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第18話:神様は要らない子?

「あなたの顔を見ると、あの時の光景が頭の中に浮かんでしまうそうです」


 再度馬車に篭ったアキヒトの様子を見に行っていたフランティーヌが帰ってきてそう言った。どうやら、私の事を「神様」と呼ぶのは嫌らしいな。


 それにしても、私の顔を見るとじゃと? 私が何をしたというんじゃ? 確かに私を助ける為にあの男共をやったんじゃが、それにしても酷いじゃろう。


 私が不満げに腕を組むと、例によって心の機微に敏感なエメルダが、私の様子から私の心情を読み取ったのか解説を始めた。


「あの時神様、男達からの返り血で血まみれだったから、それでだと思うわ。まぁ血まみれで笑いかけられては、インパクト強かったんでしょうね……」


 なんじゃと? まったく失礼な。せっかく感謝の気持ちを全力で表した笑顔じゃったのに。


「しかし、そんなものすぐに治るんじゃろ?」


 じゃが、エメルダとフランティーヌは顔を見合わせるだけで、口を噤んだ。


「え? ……治らんのか? それはさすがに困るぞ」


「いえ、そうは言わないけど……。すぐに治るかどうかは正直分からないわ。かなり繊細な問題だから」


 すぐには治らんか……。トラウマという奴じゃな。じゃがまあいずれ治るのなら問題あるまい。問題は移動をどうするかじゃな。


「私とアキヒトが同じ馬車に乗るのも不味いのかの?」


「ええ、多分。でもとりあえず後2、3日はここで様子を見ましょう。その後は、神様、馬車の中じゃなくて、御者台の私の隣に座って貰う事になると思うわ」


 う~ん。そうなると馬車の中でアキヒトとフランティーヌが2人きりになる訳か。とはいえ、さすがにあのサルも、密室で2人きりになるとはいえ馬車の中ではフランティーヌを襲うまいな。


 じゃが、しばらく過ごしていると、かなりムカつく状況なのに気付いた。


 何がムカつくかというと、アキヒトが馬車の外に出るというと、アキヒトの目に映らないようにと、どこかに行っておけとエメルダに言われるのじゃ。どうして私がこそこそとしなければならんのじゃ。


 結局3日たってもアキヒトの症状は完全されず、馬車の御者台のエメルダの横に座る事となった。


「不機嫌そうね?」


 ぶっちょう面で座っているとエメルダが声を掛けてきた。


「当たり前じゃ、人を病原菌みたいに隔離しおって。これはいつまで続くんじゃ?」


「しょうがないでしょ。もうちょっと我慢してちょうだい。繊細な問題だから、試しにアキヒトに神様の顔を見せてみるって訳にも行かないのよ」


「じゃあ、どうやって治ったと判断するというんじゃ。ずっと隔離されたままか?」


「だから難しいのよ。どうやって治ったと判断したらいいのか……。それでも今すぐは駄目なのは間違いないと思うし……。悪いけど、しばらくは我慢してちょうだい」


「ふ~~。まったく!」


 私は両手で頬杖を付いてさらに不機嫌な顔をした。


 元々アキヒトとフランティーヌがくっつくのを待つ為に村や町に近寄らなかった私達なので、アキヒトとフランティーヌがくっついた今、村なり町なりに向かってもよいはずじゃったが、事情が変わった。


 今度は、アキヒトが落ち着くまでと、村や町を回避し人通りを避け馬車を走らせていたのじゃった。


 そしてかなり大きな川を見つけその川辺で馬車を止めた。


「ちょうど良かったわ。飲み水も残り少なくなってきていたし」


 エメルダはそう言いながら馬車から降りて私に顔を向けた。


「神様は薪になる木の枝を拾って来てちょうだい」


 生水をそのまま飲む訳にも行かないので一旦水を沸かす。その為の薪じゃが、神様をこき使うとは、とんでもない女じゃな。そのうちバチが当たるぞ。とは思ったものの逆らうと怖いので、素直に森の中に分け入った。


 エメルダも一応は私には仕事をあまり振らないのじゃが、それだけに振って来る時は手が足りないときじゃ。止む得まい。


 森に入ると背後から、フランティーヌへ向けたエメルダの声が聞こえた。


「私は神様が持ってきた枝で火をつけてお湯を沸かすから、その番をしていて。火が消えない様に時々薪を足せば良いだけだから出来るでしょ? それとアキヒトの様子も見ておいてね」


 ちっ! フランティーヌはすっかりアキヒト係か。


 ぶちぶちと愚痴をもらしながら枝を拾い集め、抱えられるだけ抱えると馬車のところまで戻った。


「ありがとう神様。じゃあアキヒトを外に出すから、神様はどこかに行って置いて」


 ズキッ! と胸が痛くなった。どこかに行っておけじゃと?


