なんかオレの体が正しく第二次性徴しないんだが?
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オレは和泉アキラ。14歳の男子中学生だ。
今日もいつも通り地域の中学に通っている。
女子達がオレに手を振っている。いつものことだ。
「アキラちゃーん!おはよー!」
「おう。おはよう」
そこへ男子友達が寄ってきて肩を組んでくる。
「アキラおはよう、今朝も撫で心地いいなー。いい匂いするしなんか落ち着くわ―」
「ノブ、頭を撫るな!吸うな!」
こいつは田中ノブヒロ。幼馴染だがいつもベタベタしてきてうざい。
昔から一緒にゲームしたり近くの廃墟で探検ごっこなんかもした仲なんだが、中学に入ったぐらいからちょっとおかしくなった。
「おーい、ノブ!もう朝練始まってるぞ!はよ来い!」
ノブの先輩だ。朝練に遅れたノブを見つけて呼びに来たらしい。
そう。こいつはオレと違って体育会系で、柔道部に入ったんだ。
「うぃーっす!わりいアキラ行ってくるわ。でも、お前と別れるのはちょっと淋しい」
そう言ってノブはオレに抱きついてくる。マジでうざい。なんか女子達が見てるし。
「はあ。いちいちキモい。はやく行けよ」
オレはそう言ってノブに肘を入れて、引き剥がす。
「うっわ…ひっど。さすがの俺も傷つくわ...」
ノブが少し悲しそうな顔をするが、わざとらしい。
「て、冗談だよアハハ、じゃあな」
拳を握って睨みつけると、戯けるようにダッシュで体育館に走っていくノブ。
「ったく...。アイツは」
今日は視聴覚室でとある授業が行われている。いわゆる性教育というやつだ。
プロジェクターでビデオを流していて、子作りの方法、子宮で赤ちゃんが生まれる様子などをナレーターが生物学的に淡々と述べている感じ。
担任は教室の後ろで前かがみになる男子達や、キャーキャー騒ぐ女子達を生暖かい目で見ている。
『このように、男子女子は思春期頃に性ホルモンが増加し、男子は男性らしく、女子は女性らしく体が変化していきます。これを第二次性徴と呼び...』
この部分で前の席に座るノブがオレへ怪訝そうに振り向く。
「なんだよ...」
「お前、...なんでもない」
正直に言うと、実はオレの体は最近、若干女性的になっている気がしている。胸がズキズキしていて中に硬い脂肪の皿のようなものができている。
誰かに相談しようか迷っていたが、恥ずかしくて誰にも言えていないのが現状だ。
『しかしながら、思春期は体内の性ホルモンの分泌が活発であり、男性も乳房が膨らむ場合もあります。これは一時的なものであり、大人になるにつれて自然に消えていきます。』
そういうことか。オレはちょっとホッとする。一時的な症状ということならば、誰にも話さず墓まで持っていけば良い。
またノブが振り向く。まだ納得がいっていないという表情だ。
「いや、だからなんだよ?」
「...」
ノブはそのまま前を向くと真剣そうにノートを取っていた。
今日の体育は柔道の授業だ。朝からノブが張り切っていやがった。まあ自分の部活の競技だからそりゃ張り切るよな。
オレはみんなと一緒に更衣室へと入る。みんな制服を脱ぎ始め、あっというまに男祭り真っ只中だ。
そんな中、オレは更衣室の隅でこっそりと着替える。一応上半身はタンクトップタイプの下着を着ているが、まだ若干乳首が目立つので壁向きで早着替えだ。
「和泉~、なんかお前セクシーだな」
桜庭トオルだ。いちいちオレの成長の遅れている体にちょっかい出してくる嫌なやつだ。なんでこんな時にまで。
オレは無視して着替えてそのまま出ようとするが、桜庭が出口を封鎖しやがった。
「なんだよ桜庭。じゃまだろ?どけよ!」
温厚なオレでも流石にイライラして強い口調になる。
「おー、アキラちゃんこわーい。通りたかったらどかしてみろよ」
ギャハハハと後ろからも笑い声がする。桜庭のグループだろう。
くそう。こんな時にノブがいてくれたら…。あいつなんで居ないんだ?トイレか?
