第19話:子供なのか。大人なのか。
今まで村や町を避けていた私達じゃったが、フランティーヌの事に続いてアキヒトの問題も解決したので、やっと近くの町に入ることができた。
計画ではそこかしこで有名な魔物を退治してアキヒトの名前を売り、寄って来る女をハーレムに入れる予定じゃ。
五色のドラゴンを倒しているので、名を売るならそれを公表すれば簡単なはずじゃが、それにはエメルダが反対した。
「五色のドラゴンを倒したとなるともう世界の救世主よ。注目を集め過ぎて逆にハーレムを持つなんて出来なくなるわ。アキヒトが図太い性格なら大丈夫でしょうけど、そうじゃないし」
と言うのがその理由じゃった。
この町でも名を売れそうな魔物が居ないかギルドに問い合わせる事になっておるが、みな馬車での長旅で疲れておる。その疲れを癒す為、今日、明日くらいは宿でゆっくりと休む事にした。
部屋は2つ取り、取りあえずその1部屋に全員で集まった。
「ベッドで寝るのも久しぶりじゃの」
とベッドに飛び込む。
こうして改めてベッドに横たわると、もう馬車の荷台で寝るのも地面で毛布に包まって寝るのもうんざりじゃ。とはいえ、馬車で移動しない訳にもいくまい。
「フランティーヌの父親の国王からたんまり金はせしめておろう。もっとマシな馬車に買い換えんか?」
じゃが私がその言葉を発した瞬間、部屋の空気が凍りついた気がした。気付くとエメルダは私を怖い目で睨み、フランティーヌは暗い顔で俯いていた。
「神様。無神経過ぎよ」
とエメルダに怒られた。
「あ、すまん。悪気があった訳ではないのじゃ」
と私も素直に謝る。そうか。フランティーヌの前ではあの国王の話はしない方が良いのじゃな。
「いえ……。御気になさらない様に。わらわももう父の事は忘れる事とします」
顔を上げたフランティーヌは気丈にそう言ったが、やはり顔色は微かに青い。無理をしている感じじゃな。もはや済んだ事と思ってたんじゃが、まだ引きずっておったか。
やはり私には人間の心の機微というものはよく分からんの。
う~む。理屈で判断できる事なら分かるんじゃが……。やられたらやり返したいと思うだろうとか、こうしないと都合が悪いだろうから、こうしようとするに違いないとか。
「それで、どんな馬車が良いの?」
話題を変えようとしたのか、女3人に囲まれ居心地悪そうにしていたアキヒトがぎこちなく口を開いた。まぁの○太なりにフランティーヌに気を使ったのか。
そう言えばフランティーヌはポジション的にはなんになるんじゃろう? もしかして、し○かちゃんか? あ、そう考えるとムカついてくるな。神様の私がコ○助のポジションになりかけて居るのに。
何気にそう考えていると、この中で一番生活力のあるエメルダが、腕を組んで口を開いた。
「理想を言えば、もっと大きくて大勢乗れて、荷物も乗せられるのが良いんだけど、そうなると馬車を引く馬の数も多くなるわ。言っておくけど、私そんなに馬の数が多い馬車は御せないわよ?」
「じゃあ、精々今よりもちょっと大きな馬車しか駄目って事かの?」
「そういう事になるわね。専用の御者を雇えば別だけど……。そうなると男性って事になるし、それは避けたいわ。女ばかり集めるところに男が居ると面倒になると思うの。勿論アキヒトは別としてね」
エメルダはそう言うと「男が居ると面倒」という言葉に居心地悪そうにしたアキヒトに向かって片目を瞑って見せた。まぁハーレムなんじゃから、アキヒトが居なくては元も子もないんじゃし、アキヒトももっとシャンとすればよいものを。
「しかし、じゃあどうするんじゃ?」
「そうね……。一旦私が御せる程度のに買い換えて……。それで必要になったらまた馬車を1台買って数を増やそうと思うの」
「ほう、数をの……」
「ええ。今回、神様が男達……多分あの辺りに住み着いていた盗賊だったんでしょうけど。ああいう男達からみんなを守る為に護衛も欲しいし。勿論女性で。そうなると馬車は1台じゃ足りないわ」
「え? 女の人達は僕が守るよ。僕だって、それくらいはしないと……」
「ありがとう。でも、アキヒトだって、いつもみんなと一緒に居る訳じゃないでしょ? 誰か1人と2人っきりになる事も多いし……。ね?」
とエメルダは、アキヒトに向かってまた片目を瞑る。アキヒトは赤面するが、ついでに私とフランティーヌも赤面した。
「しかし女戦士となると……。やっぱりハーレムに入れるのか?」
「ええ、出来ればそうしたいわね」
「う~ん。護衛を引き受けてくれてハーレムにまで入ってくれる女戦士など、そんな都合の良い者が簡単に見つかるかの?」
「それは、ちょっと心当たりがあるの。任せてちょうだい」
心当たりか。エメルダの事だから、強い者フェチ仲間の女戦士の知り合いでも居るんじゃろうか?