 じゃがエメルダは私の事など眼中が無いように、なべに汲んできた水を居れ沸かし始め、フランティーヌはアキヒトの様子を見に行く為か馬車の中に入った。


 私はみなから背を向け、川へと向かった。そして頭にのぼった血を冷まそうと、服を脱いで川に浸かる。


 水に浸かるとひんやりと気持ち良く、いらいらも治まってきたが、不意にあるものが目に入った。他でもない私自身の顔が水面に映ったのじゃ。


 私はその顔をマジマジと見つめた。そして手を目の前にかざし指の一本一本を見た。そして身体を見下ろして、身体の隅々まで見る。


 そして私は一気にしゃがんで、頭まで水に浸かった。



 夜。さすがにフランティーヌも毎夜ずっとアキヒトと一緒に寝ている訳ではなく、今日は馬車の外で毛布に包まって寝ている。女が外に寝て、男のアキヒトが馬車の中で寝るのもどうかという気がするが、まぁ今は場合が場合じゃ。


 みなが寝静まると、私は自分の毛布から起き出し馬車に近寄った。そして音を立てない様にゆっくりと扉を開け、アキヒトの身体をゆすった。


 そしてアキヒトが目を覚ましそうになると、アキヒトの目を手で塞ぐ。


「どうしたの? え? 誰?」


 目を塞がれたアキヒトは戸惑った声を上げた。


「私じゃ。私の顔は見ないで良いから、ちょっと来い」


「神様? どうしたのまだ夜だよね?」


「夜なのは分かっておる。黙ってついて来い」


 私はそう言って馬車から降りてスタスタと歩き始めた。アキヒトの性格からすれば、返事を待たずとも追いかけてくるのは分かっている。


 月明かりの中進み続け、あの川辺へとたどり着く。私の後ろにはアキヒトが居るが、この位置ならば、私は月明かりの逆光になっているはずだった。


 逆光ならば向き合っても陰になるから、アキヒトは私の顔が見えないはず。と振り返る。


「どうじゃ、私が見えるか?」


「え? う、うん。顔は良く見えないけど……」


「そうか」


 そして私は服を脱ぎ始める。アキヒトは、

「え?」

 と声を上げたがそれでも脱ぎ続ける。「恥じらい」設定が発動するが、それでも我慢してすべてを脱ぎ捨て全裸となる。月明かりの中、アキヒトにすべてを見せる様に両手を広げる。


「……どうしたの? 神様……」


 アキヒトの言葉を無視して、手をかざして見せた。


「どうじゃこの手は? 綺麗じゃろ?」


 そして足を少し差し出す。


「足はどうじゃ?」


 じゃが戸惑って状況がつかめないアキヒトから返答は無い。しかし私はさらに見せ付ける様に、クルリと一回転した。


「これが、お前の理想どおりの女の子の身体なんじゃろ? 見れて嬉しくないか? 私がどうしてこんな身体になっているとおもっとるんじゃ? お前が望んだからじゃろが? それを……。それを姿も見たくないなんて、ひどいじゃろうが!」


 アキヒトのトラウマの事などお構いなしに、アキヒトの傍に歩み寄った。そうは言っても逆光なので顔はちゃんと見えていないはずなのじゃが。


「姿だけじゃ無いんじゃぞ? お前、理想の彼女に神様の能力がある様に望んだか? 普通の女の子と望んだじゃろ? 今の私はなんの能力も無い普通の女の子なんじゃぞ? どうしてくれる積りじゃ?」


「え? そ……うなの?」


 今までその事に思い至らなかったアキヒトは、私の言葉に呆然とし立ち尽くす。私はそのアキヒトにさらに詰め寄る。


「今更何を言っておる。神の能力があったらあんな男共にいい様にされてはおらん。それよりもじゃ。どうしてくれるんじゃこの状況を? お前の望みでこんな姿になって力も失ったんじゃぞ?」


 気付くと頬を冷たい物が流れている。いや、泣く積もりなどはなかったのじゃが……。じゃが頬を伝う雫は止まる事を知らず私の胸へと落ち、さらに身体を伝って行く。


「ごめん。神様……」


 アキヒトはそういうと私を胸に抱きしめる。そしてしばらくすると私の背に回されていたアキヒトの手は離れ、その代わり両手で私の頬を優しく包み込んだ。そのまま私の身体を中心にしてアキヒトは回り、身体の位置を入れ替えていく。


 逆光だった月明かりが次第に私の横顔を照らし、そして遂には正面から私の顔をはっきりとうつす。私の顔を正面から、しかも間近から見てもアキヒトは絶叫せず、それどころか優しげに微笑んだ。


「見えるよ。神様の顔」


 そしてその顔が近づいて来た。私は目を瞑り微動だにせず受け入れる。そういえば、今微動だにせず受け入れているのは、どの「設定」が発動している所為なんじゃろう?


 朝になり2人で馬車の元へと戻ると、すでにエメルダやフランティーヌが起きていて朝食の用意を始めていた。


 フランティーヌから微かに鋭い視線を投げつけられ、エメルダからはにやついた目を向けられた。


 気恥ずかしくなったので、アキヒトとは離れて何気なくぶらぶらと別の方向に歩く。そしてエメルダの傍を通り過ぎると背後から声が掛かった。


「良かったじゃない。上手く行って安心したわ」


 その言葉にギクリとした。まさか、私をけしかける為にワザと「どこかに行って置いて」と、冷たい事を言ったのか?


 思わず振り返るとエメルダが人の悪い笑みを、例の悪人の顔で笑っていた。神を意のままに操るとは、とんでもない女じゃな。


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