いや待て、なんでオレはノブに頼ろうとしてるんだ?オレは男だろ。ここは自分自身でこいつをどかさないと。
「わかった。やってやるよ!」
オレは桜庭に組みかかり、足技をかけようとする。ノブとよくじゃれ合ったりしていたので、柔道技は多少知っているからだ。
しかし、桜庭はなんなく躱す。ちくしょう。
「おっと、あぶねーあぶねー。和泉の足がもうちょっと長ければ危なかったな」
桜庭の言うことは正しい。俺の身長は中学一年の頃からほとんど伸びず、157センチ。桜庭は160台中盤と行ったところ。
身長と手足の長さは組合ではかなりの不利になる。
「じゃあ俺からもいっちょしかけますかー」
桜庭はそう言うとオレの道着の襟をぐいっと引っ張り、投げの体制に入る。
オレもそうは行かないと、必死に体幹で耐える。
ズリッ。
オレの道着の上半身部分が帯から抜けていく。やばい。このままだと…。
「おやあ?和泉ィ?このシミはなにかな?おっぱい出ちゃった?それになんかいい匂いしねーか?乳臭いっていうか」
くそっ。言われた通り、最近胸がムズムズしていて、たまにマッサージすると膿みたいなのが出るのだ。匂いは牛乳っぽい。それがタンクトップのシミになってしまっている。ここまで変化するとは思ってなかった。正直最近心配になってきていた。
オレは桜庭の挑発を無視しつつ桜庭の内股に思いっきり蹴りを入れて内掛けにして横に倒す。
ズリズリッ。
桜庭を倒したことで奴が握っていた襟が引きずられ、ついにオレの道着は崩壊状態になる。
その姿は後ろからオレを見ていた奴らにも丸見えだ。くそっ。
おれは咄嗟に胸を隠し、回れ右して出口に向かいながら道着を整える。
「おいアキラ、どうした?」
と、そこへノブが現れた。
アキラは一瞬オレの道着を一瞥し、更衣室の方を睨む。そこには無様に転り起き上がろうとする桜庭と、起こそうとするその取り巻き達がいる。
何かを察したノブは、更衣室へズカズカと向かう。
「おい、ノブ…」
嫌な予感がして止めようとしたが、ノブの勢いは止まらない。
「おい桜庭、てめえアキラになにしやがった?」
「はー?別に。ちょっと入口塞いでただけだったのに、アイツが暴れてさー。だよなー?」
取り巻きたちがクスクス笑っている。
「おい坂下、お前も見てたんだろ?詳しく教えろ」
「坂下も見てたよな?和泉が暴れてオレを転ばせたところ」
「お前は黙ってろ桜庭!おれは坂下に聞いてんだよ」
「おう怖い怖い」
坂下はオレのクラスでは真面目くんで、言わば中立な子だ。おそらく嘘は言わないだろう。
「さ、桜庭くんが、入口を塞ぎ、和泉くんは桜庭くんを柔道技で倒した。そ、そのとき」
「その時?」
「和泉くんの道着が着崩れて、む、胸が見えて、その…」
「もういい。わかった。ありがとう坂下。もう行っていいぞ」
オレからはノブの後ろ姿しか見えず、ノブが優しい声で坂下に感謝を言っているように見えたが、坂下はその顔を見て「ヒィ」と驚きながら更衣室から出て来て、オレは首をひねる。
「桜庭、てめーは許さね―」
ノブが指を鳴らしながら桜庭へゆっくりと歩いていく。
「は?田中お前柔道部だろ?柔道部員が手を出すのか?お前退部だぞ?いいのか?」
悪い予感が当たった。ノブのやつ、ブチギレてる。止めなきゃ。オレのせいだし。
「ノブ!やめとけ!オレはもういいから!」
「アキラはそこで見てろ!俺はこいつにケジメつけさせる」
そこからは、一瞬だった。ノブが桜庭を華麗に一本背負い、関節技を決めて締め付け、そして桜庭がオレに謝るまでやめなかった。
「痛い痛い痛い!悪かった!悪かったって!和泉くんごめんなさい!ごめんなさい!」