「あの……」
「なんじゃフランティーヌ?」
「やはり……。人数を増やすとおっしゃるのですか?」
しかし、フランティーヌは人数を増やすのには反対のようじゃな。まぁアキヒトを好きでハーレムに入っているフランティーヌにしてみれば、他の女などこれ以上増えて欲しくないのは当たり前か。
もっとも私としても、アキヒトが他の女に手を出すのを喜んでいる訳ではないが、ハーレムを作ると決めた以上、それは言っても仕方がない。それにこのまま堕ちていくと神様的に不味いので、アキヒトが他の女に行って貰わないとそれはそれで困る。
だったら、エメルダなりフランティーヌになりに頑張って貰って私の出番を減らす事も考えたが、エメルダの「男性の女の好みなんて簡単に変わる」という言葉が気にかかった。
アキヒトの気が他の女に行ってしまっては、「アキヒトの彼女」となっている私の存在意義にかかわってしまう。ならば人数を増やし、アキヒトには女達と浅く広く付き合って貰えば良いのじゃ。
「無論じゃ。100人を目指す!」
じゃが、猛々しく宣言した私に、みなが避難の声を上げる。
「それは……さすがにアキヒトが死ぬんじゃないかしら」
「いっいくらなんでも、ふしだら過ぎます!」
「神様は僕をなんだと思ってるんだよ……」
ちっ! まさかアキヒトまで反対するとは、の○太の癖に。だいたいお前はサルの様に私に迫ってくるじゃろうが。なんだと思っていると聞かれたら、サルと思っとるに決まっとるじゃろ。それをさも常識人の様な態度をとりおってずうずうしい。
しかしまぁみんなに反対されては止む得ん。それに一気に100人に増やせる訳も無いから、徐々に増やして行って、最終的になし崩しに100人にしてくれるわ!
「まぁとにかく、馬車を買い換えるのは決まりね。明日町でよさそうなのを探しましょう。後、それにみんなの服も。フランティーヌ、いつまでも白のドレスじゃ、旅に不都合でしょう」
「そうですね……。フェンリルが住んでいた洞窟には当然着替えも有ったのですが、着の身着のままで出てきてしまいましたし。ですが服を採寸するとなると、かなりの日数が――」
「そんな暇ある訳ないでしょ。出来合いを買ってちょうだい」
「出来合い……」
「文句でもあるの?」
エメルダに睨まれると、フランティーヌは慌てて首を振る。一国の王女もさすがにエメルダには頭が上がらんようじゃな。なにせ今まで怖い者など居らんかった神様である私を、びびらせるほどの者じゃからな。
その後夜になると我々は食事をしに外に出た。そしていつもアキヒトと行っていた様なこじんまりした店の前にさしかかる。
「ここで良いのではないか?」
じゃが、エメルダは気に食わないようで首を振った。
「ずっと馬車で旅をしててろくな物を食べてなかったんだから、せっかくだし、もっと豪勢に行きましょうよ」
なるほど、こっちの世界に来てから食べたのは、アキヒトと行った店と、エメルダ曰くろくでない物だけなのでな。金はたんまりあるんじゃ、それも良いかもしれんな。
「よし! それではその豪勢な食事とやらに行こうではないか」
こうして意気込んで、その豪勢という料理が出る店に来たものの、並べられた料理の半分ほどは私の口に合わなかった。
分厚い肉を焼いたものや鳥の丸焼き。さらに魚や珍しいきのこなどの料理を目の前に私は不満をぶつけた。
「なんじゃ? すっぱすぎたり、苦すぎたりでほとんど食えんじゃないか」
「なに言っているのよ。美味しいじゃない。ねぇ? アキヒト」
「うん。僕も美味しいと思うよ」
「はい。わらわも美味しいと思います」
ちっ! みんな私とは反対意見か。
「お前ら味覚がおかしいのではないのか?」
「3対1の状況で、どうしてそこまで自信満々に言いきれるのよ」
エメルダは呆れた様に言うが、いやいや、こんな物を美味しいと言う方がおかしいじゃろう。
じゃが、その後に出てきたデザートとやらは気に入った。ふむ。こういう甘い物の方が食べやすくて良いではないか。
甘いふわふわした物を口に入れ、にこにこと食べていると、その様子を見てアキヒトが微笑みながら口を開いた。
「神様って、子供舌だよね」
「子供舌? なんじゃ、その意味は良く分からんが、馬鹿にされている事だけは良く分かるぞ」
私の言葉にアキヒトは慌てて弁解を始めた。
「べっ別に、馬鹿にしている訳じゃないよ! ただ子供って、すっぱいのや苦いのが苦手で、甘い物好きだから、神様も同じだねってだけだよ」
「十分馬鹿にされている気がするんじゃが」
「そんな事無いって!」
私の言葉にアキヒトは強く否定する。そこにエメルダが会話に参加してきた。
「でも、確かに神様の味覚って子供みたいよね」
ちっ! エメルダまで!
