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4/4

~4~ 知らなかった”事実”

顔を上げると、スーツに身を包んだクール系イケメン、蓮がすでに正面に座っていた。そのままじっとこちらを見ている。


絶対に面白がっているでしょ!もう!



蓮に主導権を握られたらきりがないと思った私は即座に今日の本題を出すことにした。

今日は絶対に話を聞いてすぐに帰るんだから!主導権は私が握ってやる。



「それより、大切な事実って何?早く話して。」


「えー?何それ?何の話?」


「は?」



思わず心の声が漏れてしまったが許してほしい。この状況になったら誰でも私と同じ反応をすると思う。10万かけてもいい。カフェじゃなくて本当によかったと思う。カフェで「は?」なんて言ったら私が一生懸命作り上げていたキャラが台無しだ。



「冗談、冗談だ。美鈴奈、全然変わってないー。」


そう言って悪びれる様子もなく、平然と意地悪そうに笑う蓮。今日は珍しく、ふつうの人が見ても笑っているとわかるような意地悪な笑みだ。



ううっっ!恨みたいのに顔がよすぎて恨めない!やっぱり、私って面食いなのかな…


「面白くない冗談。蓮も全然変わってないじゃない。何なら悪化してる。」


「へえ、言うようになったじゃん。関心だね。」


「前の私と違うんだから。」


しっかり自分は前と違うんだ。別にお前に未練なんてないし、という気持ちを込めて言ったつもりだ。しかし、なぜか妙に胸がズキズキする。



「確かに違うね。作り笑いが多くなってる。全然笑ってない。」


「別に、最近楽しいことがなかっただけだし。」


「じゃあ、俺といたときは楽しかったってこと?」




――ドクンッ!


急に心臓が跳ね上がり、体中に血液が強く回ったのがわかる。


「ち、違うし!全然違うから…違う…」


動揺のあまり、同じ言葉を連発してしまった。正直言って自分がこんなに動揺するなんて本当に久しぶりでどうすればいいのかわからない。


なぜこんなに動揺するの?……いや、本当はわかってる………わかってるんだけど認めたくない。認めてはいけない。



一度深く深呼吸し、またもう一度深呼吸をする。それぐらいしないと落ち着いていられない。もちろんほかの人ではわからないくらい動きを小さくしているが、蓮は私が動揺しているのを見抜いているだろう。


「どういうつもりなの?」


直球すぎたかもしれない。しかし、今日の要件はそれだったはずだ。大切な事実――なぜ急に蓮が別れを私に突き付けたかという内容だろう。と、私は勝手に思っている。




「どういうつもりだと思う?いくら君が自分の恋愛に鈍感でもそろそろ気付いてくれないとこっちも傷つくんだけど?」


「それがわからないから聞いてるの。そっちから別れを突き付けてきたのにまだ未練があるって言いたいの?クズじゃない。」


クズ…カフェで入ってはいけない言葉ランキング上位に位置する言葉だ。




「クズね…確かにクズだね。でも別れようって言ったのは俺じゃないよ?」


「え?」


意味ありげに笑う蓮。そして戸惑う私。もう何もかもが手におえなくて、完全に蓮のペースに乗せられていた。蓮の言葉一つ一つが信じられなくなる。


あんなに散々言ってきたのに?あんなひどいこと言ったのに?




「俺の義母、まぁ、あのばばぁ義母って認めてないけど。そのばばぁが俺に自分の娘を押し付けていたのは知ってるでしょ?」

急に口調を変える蓮。おそらく相当いら立っているのだろう。


それに、知ってる。連の義母である美弥子みやこさん、めちゃくちゃ私を目の敵にしてた。どうやら自分の娘である玲羅れいらを蓮と結婚させて立場を固めたかったらしい。だからその時、蓮の彼女である私が邪魔で仕方なかったのだろう。




「知ってるよ。でも、それがどうしたの?」


自分でも思ったより冷たい声が出た。その声には混乱と冷静さが混ざっていて、その対照的な要素で一層自分の気持ちがわからくなった。


私は蓮にどうしてほしいんだろう?どうなってほしいんだろう?




