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第13話:相手の言い分の方が正しい場合はどうしよう?

 さぁ、アキヒトよ! 今まで空気だったのを取り返すため、劇場版の○太のごとく、とうとつに大活躍するのじゃ!


 じゃがアキヒトが動く前に、また頭上からひび割れた鐘の声がする。


「王女を取り返しに来たか? 恐れを知らぬ事だが、それ以上に信義を知らぬ者よ」


 敵軍を追い払う代わりに王女を貰うと約束したのだから、その王女を取り返そうとするのは信義に反すると言いたいのか。


 フェンリルのいう事も一理あるが、王とはそう約束したとはいえ、肝心の王女が納得していまい。言い負かしてやろうかと私が口を開こうとすると、エメルダが先にアキヒトをけしかけた。


「いいから、早くフェンリルを倒してしまって」


「え? でもいいの?」


「いいから、早く!」


 まったくエメルダの強い者フェチぶりにも困ったものじゃな。そんなに早くフェンリルが肉隗になるのが見たいのか。じゃがエメルダの声を遮り、またもフェンリルが口を開いた。


「どうせ王女の承諾を得ていないと言いたいのだろ? だが、われが敵国の軍勢を追い払っていなければ、王女の命もなかった。敵軍を追い払った事で我は王女の命の恩人でもある。その王女を貰うのに何の問題があろうか」


 ちっ! 気に食わん。こっちの言いたい事を先回りして反論しおって。


「じゃが、それでも本人が承諾していないなら、余計なお世話であろう」


「では王女に聞こう。おぬし死んでも良かったのか? 死にたくないのに我に助けられた恩を感じぬ、などという事は許さん。死んでも良かったというのなら、今ここで死ね」


 フェンリルの言葉にみなの視線が王女に集中した。


「わ…わらわは……。そ……それは……」


 王女とはいえ所詮小娘。いきなり死ねだのという決断を迫られても答えられる訳も無いか。だがそこにまたもエメルダがアキヒトの耳元で囁いた。


「王女様が困ってるでしょ? 早くフェンリルを倒して」


 だがアキヒトはフェンリルを倒すのに戸惑いを感じているみたいで、

「え……でも……」

 と歯切れ悪く答えるだけで、いっこうにフェンリルを倒そうとしない。王女もそうじゃが、まったく決断力のない奴らばかりじゃ。


 エメルダはアキヒトの反応に苛立った様に、親指の爪を噛んでいる。そんなにフェンリルを倒すところを早く見たいのか?


 狼だけあって耳が良いらしく、エメルダの囁きはフェンリルにも聞こえたらしい。そして王女やアキヒトの反応をじれったいと思ったのは私だけではなく、フェンリルも同じ様じゃ。矛先をアキヒトへと向けてきた。


「まぁよい。王女を取り返そうにも、我を倒そうというのがその様な者では話にならん」

 そして私と王女へと向けていた顔をアキヒトへと向けた。


 やっと戦いが始まるのか? とアキヒトの傍から離れ岩陰に隠れる。エメルダもアキヒトへと視線を向けながらも続いて岩陰に隠れた。そして心配そうに口を開く。


「不味いわね……」


「どうしたのじゃ?」


「フェンリルの言い分は一理あるわ。アキヒトの性格じゃあ、それを聞いてしまってはフェンリルを倒すのをためらってしまうと思うの。一応前もって話は聞いていても、直接フェンリルの口から聞くのとはまた違うから」


「え? もしかして、それでさっきから早くフェンリルを倒してしまえと言い続けていたのか?」


「そうよ。なんだと思ってたのよ」


「いや、単にアキヒトがフェンリルを倒すところを早く見たいのかと思ってたんじゃ。でも、それならそうと早く言ってくれたら良かったのに」


「アキヒトが居る前で、フェンリルの言い分を聞いたらアキヒトが戦えなくなる。なんて言える訳無いでしょ」


「まぁ、それもそうじゃな」


 そして岩陰からアキヒトとフェンリルの様子をうかがうと、エメルダもそれにならう。フェンリルは、その巨大な頭部をアキヒトの眼前に差し出し睨んでいる。王女とダンジェも安全なところに避難したようで姿が見えない。


