第17話:アキヒトのトラウマ? コ○助拒絶症
その後エメルダもやってきて状況を説明した。そしてエメルダはアキヒトを落ち着かせる為馬車の座席に横たわらせ、私達は馬車の外で待っていた。
その後血を綺麗に洗い流し服も着替えた。近くに川が無かったので貴重な飲み水を使ってじゃ。
「水が勿体無くは無いか?」
「何を言ってるの。いつまでもあんたが血まみれじゃアキヒトが落ち着かないでしょ」
こうして綺麗になりエメルダと話合っていた。そして話には加わらないがフランティーヌも傍に居る。
「アキヒトって人と戦った経験無かったのね……。あんなに強い魔物をあっさり倒せるのに……」
エメルダは意外そうに呟いた。そう言えばこの世界では兵役とかあって、アキヒト程度の年齢の男でも、結構戦に出たりしてるんじゃったな。
「アキヒトはどんな様子じゃった?」
血まみれだった私は、アキヒトを馬車に乗せる時傍に居なかった為、エメルダに様子を聞いてみた。
「震えていたわ……。よっぽどショックだったみたい」
う~~ん。軟弱な奴め。じゃが、まぁ戦などない平和な国からやって来たのじゃ。ショックを受けるのも仕方が無いのかもしれん。
「よし! 私が言い聞かせて立ち直らせてやろうではないか!」
「本当!? じゃあ頼むわね。やっぱりこういう事は彼女の役目だから」
「おう。任せるのじゃ!」
私はドンッ! と胸を叩いた。まぁあの程度の事たいした事ないと分からせれば良いんじゃろう。簡単な事よ。
私の後にエメルダとフランティーヌが続き、馬車へと向かう。
「アキヒト良いか? 開けるぞ?」
と声を掛けて、馬車の扉を開ける。
中を覗きこむと、アキヒトは毛布に包まり、まだガタガタと震えていた。まったくしょうがないの。
「よいかアキヒト。お前こっちの世界に来てすぐに五色のドラゴンとかいう奴を殺したじゃろうが。それに今までも虫やらなんやら殺しておろう。今更、人の1人や2人殺したところで――」
バチンッ! とエメルダに後頭部を思いっきり叩かれた私は、さらに後ろから襟首を捕まれ、後ろに強く引っ張られた。
私と入れ替わる様にエメルダが前に出る。
「アキヒト。ごめんなさい。今のは忘れて!」
そして馬車の扉を閉じる。
エメルダは私の襟首を再度掴み、引きずる様にして私を馬車から遠ざける。背後からアキヒトの
「うわぁぁぁ~~~~~~!!」
という絶叫が聞こえてきた。
エメルダは私を引きずり続け馬車から離れたところに立っている大木の幹に私を押し付けた。そして鬼の形相で今度は両手で私の襟を掴む。
「あんた何を考えているの! あれじゃ逆効果じゃない!」
あ、なんかむちゃくちゃ怖い。頭を強く叩かれた事もあって、叩かれた所を手で押さえながら涙目で答えた。
「じゃっじゃが、神様的には生きとし生けるもの、すべての命は平等でな……」
しかしエメルダは私の言葉に感銘を受けず、襟をさらに強く締め上げてくる。
「今はそんな話どうでもいいのよ!」
そして私の襟を投げ捨てる様に放すと木の幹に左手を付いて身体を支え、空いている右手で額を押さえた。
「もう。どうするのよ……」
あの人間の機微に敏感そうなエメルダが、手も無く頭を抱えている。そんなに不味い事をしたのかの?
そこに突然背後から
「あの……」
と控えめな声が聞こえ、私とエメルダは振り返った。見ると、フランティーヌは両手で白いドレスの裾を強く握り締め、そして顔を赤くして俯いている。
「わらわが……。アキヒトが慰めを……。わらわ……。その……わらわだったら……。アキヒトに…………。だから…………。別に……わらわ……だったら」
何を言っとるのじゃこいつは? じゃがエメルダにはフランティーヌの宇宙人語が理解できたらしく、フランティーヌを抱きしめた。お前ら前回の事でかなり険悪なんじゃなかったのか? いきなり、何を分かり合っている感を出しておるのじゃ。
「お願いするわ」
とエメルダは言い、その言葉にフランティーヌも
「はい」
と頷いた。そしてフランティーヌが馬車へと向かう。
あ。また行くのか? とその後に続こうとすると、エメルダに肩を捕まれた。
「2人っきりにさせて上げなさい」
「え?」
あ、ああ。そういう事か。やっと理解した。まぁこれでアキヒトが元に戻って、しかもフランティーヌがハーレムに入るなら一石二鳥と言うものじゃな。私がそう楽観していると、エメルダが私の耳元で囁いた。
「あなた。油断していると危ないわよ」
「危ないって何がじゃ?」
「アキヒトをフランティーヌに盗られるって事よ」
ふっ。何を言うておるのか。私はアキヒトの「理想の彼女」を体現しておるのじゃぞ。それなのにアキヒトが他の女に心を奪われるわけ無かろうが。
私がそう高をくくっていると、エメルダは私の表情から私の心を察したらしく言葉を続けた。
「良い事を教えてあげる。男性の女の好みなんて、簡単に変わるものよ」