「こら!何やってる!田中!おいやめろ!」
ちょうど間の悪いことに、体育顧問が体育館に来てしまい、喧嘩両成敗として桜庭とノブは正座をさせられ、授業を受けさせてもらえなかった。
ノブは柔道部員として柔道技を使ったことに対して、警告を受けたが、桜庭にも大した怪我はなかったため、退部にはならなかった。
ノブは不服そうだったが、オレは心配が晴れてホッとしていた。あとちょっとその時のノブがかっこよく見えた。
それから一年が過ぎた。オレ達は3年生になり、みんなの体も第二次性徴を過ぎて大人っぽくなってきている。
しかしオレはと言うと…。
「アキラちゃーん!今日みんなと一緒にカラオケ行かない?」
なぜか最近女子の友だちが増えていた。こいつは松田アヤ。やたらとオレを引っ張り回し、女子サークルに引っ張り込んでくるやつである。いやオレ男なんだが?
「え、先週も行ったじゃん」
「だってアキラちゃん歌もうまいし、着替えたらレディースデイも使えるしいいじゃん」
そうなのだ。オレは何故か第二次性徴の恩恵を正しく受けていなかった。正確に言うと全く真逆の方向へ向かっていた。
まず胸。初期の硬い皿は消えて丸いしこりになり、その周りがふにゃふにゃと膨らみ始め、もはや言い逃れのできないおっぱいになってきている。
オレにはそういう趣味はないのだが、流石に擦れて痛くて困るのでネットでポチったスポブラをしている。例の柔道の授業のことを話すと、話を聞いた女子達に怒られてしまい、無理やりスポブラを買わされてしまった。つまり仕方なくしている。大事なことなのでもう一度言うが、本当にそういう趣味ではない。マジで困るので早く治ってほしいものだ。
次に声だ。オレの声は相変わらずのソプラノボイスのままである。周りの男どもは遅いやつでも3年になるとみんな声変わりして、合唱コンクールではオレ一人が女子組に入れられ、それ以来、オレだけ男子の中で浮いてしまい、今までのようには付き合いにくい雰囲気になって困ってきている。
「アヤ。アキラは今日は俺とカラオケ行くんだ。邪魔すんなよな」
「ほぉ。あんた達やっぱりそういう関係なんだ」
「そうだぞ。俺とアキラは昔からの付き合いだからな。相思相愛だもんな。ハハハ」
ノブの発言に周りの女子がキャーキャー騒いでいる。正直やめて欲しい。
「変な言い方すんな。勘違いされるだろ?」
ノブは相変わらずである。オレがだんだん男友達と疎遠になりかけていても、こいつだけは以前と変わらず付き合ってくれている。
「つーか、ノブも一緒に行けばいいだろ。お前も彼女作れるかも知れないぞ?」
「「は?」」
オレがノブを気遣って言った一言が二人をフリーズさせる。
「いや、オレ何か変なこと言ったか?」
「いやー...、アキラちゃん、もしかしてちょっと鈍感系?まあ、それはそれでありか...」
「アキラ、何か勘違いしているけど、俺はお前がいれば彼女はいらないぞ?」
そう言いながらノブが抱きついてくる。こいつの最近のキャラマジでキモい。今日こそは強めに言う必要があるだろう。
「あーもう!ノブ!!!勘違いされるから教室で抱きついてくるなっていつも言ってるだろ!男同士だぞ。普通に考えてキモいだろ?いい加減にしろよ!そういう事するならもう絶交だ!!!」
流石にこれには堪えたのか、ノブがオレからゆっくり離れた。「え?アキラちゃん、教室以外なら良いの?」というアヤの声は無視だ。
珍しくオレが大声を出したせいで、何事かと放課後の教室はシン、と静まり返った。
オレはノブを睨みつける。
