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第12話:生意気な王女との対決

「神様そんなに怒らないでよ。先に神様が私を怒らせるような事したんじゃない。もう! ごめんなさいって。何度も謝ってるでしょ?」


 フェンリルの居る山の麓まで連れて行ってもらう為に馬車に揺られながらエメルダがなだめる様に声をかけてくる。


 あの後「はじらい」設定が全開となり、絶叫してのた打ち回った私は、部屋の隅で毛布に包まり枕を抱え、えぐっえぐっと、涙で枕を濡らし朝を迎えた。


 そして今もまだ、恥ずかしさのあまり頭を抱え顔を上げられない状態だったのじゃ。


「神様。そんなに気にしないで」

 とアキヒトも言うが、そもそもこいつがところ構わずサカるから行けないんじゃ。肩にかけてきたアキヒトの手を、パシッと弾いた。


 結局馬車に乗っている間、私は一言も喋らず目的地に着いた。道案内と馬車の御者を兼ねるダンジェも、私達の様子がおかしいのに気付いているのか必要最低限の事しか喋らない。


 馬車は城を出た後森に入り、その木々が生い茂る森を抜け、岩肌が露出しているところが多くなって来た頃、

「では、ここからは歩きます」

 とだけ言ってダンジェは馬車を降り先頭に立って歩き出す。


 そして私はその後を無言でさっさと追いかけ、その後ろに自分の荷物を背負ったエメルダと、自分のと私の荷物を背負ったアキヒトが慌てて追いかける。


 黙々と歩きながらも私の頭の中は、昨日の痴態をエメルダに見られてしまった事について頭が一杯だった。あんな事をしたり、あんなところをああしたり、あんな事を言ったのを、全部見られていたのだ。しゃれにならなさ過ぎる。


 いや落ち着け。何とか平常心になるんじゃ。神様としての能力があった時は、自分だって暇つぶしにと結構人のを見ていたじゃないか。勿論その時は自分は人間の姿ではなかったし、単に生物の生殖行為としか見ていなかったのじゃが。まぁそれは反省して今後は他の人間の行為は見ない事にするとして、とりあえず今どうするかじゃ。


 自分でもいつまでもこう言う状態を続ける訳には行かないと分かってはいるが、「はじらい」設定が働き、とてもではないが今はまともにエメルダと目を合わせる事が出来ない。


 私がそんな事を考えていると、エメルダが小走りに追いついてきた。そしてまた私になだめる様に声を掛けてくる。


「本当にごめんなさいって。まさか神様が泣くとは思ってなかったのよ。いつも偉そうで神経太そうだから、あれくらい大丈夫かなって」


 何気に失礼な事を言われている気がする。しかしこっちは「恥じらい」設定の所為で人一倍恥ずかしいところに、人一倍恥ずかしい事をしてたんじゃ。あんなところ見られたら泣くわ!


 じゃが、確かに「本来の私の性格」と「アキヒトの彼女」としての感情と「恥じらい」設定の発動がごちゃ混ぜになって、自分でも予測できない反応になってしまっているのは自覚しているが……。


 しかしあれか? 恥ずかしいが先に立って気付かなかったが、これは「神様なのに人間に苛められて泣いた」事になるのか? そう思うと余計に情けなくなってくる。これもみんなアキヒトが悪い。あんな時に襲ってくるから。