「なに? そうなのか? しっ、しかし理想なんじゃぞ? 理想。それをそんな簡単に……」
慌ててエメルダに問いかけた。愛されないコ○助に存在価値は無いじゃろう。それこそただの無駄飯食いになってしまう。
「あばたもえくぼって言うでしょ? 好きになったらその相手が理想になるのよ」
「しかし、理想の相手じゃなければそもそも好きにならんじゃろう」
するとエメルダは腰に手を当て、まったく~。と言う風に大きく溜息を付いた。
「みんな、そう簡単に理想の相手なんかに出会えないわ。そして理想じゃない相手を好きになるの。だいたい今フランティーヌはアキヒトに好意を持っているけど、アキヒトがフランティーヌの理想の男と思う?」
いや、の○太を好きになる奴など、し○かちゃんかジ○イ子ぐらいなもんじゃろう。う~む。まさか理想の彼女である私の地位が脅かされる事になるとは、まったくの予想外じゃ。
「とにかく、今はフランティーヌに任せるしかないからそっとしておいて。でも、落ち着いたら神様も頑張らないとね」
「頑張るって何をじゃ?」
「だから、アキヒトを盗られないようによ。じゃあ、私はこの後の事をちょっと考えるから、一人にしてちょうだい」
エメルダはそういうと私から背を向け、ヒラヒラと手を振った。
それを見送ると木陰に寝転がった。まったくだから盗られない為には、何をどう頑張れというのか聞いておるのじゃ。私にそんな事分かるわけないじゃろ。
なにエメルダは私の力を見くびっておるのじゃ。理想の相手じゃなくても好きになるとか言っておったが、それは理想の相手に出会わなかった為の妥協じゃろう。
私はアキヒトの脳内から理想を読み取って再現しておるのじゃ。ものが違う。大丈夫じゃ。そう考えて安心し、しばらくすると意識がフェードアウトし寝息を立てた。
眩しさに目を覚ますと、木陰だったはずの場所に日が照っていた。時間が経ち太陽の位置が変わった為らしい。まだ日が沈むには早いが、それでも結構な時間が経っているようじゃ。
どうなったのじゃ? と馬車の元に近寄ると、ちょうどフランティーヌが馬車から降りてきた。すると向こうも私に気付いたようじゃ。顔を赤くすると、慌てて襟元を手で隠した。
なんじゃ? と思ってよく見ると、襟元のボタンが締め切られておらず、ちょっと肌蹴ているみたいじゃった。表に人が居ないと思って油断しておったというところか。
しかし、襟がはだけているという事は……。ちっ! 落ち込んだとか言いながらやる事はやっておるのではないか。じゃが今フランティーヌに腹を立てても仕方あるまい。アキヒトもそっとしておくべきじゃ。憂さ晴らしは後からじっくりさせて貰おう。
「アキヒトの様子はどうじゃ?」
「はい。少し落ち着いていると思います」
フランティーヌはそう言いながら襟にやった手をもぞもぞと動かしている。どうやらばればれなのに気付かず、片手でこっそりと襟を止め様としているようじゃ。まぁいっこうに襟は止まらず無駄な努力みたいじゃが。
仕方が無いので気付かない振りをしてやり、さらに声を掛けた。
「それで、どうしたのじゃ?」
「アキヒトが喉が渇いたというので、お水を汲みに……」
「ああ、なるほどな」
そしてそこで会話は途切れなんとなく見詰め合ったが、しばらくするとフランティーヌが
「では、水を持っていかないといけないので……」
と私から背を向け、私も馬車の元から立ち去った。
夕食になってもアキヒトは馬車から降りてこず、フランティーヌがアキヒトの分をよそって馬車の中に持って行った。
その時エメルダからアキヒトの様子を聞かれたフランティーヌは、私にも言った様に
「落ち着いてきています」
と返答した。
そして夜になると、馬車の外で毛布で包まり1人で横になる。エメルダは相変わらず考え事を続け散るらしく、少し離れたところに横になった。
最近ずっと、エメルダがアキヒトの元へ行ったとき以外は1人で寝る事がなかった為、今日はエメルダではなくフランティーヌがアキヒトの元に居る事に違和感を感じながらも眠りに付いた。
朝、目が覚めるとすでにエメルダが朝食の用意を始めていた。本来ならアキヒトに教わりながらフランティーヌが用意するはずじゃが、さすがに今日はそうは行かなかったようじゃ。
そして準備が出来ると、アキヒトも馬車から降りてきた。なんじゃ大げさに落ち込んでおったと思ったら、たった1日で回復しとるじゃないか。
じゃがそのアキヒトの横にはフランティーヌが寄り添っている。そしてアキヒトに向かって微笑む。不意に私の脳裏に昨日のエメルダの、男性の女性の理想など簡単に変わるもの、という言葉が過ぎった。
ふっ。まぁそんな事はあるまい。じゃがまぁたまにはアキヒトに少しくらいサービスしてやるのも良いじゃろう。
「アキヒト。気持ち良い朝じゃな。もう大丈夫なのか?」
ととびっきりの笑顔で声を掛けた。そしてアキヒトは、
「うっ! うわぁぁぁ~~~~~~~~~~~~!!」
と絶叫した。
あれ?