ノブは俯いているが、何を考えているのかいきなり「くくく」と笑い始める。
そして―、ノブは急にオレの腕を掴むと、その横に自分のたくましい腕を並べてこう言ったのだ。
「男同士か。アキラ。よく見ろ。お前の細い腕とオレの腕。なあ。これが同じに見えるのか?」
「は?」
オレはノブの言っている言葉の意味が良くわからなかった。第二次性徴は遅れているが、いずれオレも男らしい体になれるはずで、事実オレは紛れもない男だ。遺伝子も異常はなかったと聞いているし、男の証もちゃんとついている。
「は、じゃなくてさ。俺はアキラが男とか女とかどうでもいいんだよ。俺が!お前のことが好きなんだよ。別に男とか女とかどうでもいいだろ?」
静まり返っていた教室が途端に騒がしくなり、「うっそー」とか「まじかよ」などという声が聞こえてくる。
ノブの顔は真剣だった。
こいつ。とうとう言いやがった。クソこっちまで恥ずかしい。心臓の音が煩い。顔がだんだん火照ってきた。少し頭がパニックになってきた。なんなんだまじで。どうすりゃ良いんだ。
「アキラちゃん、ちょっとノブっちが可哀想だよ。ここまで言われたならもう付き合えばいいじゃん。今ってLGBTとか理解のある世の中だし、今どき男とか女とか気にしなくていいよ」
アヤまで便乗して変なことを言い始めた。勘弁してくれよ。
「だから、アヤもちょっと待って。オレはいつも言ってるが、ちゃんと男だぞ?ちゃんと付いてるし生物学的にもちゃんと男。ほら、触ってみる?それに今は若干女みたいになってるけど、大人になったらちゃんと男になるんだぞ?」
オレの「触ってみる?」のとこでノブの手が股間に近づいてきたので、無視しつつ掴み上げる。
しかしそれでもアヤは引き下がらない。
「じゃあ、それはいつ?」
いつって、そんなのオレにも分かるわけ無いだろ。人よりも第二次性徴が遅れているんだ。なんでオレが責められないといけないんだ。
「いつかは知らないよ。そのうち治るはずだろ」
オレが憮然と答えると、アヤが急に怒り始めた。
「信じらんない!あんたちゃんと病院行って検査してないの?」
「それは俺も気になってた。どうなんだ?アキラ」
え?だって…。思春期ならよくあることなんだろ?保健の授業で言ってたし…
口ごもるオレにクラスのみんなの視線も集まってくる。
これは正直に言うしかない。
「……行って、ないです」
みんなが一斉にため息を吐いた。
「アキラちゃん。あのね?自覚あるかわかんないけど、あなたの体、おしりも大きしくびれもあって腰回りも上がってるでしょう?。思春期だからってそこまで女の体つきになるわけが無いの。私もひとつ下の弟がいるけど、普通の男子はせいぜい胸がちょっとかゆくなるくらいなのよ」
それを聞いてオレは愕然としてへたり込む。今まで信じていたものが、オレの男としての将来が粉々になり崩れていく。
時が止まったかのようにキーンと耳鳴りがする。
そういうものだと思っていたが、言われてみれば確かに自覚はあった。背中側のおしりの上の方にも脂肪がついてきて、ちょっと前に履けていたズボンがキツく、股上が足りない気がしていた。やはりおかしかったのか。
「病院行こう。産婦人科ならしってるから、あたしも一緒について行ってあげる」
「心配すんな。オレもついてってやるぞアキラ。立てないならお姫様抱っこしてやろうか?」
「あら松田さんこんにちは。えっと…今日はどなたの診察をご希望ですか?」
「この子です。ほらアキラちゃん」
「はい。オレです」
「初診ですか?ではまずはこちらご記入下さい」
オレ達は一旦家に帰ってから着替えるとアヤの案内で近所のレディースクリニックに来ていた。
