんばります!」
と大きな声で答えた。
思いの外大きな返事に、ちょっとびっくりした顔をしたエメルダじゃったが、気を取り直すと、人の悪い笑みを浮かべる。あ、悪人の顔じゃ。
エメルダは、そっとフランティーヌの左肩に手を置いた。そして優しく微笑む。
「私には何を頑張るのかよく分からないけど、取り合えず頑張りなさい」
その言葉にフランティーヌは、自分の言った台詞の意味を理解して顔を真っ赤にしておる。
「いえ。あの……頑張ると言っても……別にへんな意味では無いのです」
しどろもどろになりながら弁解するフランティーヌに、私は追い討ちを掛けるように、笑みを湛え彼女の右肩に手を置く。
「まぁ私にも何を頑張るのか分からんが、とにかく頑張るがよい」
フランティーヌはよっぽど恥ずかしいのかさらに顔を赤くし俯いた。あ。なんか凄く楽しい。