 じゃが、あんな巨大な狼と対峙して逃げないとはアキヒトも意外に肝が据わっている……。と思ってよく見るとアキヒトの足が震えている。なんじゃ? たんに足がすくんで動けないだけか。まぁ、絶対防御結界があるから大丈夫じゃろう。


 しかしエメルダにそんな事が分かる訳もなく、アキヒトに心配そうな視線を投げかけている。アキヒトがダンジェの剣を弾いたのは見ていても、フェンリルの攻撃は防げないと思っているんじゃな。


 フェンリルはアキヒトの眼前から顔を引くと、頭上からまたひび割れた鐘の声を発した。


「小僧。恨むなら身の程知らずなわが身を恨め」


 そして大きく口を開け、足がすくみ動けず光神槍破すら打つ事を忘れたアキヒトに噛み付いた。


「アキヒト!」

 と、その光景にエメルダが叫んだ。


 じゃが、私以外の誰もが噛み砕かれるアキヒトの姿を予測したじゃろうが、ガキッ! と大きく音が鳴り、フェンリルの牙はアキヒトの身体にわずかばかりも食い込まず防がれる。

 フェンリルは、ならばとアキヒトを岩にぶつけるためアキヒトを咥えて持ち上げようとしたが、ビクともしない。


 無駄よ。絶対防御結界は攻撃を通さないだけの物ではない。どんな物理現象も無効化する。敵の攻撃を防いだ挙句、振り回されて頭に血が上りすぎて死んだりしては馬鹿馬鹿しいのでちゃんと対策も考えておる。ちなみに海に落ちても絶対防御結界は水から酸素を取り出し呼吸が出来る。


 この世界で老衰以外の理由でアキヒトが死ぬとしたら、餓死くらいなものじゃな。そして光神槍破を撃てるアキヒトをどこかに閉じ込める事は出来ないのじゃ。


 フェンリルはどんなに力を込めようともアキヒトがビクともしないこの結果に驚き、後方に跳びすさって、アキヒトと距離を置いた。


「小僧……。きさまなに者だ」


「ぼっ僕は、神様から凄い力を授かっている。だから誰にも負けないんだ!」


 アキヒトは、フェンリルの攻撃を防ぎきった事に安心したのか、まだ少し震えてはいるが、フェンリルの問いに答えた。


 しかしもっとかっこ良い台詞が言えんのか? 我は神より使わされし勇者! とか。まぁ後で練習させよう。


 じゃが。とにかく今はフェンリルじゃ。とっとと勝負を付けようではないか。


「アキヒト! そんな大きいだけの狼など、早く倒してしまえ!」


「え? でも……フェンリルが悪い訳じゃないんじゃ……」


「何を言っておる。結果的に無事だっただけで、そいつはお前を殺そうとしたんじゃぞ! もはや王女の事は関係ない。自分を殺そうとした奴を倒すのに何をためらう事がある!」


「でも、大丈夫だったし……」


「え~~い。じれったい! 早く殺れと言っておろうに!」


 だがそこに私達のやり取りにフェンリルが怒りの咆哮をあげた。


「きさまら! 黙って聞いておれば我を舐めおって!」


 そしてまたもやアキヒトに跳びかかった。じゃが噛み付いても無駄と悟ったのか、踏み潰そうと前足をアキヒトに叩き付けた。じゃがやはり、アキヒトには何の衝撃も無い。衝撃をすべて無効化している為、アキヒトの足元の地面すらわずかばかりもめり込まず。何事も無かったように平らなままだ。


「お~~い。だから無駄なんじゃって。アキヒトの身体を守る絶対防御結界は、外部ダメージをすべて無効化する。弾くんじゃない。無効にするんじゃ。頑張ってどうにかなる代物ではないぞ」


 大声でフェンリルに向かって叫ぶと、自身の攻撃の結果もあってフェンリルは半信半疑、つまり半分信じた様子で、アキヒトから距離をとってその周囲を回り始めた。


 だがやはりアキヒトから攻撃しなくては、ラチがあかない。


「アキヒト! 何をやっておる! 光神槍破を早く打て。それで勝負は決まるんじゃ!」


 だがやはりアキヒトは

「でも……」

 と躊躇し攻撃しない。え~~い。まどろっこしい! 今のお前に必要なのは、漫画版の○太の優しさではなく、劇場版の○太の活躍というのに!