オレはあれから頭が真っ白で、ノブ達の言葉も耳に入ってこなくなっていた。オレはもう男に戻れないのかとか失われた将来設計を惜しんだり頭の中がぐるぐるだ。
そんなオレの様子を見てか、ノブにお姫様抱っこされそうになったが、全力で拒否したのは言うまでもない。ちょっとクラス中の視線が痛かったが。
「名前は書いたけど、なんて説明すれば良いんだ?」
「そうねー。ここの『症状の詳細』のところに、いまのアキラちゃんの状態のことについて詳しく書けば良いわ」
産婦人科という場所に緊張してしまうが、アヤがいろいろ教えてくれてマジで助かる。あとノブが居ることも多少なりとも不安感を紛らしてくれていた。
ノブはいつもより静かにしているが落ち着かない様子で病院内をキョロキョロと見回している。待っている他の患者さんに睨まれているのは一体どうしてなのか。
アヤはノブが居ると変に誤解されそうだから来なくていいと言ったが、頑なについてくると言って聞かなかった。やはり妙な誤解を受けているじゃないか。ばかなやつめ。
「書きました」
「ありがとうございます。えっとー…? なるほど。わかりました。少々そのままお待ち下さい」
受付の女性が保険証と問診票を何度も見比べて確認すると、頭に疑問符がついたような顔になり慌てたように奥に入っていく。
オレ達みたいな、こんな中学生だけで来て追い返されないかと思ったが、特に何も言われなくて驚きだ。
産婦人科だと若い女性の妊娠などもあるし、そのへんは緩いのかもしれないな。
「武藤さーん。おまたせしました。こちらへどうぞ」
一緒に待っていた女性が診察室へ案内され、待合室はオレ達だけになる。
「あの女ずっーと俺のこと睨んできてて、めっちゃ感じ悪かったわ」
「そりゃ産婦人科でこんな若い子に付き添いで来る男なんてクズと思われても仕方ないわよ」
「クズ…まじか」
ノブのボヤキにアヤがくすくすと笑いながらからかっている。
オレはさっきの受付の人の反応がなんであんな深刻そうな顔してたんだろう、と気になっていて緊張していたが、ノブが凹んでいるのを見ると少し和む。
「和泉さーん、こちらへどうぞ」
名前を呼ばれるとビクッとなる。やっぱ病院って緊張するなあ。
「あ、付き添いの方はそのままお待ち下さい」
アヤとノブも一緒に立ち上がって付いて来ようとしたが看護師さんに止められていた。
アヤは「そうか」と納得していたようだが、ノブはピンと来ていないようだった。オレにも理由はわからないが。
オレは言われるがまま看護師さんに案内され診察室へ入る。
待っていたのは若い男性の先生だった。産婦人科って女医さんだけじゃないんだな。
「和泉さん、えーと。15歳。胸の膨らみと腰回りの違和感…。うーん?」
先生は問診票を読むと不思議そうにオレに視線を移す。緊張で唾を飲んでしまうが、聞きたいことを聞いてみよう。
「あ、あの、思春期の第二次性徴が遅れている感じだと思ってたんですが、友人になんか変だと言われまして、検査してほしいと思ったんです」
「そうですか?見たところ、あなたはおっしゃるほど、遅れてはいないと思うけれど」
あ、もしかして先生も誤解してる?
「先生!この方男性です。保険証にもほら。ですよね?」
オレはうんうんと頷く。看護師さん!ナイスフォロー。
「あ、そういうこと?ごめんね。ついてっきり女性だと思っちゃった。ということはあなたクラインフェルター?親御さんからあなたの遺伝子についてなにか話は聞いてたかな?」
先生は申し訳なさそうに謝ってから、よくわからないことを聞いてくる。クライン?なんだって?
