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魔王の生涯

作者: 朔島 涼
掲載日:2026/05/11

俺は魔人族の末裔であり、おそらく最後の生き残りだろう。物心がついてから今まで、同族に会った事がないからだ。


三千年前の人間族と魔人族との戦争で、数が圧倒的に劣る魔人族が負けたのだと何処かで耳にした。当時赤子であった俺は、森の中に隠され何とか生き延びたようだ。人間と違い、魔力さえ尽きなければ何ヶ月も何も食べなくても死ぬことはない。俺自身に保護魔法がかけられていたため、魔獣などに喰われる事もなかった。


森の中で、魔獣と同じような生活を何十年何百年と続けてきた頃、俺は人生の中で一番大切になる人と出会った。彼女はまだ子どもで、なぜ一人であんな森の中にいたのかも分からない。ただ、膨大な魔力を宿していたため、一瞬同族かもと思ったが、彼女は正真正銘人間族の子どもであった。


「こんなところに、子ども?」

彼女は何か話したが、言葉が分からない。


「大丈夫よ、怖がらないで。」

急に抱きしめられて撫でられ、暖かな光に包まれたと思ったら……俺は彼女の従魔になっていた。


「ええっ?!あなた人間じゃないの?!」

女はとても驚いていた。


言葉が分かるようになってからこの時のことを聞いたが、俺の事を孤児だと思った彼女が引き取って自分の従者に育てようとしていたらしい。無自覚で魔人族を従魔にしてしまう子ども。本当に無茶苦茶な女だった。


「私はエヴァ。よろしくね。」

「……。」

言葉が分からない俺は無言で目の前の女を威嚇する。

「……言葉が分からないのかしら。」

女は動じることはなく、困った顔で首を傾げる。

「とりあえす名前がないと不便だわ。じゃあ……今日からあなたの名前はアダムね。」

そう言ってにこりと微笑んだ。その日から俺を呼ぶための言葉はアダムとなった。



俺は森の中で必要最低限の栄養しか摂っていなかったため、子どものような見た目であったが、彼女のもとで栄養のある食事を摂るようになると、あっという間に成人の姿となり、周りを驚かせた。


「アダムは成長期なのね。いっぱい食べてね。」

彼女はいつでも笑顔だった。



契約魔法が発動した事で、俺が魔物の類だと気がついたようだが、彼女は予定通り俺を従者にすべく育ててくれた。言葉や一般常識はもちろん、貴族のマナーもそこで身につけた。言葉での意思疎通が問題なくなってくると、自分と同じ授業も俺に受けさせるようになった。