「とにかくいい加減機嫌を直して私の話を聞いてちょうだい。フェンリルを倒す時について言っておきたい事があるの」


 エメルダが真剣な声で言ってきたので、無視し続ける訳にも行かないとエメルダと目を合わせず無表情のまま

「なんじゃ?」

 と短く答えた。


「フェンリルを倒す時は、フェンリルが姿を見せた瞬間話を聞かずに倒した方が良いと思うの」


「どうしてじゃ?」

 とまた目を合わさずに答える。


「それは、フェンリルの話を聞いちゃったらアキヒトが――」


 とそこにアキヒトが追いついてきて、

「え? 僕の話?」

 と割り込んできた。


「エメルダが言うには、フェンリルが姿を見せたら話を聞く前に、有無を言わさず倒してしまえじゃと」

 とアキヒトとも目を合わせず答えた。


「ああ、そう言えば王様と約束をしたっていう事は、フェンリルって言葉を喋れるんだね。でもどうしてフェンリルの話を聞いちゃ行けないの?」


「え~とそれは……。当然、フェンリルを倒すところを早く見たいからよ」


「うん。じゃあなるべく早く倒すようにするね」


「ええ。お願いね」


 ん? なんじゃそれは? まったくエメルダの強い者フェチには困ったものじゃな。そんなにアキヒトが強いところを早く見たいのか。まぁ好きにするが良いわ。真剣な顔をして話があるとか言うから何かと思ったらくだらん。


 その後は、なんとなく無言のまま私達は固まって歩き続けた。時折エメルダが何か言いたそうだったが、まぁどうせまたくだらん事じゃろう。


 フェンリルのねぐらを目指していた私達が、完全に岩肌ばかりの場所に差し掛かると、先頭を進んでいたダンジェはおもむろに振り返った。


「もうそろそろフェンリルがねぐらとしている洞窟です。慎重に進みましょう」


 そして辺りを警戒しながらさらに進むと、前方に大きな岩山が見えてくる。

「あの岩山の麓にフェンリルの洞窟があります。ここからはさらに慎重に」


 ダンジェの言葉に、私達は岩陰に隠れながら少しずつ前に進む。ダンジェはフェンリルに見つかっては危険と考えている様じゃ。まぁ実際アキヒトに掛かればフェンリルといえど赤子の手を捻る様なものなんじゃがな。


 こうして進んでいるうちに、巨大な狼というフェンリルのねぐらに相応しい大きな洞窟の入り口が見えてくると、その入り口を出たところに人が居るのが見えた。


 ダンジェもその姿を見つけたらしく、振り返り小さな声で言った。


「姫様です」


 目を凝らしてみると、あの王の娘だけあって同じく金髪碧眼らしい。髪の長さは私と同じくらいじゃが、私の様に真っ直ぐではなくウェーブしている。目は私より少し丸い感じか。身体は全体的に細いみたいじゃな。そしてこんな岩山にはそぐわない金糸をあしらった純白のドレスを身につけている。身長は……ここからでは比較する者が居ないので良く分からんの。どうやら私よりは高そうなのじゃが。


 しかし……。あの王め。私の美貌の前では娘もかすむ、などと言っておったがお世辞だったか?


 アキヒトの理想の彼女を再現している私は、アキヒトのもっともタイプなはず。だから「アキヒトの彼女」設定が働いていても、たとえ私以上の美人でもその事自体で嫉妬する事はない。客観的な美醜より本人の好みかどうかの方が重要じゃからな。



 そして嫉妬心を介入させず冷静な目で見れば、あの王女は私に匹敵する美貌を有していた。


 エメルダからも王女の顔が見えたのか、アキヒトに微笑みながら耳打ちする。


「ずいぶん綺麗な娘じゃない。早くフェンリルを倒して連れて帰りましょう」


 なんじゃ? エメルダもずいぶんハーレムに積極的じゃの。いや、早くフェンリルを倒すところを見たいだけか?


 するとアキヒトは私に顔を向け、

「本当に良いの?」

 と聞いてきた。ちっ! 何度もハーレムに入れると言っておろうが、優柔不断な奴め。私に迫ってくる時は、異常に積極的なくせに。


「構わんから、とっととフェンリルを倒して貰って行くぞ」


 私達はダンジェを先頭にさらに王女に近寄っていく。そしてかなり接近したところで、ダンジェが王女の足元に小石を投げ、それに気付いた王女がこちらを向いた。


 ダンジェと王女は顔見知りらしくダンジェの姿を見つけた瞬間、救援に来たと察したのか笑顔となり小走りに近寄ってきた。近づいてみると確かに背は高いの。アキヒトと同じくらいはありそうじゃ。まぁこの世界の人間は言うなれば、アキヒトの世界で言うところの白人じゃし、アキヒトは日本人じゃからな。元の体格が違うのじゃろう。