「いえ、オレの親からはそういうの何も聞いてないです。出産時の遺伝子検査も問題なかったと聞いています。」
「なるほど。うーん…。」
先生も唸っている。なにか心当たりがあるんだろうか。
「じゃあ、とりあえず、血液検査。それと遺伝子検査の試験器持ってきて。あ、念の為エコーの準備もお願い」
「はい畏まりました」
看護師さん達が慌ただしく動き始めた。一体何が始まるのか。
「えーと、今日の検査でわかったことだけお話しますね」
服を脱がされて写真を撮られたり、血を抜かれたり、口の中を長い綿棒みたいなので拭われたり、なんかレントゲンみたいな映像を撮られた。
ドキドキしたけど意外とあっけなく終わって少しホッとしている。
付き添いが入れない理由は服を脱がされた時に理解した。そりゃ入いれないわな。
検査が終わり、先生が結果を元に診察の結果を伝えに来た。
「エコー映像では、あなたは内蔵的には男性です」
「はい」
「ですが…」
「ですが?」
男性と言われてちょっとホッとするが、真剣そうな顔で先生はそこで口ごもる。なんか怖いから早く言って!
「血液検査では女性ホルモンが検出されています。つまり体の変化の原因はその影響でしょう。和泉さんは普段なにかお薬とか飲んでいますか?」
「え?いえ…。何も?」
え?女性ホルモン?なんで?オレ、密かに親にホルモン盛られてる?
「そうですか。エコーの映像だとはっきりとは言えませんが目視した限り卵巣は無かったので、ここまでの濃度となると、毎日何かしらの女性ホルモンを摂取するか、筋肉注射などで常時供給していないとおかしいんですよ」
「はあ…」
母も最近のオレの体つきを怪訝に思っていたようで「思春期ってこうなるのね」と零していたし、父も「まだ若いからそう見えるだけで、ただ太ってるだけだろ。ちょっとは運動しなさい」という反応だった。
そもそもオレの両親は毎日料理するわけではなく、コンビニ飯とか外食も普通にあるので、毎日薬を盛れるとは考えにくい。
「うちはよく外食とかするし、コンビニ飯やスーパーの惣菜みたいなのも多いんで、こっそり薬を入れるようなことは考えにくいです。それに母も女ばかりの家庭で育ったそうで男の子で喜んでたと聞いたことあるし、そんな変な親じゃないです。たぶん」
そう言うと先生は、難しそうな顔でオレに症名を告げた。
「そうですか。そうなると考えられることは、『アロマターゼ過剰症』かもしれません。非常に珍しい症例なので可能性は低いですが」
結局、断定はできないとのことで、遺伝子検査の結果があるので、もう一度来ていただきます、と言われた。
「アロマターゼ過剰症?聞いたことない病名ね…調べてみるわ」
病院から出るとアヤは早速スマホで病名をググり始めた。さすが女子。操作する指の動きが速い。
「で、アキラは妊娠できるのか?」
「できないってば!内臓はちゃんと男だって!話聞いてた?」
さっきまで大人しかったノブが病院から出たことでいつものアホに戻っている。
「いやあんた、普通そこ聞く?デリカシーとか無いわけ?」
「できないのか。そうかあ…」
「なんで残念そうなんだよ!」
アヤが調べたところによると、この症状はアロマターゼという体内酵素によって体内の男性ホルモンが女性ホルモンに過剰変換されるというもので、通常のクラインフェルター、つまり両性偶有のようにホルモン治療を行っても無意味。明確な治療法はない。しかし乳がん治療薬で改善が見られるとの事。治療しなくても特に死に直結するものではなく、また治療をすれば子供も普通に作れるとのことだった。
しかしそれを聞いたノブは治療しなくても良いと言い始めた。
「アキラはアキラだろ?生まれたままでいいだろ?」
「いや、それだとオレが困るんだが?」
「じゃあ俺が責任取るから!一生大事にするからさ!」
「だからそれが困るって言ってんだよ!」
聞いていたアヤが肩をすくめてため息を付く。
「はあ…アキラちゃんもそろそろ素直になりなさいよ…」