「アダムは賢いのね。すぐに私よりもすごい魔法使いになるわ。」

一緒に机を並べて勉強し、彼女はいつでも俺を褒めてくれた。



しかし俺は永遠に彼女に振り回され続けた。

「アダム!危ない!」

「は?」

ドン!ガラガラ……ガッシャン……。

彼女の膨大な魔力の暴走に巻き込まれて瓦礫の下敷きになったり。


「アダムー。ごめーん。」

ずっどーーーーん。

直接彼女の魔法に吹き飛ばされたり。


「きゃーーーー、アダーーーム!」

「………。」

どっしーーーーーん。

浮遊の練習中、俺だけ魔法を解かれて落とされたり。


「アダム……消えた。」

彼女が不用意に踏んだトラップが発動し、慌てて彼女を魔法陣の外に突き飛ばしたが、自分は訳の分からない場所まで飛ばされたり。


「うわーーーーん。アダム、無事で良かったよーーー。」

「ぐふ………。」

やっと見つけてもらったと思ったら、思い切り抱きしめられて締め殺されそうになったり。


本当に破茶滅茶で騒がしい女であったが、何百年と森で一人ぼっちでいた私にとっては唯一の大切な人であった。



「結婚かあー。まだまだ先の話だと思ってたな。」

「はあ?お前、結婚するのか?」

「いやいや、私の話じゃないよ。学園の友だちが卒業したらすぐに結婚するんだって。」

「……そうかよ。」


彼女が大人になり、婚期が近くなると今度は周りが騒がしくなり始めた。どうしても誰にも渡したくなくて、俺は彼女を困らせてしまった。


「俺は一生お前から離れる気はないからな。お前が勝手に従魔にしたんだ。最期まで責任を取れ。」

「そうだよねー。アダムが一緒じゃ、結婚は無理か。まあ、アダムと一緒に居られるだけで私は嬉しいよ。」

彼女はそう言ってニッと口角を上げて笑った。俺と一緒にいる事を選んでくれて本当に嬉しかった。



見た目の変わらない俺を人目から隠すため、二人で山奥で暮らそうと彼女は提案して来た。

「お前と一緒にいられるなら、俺は何処でもいい。」

そう答えると、彼女は困ったように笑った。


全く歳を取らない俺とは違い、彼女は徐々に大人の女性に成長していった。そして人間の女を伴侶としても、長く一緒にいられない事を覚悟していたが、彼女は本当に長生きだった。俺の傍にいる影響なのか、人間族の寿命の十倍もの時間を一緒に過ごしてくれた。もしかすると、元々魔力が高かったのも、寿命が長かったのも、祖先のどこかで魔族の血が入っていて隔世遺伝をしたのもしれない。



それでもやはりゆっくりと彼女は年老いていき、別れの時は訪れた。

「ごめんね……やっぱり最期までは一緒に居られなかった。めちゃくちゃ……頑張ったんだけどね。アダム……今までありがとう。」

彼女は泣きながら笑い、そして息を引きとった。


彼女がいなくなってしまった時の悲しみは今でも思い出したくない。彼女のいない時間を過ごすのは耐え難く、彼女の亡骸と一緒に洞窟の奥深くで眠る事にした。入り口を塞ぎ、保護魔法をかけて洞窟全体を自ら封印してして深い眠りについた。



しかし千年ほどたった頃、人間の手によってその洞窟が突然爆破されたのだ。長い間眠っていた事で、魔力が落ちて保護魔法の効果も薄れていたのだろう。強靭な自分の肉体はびくともしなかったが、彼女の亡骸は跡形もなく吹き飛んでしまっていた。


「うわあああああああーーーーーーーーー!」

泣き叫び、怒り狂って理性が吹き飛んだ。俺はその後数ヶ月の記憶がない。



気がついた時にはサルヴァ山と呼ばれる山にいて、彼女と出会う前と同じ子どもの姿に戻っていた。今までの事が全て悪夢だったかのような錯覚に陥る。もう全てが嫌になり、俺は洞窟で再び眠ろうとした。二度と人間に邪魔されぬよう周囲の魔獣を暴れさせて。


それから数ヶ月後、またもや変な女に出会った。

「ふふふ……ご契約ありがとうございます!」

そいつもまた、俺に契約魔法をかけた。そんな女がこの世に二人もいるとは思わなかったので本当に驚いた。しかしこの女は、綿密に計画を立てた上で、さらに契約魔法をアレンジしたと言う。彼女とはまた違う方向に無茶苦茶だと思う。名はエレノアと名乗った。



その後もエレノアは凄かった。

「ジャーン!これが貴方の城よ、アダム。」

まずは一週間で俺の寝床という名目の城を建てた。

「まあ、いいんじゃない?あの洞窟に比べれば百倍マシ。」

「百倍どころじゃないはずよ!ベッドは私が魔術式組み込んでるから、すごくよく眠れると思うわ。」

素直に喜べない俺に、エレノアは優しい笑顔で応えてくれた。


俺のための土人形の使用人を百人も作って動かしていた。

「私と契約魔法結んでるから、魔力が私のと似たものになってるはずなの。だから、アダムの魔力でも私の土人形ちゃんたちを動かせると思う。そうすれば、この城はアダムが生きている限り稼働できるし、城の保護魔法も効き続けるわ。」