「ダンジェよく来てくれました。あまりにも救援が遅いので、見捨てられたのかと心配しておったのです」


 いや、すでに見捨てられてるんじゃがな。と頭の中で突っ込んだが、まぁ今はまだ黙っておいてやった方が良かろう。ダンジェもしたたかなものでその様な事を尾首にも出さず、うやうやしく一礼しおる。


「姫様のお父上であらせられる国王陛下が、姫様を見捨てる訳は御座いません。ご安心を」


「しかし、どの様にしてフェンリルの元から逃げ出しましょう。フェンリルは万の軍勢を一匹で蹴散らす化け物。それに私の服には奴の匂いが染み付けられており、フェンリルには私の居場所が分かるのです。今は洞窟の近くなので捨て置かれていますが、あまり遠くに行くとフェンリルが連れ戻しに来ます」


 ダンジェは王女の懸念を晴らす為、再度一礼した後王女を安心させる様に微笑を浮かべた。はたから見ていれば、本心からの忠義者に見える。本当は見捨てているくせに。


「姫様ご安心下さい。フェンリルの元より逃げ出すのでは御座いません。フェンリルを倒せる勇者を連れてまいりました」


 だが王女は辺りを見渡した後、何が気に食わないのか喜ぶどころか眉を潜め不満そうな顔になっている。


「どこにその勇者が居るというのです。ここには貴方と貴方の従者と婢女はしため(下女)だけではないですか」


 アキヒトを従者と間違えるのは仕方ないとしても、私を婢女と間違えるとは無礼な奴。やっぱり助けるのを止めてここに置いていってやろうか。


 しかし私が口を開く前にダンジェが慌てて取り繕った。


「姫様。そうでは御座いません。こちらのアキヒト殿がそのフェンリルを倒せる勇者なので御座います」


 だがそうは言われても、やはりアキヒトが勇者には見えないらしく、疑わしげな目をダンジェに向けている。まぁ無理も無いんじゃが。フェンリルどころかそこらへんにいる犬にも負けそうだし。


「この者がフェンリルを? 分かっているのですか? もし逃げようとしてフェンリルに見つかり倒せなければ、わらわは連れ戻されるだけですが、そなた達の命は無いのですよ?」


 ほう。一応私達の身を案じてはくれているのか。思ったよりはまともそうな王女じゃな。だがさすがにここで問答を続けるのも飽きてきた。


「もう良いじゃろう。お前がどう思おうと、私達がここまで来たのは勝てると考えてのうえじゃ。失敗してもお前の命は保障されるというなら、こっちの好きにさせて貰うぞ。取りあえずお前がここから離れればフェンリルが追って来るのであろう。そしたら倒してやるから、さっさと行くぞ」


「お前……。そなた誰に向かって口を利いていると思っているのです! わらわはカスタニエ王国第一王女フランティーヌなのですよ! それをお前とは……。この無礼者!」


 ちっ! せっかくまともかと見直してやっていたのに、お前こそ誰に向かって口を利いていると思ってる!


「無礼なのはお前じゃ。私を誰と思っておる。神様じゃぞ!」


「神様……? そなたは何を言っているのです。ダンジェ! この者は気が違っています!」


 王女はそう言って私を指差している。神様に向かって気が違っていると言った上に、指差すとは無礼にも程があるぞ! 神に対してそれこそ気が違った様な振る舞いじゃ。


「お前こそ気が違っておるぞ! 口を慎め!」

 と王女を指差した。


「わらわを指差すとは、何たる事! ダンジェこの者を黙らせなさい!」


 だがそのダンジェもフェンリルを倒せる勇者であるアキヒトならともかく、私の立場がアキヒトにとってどういうものか計りかねているらしい。有能そうな男じゃが、王女をたしなめるか、それとも私を黙らせるか、さすがに態度を決めかねている。


 不意に私達の周囲が突然雲でかげった様に暗くなった。見上げるとそこには、体長50メートルはあろうかという巨大な灰色狼。フェンリルが私達を見下ろしていた。


 さすがは狼。この巨体で足音すら立てずにここまで近寄ってきたとは。そして頭上からひび割れた鐘の様な声がする。


「お前らうるさい」


 まぁ結果オーライとしておこう。


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