 するとエメルダが耳打ちをしてきた。


「やっぱり、アキヒトにはフェンリルを殺すのは無理なのよ。どうにかしてフェンリルを倒さずに解決する事は出来ないの?」


 フェンリルを倒さずにか……。単に王女を取り返すだけなら簡単なんじゃが、フェンリルが王女を取り返そうと王国に攻め込めば、王が約束を違えたのがばれる。


 まぁフェンリルに、王女と一緒に暮らしているとか、王女は病気で亡くなったとか口裏を合わして貰えれば問題ないじゃろう。そして王からの報酬については、王女が生きているという事を秘密にする口止め料として貰って置けばよいし。


 問題は、フェンリルが大人しくこっちのいう事を聞いてくれるかじゃな。あの手の魔物のくせに口が達者な奴は、口が達者なだけに言い負かすのは難しい。大人しくさせるには力を見せるのが手っ取り早かろう。


「アキヒト! 分かった。フェンリルは倒さなくて良い。じゃが大人しくさせる必要はある。光神槍破を手加減して撃て!」


「うん。ありがとう。でも手加減ってどれくらいなの?」


「う~ん。そうじゃな。フェンリルの大きさから見て、全力の10分の1くらいの威力で撃ってみよ。それだったら多分死なん」


 じゃが私の言葉に、アキヒトより先にエメルダが驚いて声を上げた。


「え? 10分の1? フェンリルを?」


「ああ、あれだったらそんなもんじゃろう。それ以上で撃ったら多分死ぬ」


「フェンリルを10分の1の威力で……」

 あ、なんかトリップしかかっているな。絶対今夜アキヒトのところに忍び込みそうじゃ。まったくこいつは。このままでは前言撤回して、やっぱりフェンリルを倒すところが見たいとか言い出しかねんな。


 じゃが私達の会話は耳の良いフェンリルに、またも聞こえていたらしい。


「我をその者の10分の1の力で倒すだと? 見くびるなよ小僧!」

 と、怒りをあらわにしてアキヒトに襲い掛かる気配を見せている。


 とはいえ自分の攻撃が通用しない事に、アキヒトを只者ではないと認識を改めてもいるらしい。やはりすぐには跳びかからず、アキヒトの周りを回っている。


「アキヒト。とっとと撃て」


「でも、10分の1って難しいよ。どれくらいの声の大きさだろう?」


 声の大きさで威力が決まる光神槍破の設定に、その声の大きさを計りかねているようじゃ。細かい事を気にする奴じゃな。それくらいフィーリングでどうにかしろよ。


「大丈夫じゃ。お前が10分の1ぐらいの声と思いながら叫べば、実際の大きさに関係なく10分の1の威力になるようになっておる」


「あ、うん。分かった」


 アキヒトはそう言って右手をフェンリルにかざした。その様子をエメルダは岩陰から身を乗り出して見入る。両手で自分の身体を強く抱きしめ、かなりの興奮状態のようじゃ。意外とまともな奴かと思い直しておったが、やっぱりこいつもおかしいな。


 そしてアキヒトは、私達に微かに聞こえる程度の声で、

「神から授かりし、聖なる光の槍。くらえ。光神槍破」

と呟いた。しかし、私が自分で考えたとはいえ、大声で言わないと逆に恥ずかしい台詞じゃな。


 その呟きと共にアキヒトの手から、声の小ささにそぐわないまぶしい光の槍が放たれる。だがその光の槍をフェンリルは、

「甘いわ!」

 と叫ぶと紙一重でかわした。光神槍破をかわせるとは、さすがは万の軍勢を一匹で蹴散らしただけの事はある。


「ふははっ! どれほど威力が強かろうと、よけれ――ぐはっ!」

 一旦はかわされた光の槍は、弧を描いて舞い戻り、油断しきったフェンリルの脇腹に直撃した。


「すまんな。光神槍破は絶対に当たるんじゃ」


 じゃが私の声は肝心のフェンリルに届かず、血反吐を吐き意識を失っている。どうやら見積もりを間違ったようじゃ。10分の1でも強かったか。本当にすまん。


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