そして俺の未来の事まで気を配り、手を回してくれていた。

「きっとアダムの方が長生きだから、私がいなくなった後のことも心配だったの。魔力供給元さえ維持できれば、何とでもなる!」

自分が居なくなっても一人ぼっちにならないようにと。

「おい、勝手にいなくなるなよ。」

エレノアの気持ちがすごく嬉しかったが、俺はやはり可愛げのない反応をしてしまった。



エレノアは王太子妃になる女でありながら、国境に国防拠点を兼ねたカフェを四店舗も経営しているらしい。これで人間だという。もはや怖いと思った。だが本当に面倒見のいい女で、用もないのに俺の様子を時々見に来てくれる。エレノアもすでに大切な人間になっていた。


しかし、今度は大切な人間が一人だけではない。エレノアの婚約者であるリヒトも、リヒトの叔父のイザークも俺の城を作るためにあちこち飛び回ってくれていたらしい。エレノアの周りには優しくて凄い奴しかいない。


エレノアとリヒトは今まで紆余曲折あったようだが、二人には幸せになってほしいと思う。彼女のように自分のものにしたいとも思わない。もう二度と悲しい思いをしたくないという気持ちも否定しないが、それ以上に祝福したい気持ちの方が大きい。我が儘だと分かっていたし、困らせるかもしれないと思ったが、結婚式に行きたいと伝えてしまった。


「なあ、それ俺も行っちゃだめか?」

「結婚式だよ?ただの儀式だよ?行きたい?」

「うん。行きたい。」


エレノアは一瞬戸惑いの表情を見せたが、次の瞬間からどうしたら可能になるかを一生懸命考えてくれた。こういう所が大好きだと思う。


「アダムの私たちをお祝いしたいと言う思いを無下にはしたくない。協力してくれないか?」

エレノアとリヒトは隣国の王太子であるレオナルドに協力を仰いだ。彼の親戚として結婚式に忍び込む作戦だ。

「はぁ……二人のご要望とあらば、仕方がありませんね。」

ため息を吐きながらもレオナルドが了承してくれた事に俺はホッと胸を撫で下ろした。

「レオナルド様、よろしくお願いします。」

俺は生まれて初めて、こんなにも丁寧にお礼を言った。ほとんど無意識だった。それほどに二人を祝える事が嬉しかったのだろう。


「とはいえ、アダムと俺じゃ絶対に親戚には見えないんじゃないか?」

レオナルドの不安を払拭するため、俺は彼の外見に似せて自身に変身魔法をかけた。

「すごいな魔法って!こんなことも出来るんだな。」

レオナルドはキラキラとした瞳で俺を見つめる。畏怖の対象として視線を向けられる事は慣れているが、こんなに前向きな感情を乗せて見つめられる事に驚きと何だかこそばゆいそうな感覚を覚える。

「改めてよろしくな。親戚の設定だ、仲良くしていこう。」

「……うん。」


そして俺は無事にエレノアの結婚式に出席する事ができた。その作戦を快諾してくれたリヒトも、協力してくれたレオナルドも皆んな大好きだ。彼らが生きている限り、感謝を伝え続けていけたらと思う。


意識のない間、俺はとんでもない事をしでかしていたかもしれない。エレノアの国では大きな被害は出ていなかったらしいが迷惑をかけてしまった事に変わりはない。こんな俺に……魔王と呼ばれた男に、もう一度人らしく生きられる機会をくれた事。未来をくれた事。仲間をくれた事。本当にありがとう。俺はもう二度と間違わないと誓う。その命尽きるまで。

お読み頂きありがとうございます。

こちらの連載作品の一話でした。

【完結済】守ってあげたい蠱惑姫と思いきや、1人で何でも出来る孤独姫でした〜捕まえておけないので自由にさせておきます〜

https://ncode.syosetu.com/n3109lv/


アダムのスピンオフのつもりで書き始めた作品が、思わぬ大作になっております。そしてアダムはほとんど出て来ません。

【第二部完結】ヒロインは早々にシナリオから離脱したい

https://ncode.syosetu.com/n3102lv/


アダムがなぜ子どもの姿に戻ってしまったのか、なぜサルヴァ山にいたのかなどの謎は解けるかと思います。アダムの性格が少し変化した理由も……。


こちらもお立ち寄り頂けると嬉しいです。


では。

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