「何度も子供、子供と言うでない! 私を何歳と思っとるんじゃ?」
「何歳なのよ?」
と私とエメルダが話していると、その隙に、フランティーヌがアキヒトに何やら耳打ちをしておる。
「どうしたのじゃ? 何をこそこそ話しておる」
すると、耳打ちする為にアキヒトの耳に顔を近づけていたフランティーヌが慌てて離れた。
「いえ……。そのあなたって本当に神様……なのかと伺っていたのです」
「心配するな。正真正銘神様じゃ」
しかしフランティーヌは納得していない様子で口を噤んでおる。神様のいう事を信用しないとは失礼な奴じゃな。
「私が神様で、何が不満なんじゃ?」
「それはちょっと、ここでは……」
「なにがここではじゃ。はっきりせん奴じゃな。いいから申せ」
「神様なのに、アキヒトとあの様な事をして良いのかと……」
「あの様な事? 良く分からんな。はっきり申せ」
「ですから……。あの様な……事です」
フランティーヌはなにやら顔を赤くしとるが、どうも要領の得ん奴じゃな。また宇宙人語か? じゃが例によってエメルダにはフランティーヌの宇宙人語が通じるらしい。エメルダが代弁して口を開いた。
「ああ、神様なのにアキヒトに抱かれたりして良いのかって事?」
あからさまなエメルダの言葉に、フランティーヌは顔を赤くして俯き、私も赤面する。
「お前には、恥じらいと言うものが無いのか? こんな所で何を言っとるんじゃ」
じゃが、エメルダはデザートを口にしたフォークを咥えたまま平然としている。
「だって、神様が聞いたんじゃない」
ちっ! ああ言えばこう言う奴じゃな。
「もう! もう良い! とにかく私は間違いなく神様なのじゃ。フランティーヌ。これで良かろう!」
有無を言わせず断言し話題を打ち切ると、改めてデザートを頬張る。食事は全部これで良いのに、どうしてわざわざあんなすっぱかったり辛い物を食べねばならんのじゃ。
その後宿に帰った私達はアキヒトを一つの部屋に居れ、女3人で残りの部屋に入った。
「ベッドが2つしかないの~」
とはいえ、3人ともベッドで寝たければ一人はアキヒトと同室という事になる。馬車の旅の疲れを癒す為、今日はハーレムは休みの予定じゃ。
「そうね。じゃあ、私が床で寝るからあなた達はベッドで寝なさい。まだ子供なんだし」
エメルダの言葉に引っかかった。よりによって子供とは。いや、私だけではなくフランティーヌも不満の顔を隠さない。気を悪くし相手がエメルダとはいえ突っかかった。
「わらわは子供ではありません! 撤回して下さい」
そして当然私も反論した。
「食事の時も言ったが、私を何歳とおもっとるんじゃ? 私が最年長なのじゃぞ! 年長者が床に寝るというなら、私が床に寝るわ!」
じゃが、エメルダは私達の抗議を平然とした顔で受け止め、口を開いた。
「分かったわ。じゃあ、神様、床に寝てちょうだい」
そしてベッドの一つに潜り込み「おやすみなさい」と毛布を被った。
残された私とフランティーヌは顔を見合わせる。そしてフランティーヌもそそくさとベッドに上がり、
「皆さん。お休みなさい」
と毛布を頭まで被った。
しまった……。こんな手に引っかかるとは……。私は余った毛布で全身を包み床に横になった。グスグス。