「素直ってなんだよ!」
「あー。やっぱアキラの匂い落ち着くわー」
「だから吸うなよ変態!」
それから1年が経った。オレ達は晴れて高校生になった、のだが。
「おはよーアキラちゃん。今日も制服似合ってるわね」
「お、おう…おはようアヤ」
「可愛いだろ。俺のアキラだからな。当然だ」
「くっ…殺せ」
結局、オレの症状は『アロマターゼ過剰症』と診断された。先生も珍しい症例だったらしくかなり興奮して饒舌に説明してくれたが、概ねアヤがググった説明そのままだった。
その後、オレは両親に相談して治療をしたいと頼んだが、乳がん治療薬を毎日飲まないといけないと聞くと母が青ざめ、治療はやめなさいと念を押されてしまった。
治療をしなくても死ぬことがないのに、危険かもわからない薬を一生飲み続けるの?と母に泣かれてしまうと反論できなかった。
オレは母に「お母さん、昔オレが男の子で良かったって言ってただろ?」って聞いたら、「そうねえ。でももうアーちゃんがちっちゃい頃に男の子の親は十分堪能したし、特にもうこだわりはないわ」と言われた。母の裏切り者め。
ちなみに父は「お前がお前なら、私は男の子でも女の子どっちでも良い。死ぬような病気でなくてよかったなアキラ」と笑顔で言われた。そこは男側の肩を持って治療を擁護してくれるところじゃないのか?父よ。
そして、何故オレが今、女物の制服を着て登校しているかって?
治療を行わない、つまり女性として過ごしたほうが高校側にも都合が良い、とのことで両親と学校が口裏を合わせた結果である。
オレは猛反対したのだが、学校側も外見的特徴でトラブルとなる可能性を指摘。治療を行わないのであれば、将来を考えて少しずつ慣れていくべきだと諭された。
実際に試着してみると、例のごとく股がスースーするという女装お決まりのテンプレがあったものの、姿見を覗き込むと、そこには美少女がいて、それにまんざらでもない自分がいた。まあオレは母に似ているし似合って当然だとは思うが、なぜかちょっと悔しい。
それに、両親の決断を後押しするもう一つの事件があったのだ。
「ノブっちがアキラの両親に『アキラさんを俺に下さい!絶対に幸せにします!』って言ったシーン、私も見たかったな」
ノブの奴、オレが治療しないと聞くと、笑顔のままオレの家に上がり込んできて、両親にそう言いやがった。
ウチとノブの家は昔から近所付き合いで仲も良かったため、両親もそれを聞いて感激。オレの意思が無視されたまま、勢いで和泉家と田中家の公認にされてしまった。
「くくく。俺の勇気に惚れるなよ?俺にはもうアキラがいるからな」
「はいはい。ごちそうさまでした~。親公認だもんねえ。もうゴールしたようなものね」
「なあ、そこにオレの意思は介在しないのだが?」
高校でもオレとノブの仲は公認になっており、もはや誰も疑っていない。おかしい。
「だってアキラちゃん、別にノブっちのこと、そこまで嫌がってないじゃん」
「それは…、ノブが昔からの親友だったからで…」
「あのね?普通は男からプロポーズされたら普通絶交とかするもんでしょ?しなかったじゃんアキラちゃん」
「だってオレが家出してもこいつが絶対見つけ出すし、無視してもついてくるし…」
正直、オレもノブに以前言われた通り、体格の違いを意識するようになり、肉体的な逞しさに安心感を覚えて少し依存していた自覚もあって、そのせいでこいつを完全に突き放すことができなかった。それにこいつがいい奴なのは間違いない。
あと、あの時の男としての未来が崩れた喪失感が消えず、親達に脇を固められてしまい、もうどうにでもなーれ。という妥協感すらもあったのだ。あまりにも急展開に頭がついていけず、あたふたしていたあの時のオレを殴りたい。
「アキラは照れ屋なんだ。言わせてやるな。可哀想に。よーしよし」
「だから!頭撫でんな!吸うな!」
こうしてオレのへんてこな人生は始まったのであった。
終。