「そのばばぁが俺のアカウントをハッキングして偽のメッセージを送ったらしくてさ。まさかハッキングできるばばぁかと思わなかった。だから、俺が別れを告げたわけじゃない。って言っても信じないよね?」




「信じるわけないでしょ?百歩、いや千歩譲って信じるとしても、別れる前に避けてきたじゃない?」



少しの間をおいてから蓮が口を開く。


「美鈴奈のために少し距離を置いた。俺の近くにいるとあいつらが美鈴奈に危害を加えてしまうから…」



その時には意地悪な笑みを消え、低音の声も少し勢いが落ちていた。誰が見ても、美鈴奈が見ても、明らかに笑っていない完璧なポーカーフェイス。




「……」


私はどうしたかというと、何も言葉が浮かばずに黙っていた。いや、正確には口が動かなかった。



傷ついた心は回復し、未練も残っていないと思っていた…いや、無理やり思っていた私の気持ちは爆発し、一粒の涙が頬を伝った。



…私はずっと傷ついてたんだ…ずっと蓮が好きだったんだ。忘れなれなかったんだ……



この時になってはじめて自分の気持ちに正直になった。






涙を流した私を見て、蓮はすぐに立ち上がり涙をぬぐってくれた。




その手は温かく、優しさと不器用さが混ざっているようだった。多分蓮も動揺しているのだろう。


「ごめん…傷つけた……」


蓮の優しい声に視界が涙でにじみ、滝のようにしずくがこぼれていく。



涙腺が崩壊し、泣きじゃくる私を蓮は隣に立ち、落ち着くまで静かに待ってくれた。プライドが高いあれにとって精一杯の慰めだろう。








数分後、徐々に落ち着きを取り戻した私が一番最初に発した言葉は、


「ありがとう…」


そして、


「ごめんね…ずっと勘違いしてた………」


かすれた声が喉を経て言葉として出てくる。あまりの小ささにちゃんと届いているか不安になったが、ちゃんと届いたみたいだ。



蓮が、


「いや、俺も悪かったよ。すぐに誤解を解けばよかったものの…」


本当に後悔しているようだ。その声に後悔と怒りが混じっている。



うれしかった。自分は捨てられたんじゃない…そう思えたから……



「じゃあ、なんですぐに解かなかったの?」




だいぶ気持ちが楽になり、何も考えずに聞いてしまった。蓮の優しさがうれしくって、たぶん私は少し笑っているのだろう。作り笑いの笑顔でもなく、ひきつった笑顔でもない――本物の笑顔……



そんな私の笑顔に気づいた蓮は安心して自分の席へ戻っていった。



もう少し隣にいてくれてもいいのに…と少し思ったが、隣にいてくれただけで精一杯だということを考えると少し可愛く見えてしまう。



意外な蓮の一面を見れて気持ちが高ぶり、まじまじ見ていると蓮が恐ろしいことを平然と口にした。



「あいつらを潰してたから…」


「…へ?」



さっきの私の問いの答えだろうか…おそらく”あいつら”は美弥子さんと玲羅さんのことだ。じゃあ、”潰した”とは?比喩だよね?蓮だとしても、物理的に潰すわけないよ…ね?



「うーん…ちょっとおかしなことを聞くけど…生きてるよね?美弥子さんと玲羅さん…」


「安心して。マジで潰そうとしたけど、美鈴奈そういうの嫌でしょ?根性と気合でギリギリ殺さなかった。」



よかったぁ。蓮、人の存在を消すことなんて簡単なことだから本当に焦った…



…でも、ギリギリ殺さなかったって…美弥子さんと玲羅さん、大丈夫かな… まあ、しょうがないか!私と蓮を別れさせようとしたんだから、当然の罰だよね! 


…と、なぜか納得する私だった。



「そして、あのばばぁの味方、派閥を全部潰した。」



補足だが、”潰した”とは、物理的な意味ではなく、社会的に潰したという意味らしいのだ。



だから、この場合は一斉解雇したと訳せるだろう。



「それは大変ね…」


いつもの余裕(余裕なんていつもないのだが…)を取り戻した私は、少し他人事の口調になってしまったようだ。そんな気持ちの緩みを蓮は見逃さない。また、意地悪な笑みを浮かべる。



「そうだよ、大変なんだよ?俺がこんなに暴走したのも、こんなに解雇者を出したのも美鈴奈のせいだよ?」


「え?」


他人事だと思っていたのに、急に自分の名前を出されて頭が追い付かない。なんで私のせいになるの?私、関係なくない?




「俺をこんなにも惚れさせた美鈴奈のせいだよ。どう責任を取ってくれるの?」




それは、今まで見たことがない、蓮の甘えモードだった。


それに破壊力がえげつない。正直言って、あの顔で世界征服できそうだ。まさにかっこよさで世界征服!


何て言って入れたらよかったものの、私は脳内処理が追い付かず、フリーズをしてしまった。あれは反則だろう。サッカーだったらダブル…いや、トリプルレッドカードを上げて即退場させたい。本当に鼻血が出そうだ



イケメンを見慣れていたつもりでいたが、あれは規格外だ。


「どーしたの?フリーズしっちゃってるけど?」




やめて…ガチ目に、今そんな顔見たら…しん…じゃ……う……


目の前に黒い何かがかかり、ついにそれが視界を覆った。意識が遠くなってゆく。なんと、私は蓮の美しさに耐えられず気絶したのだ。


  

  こんなに幸せな気絶の仕方、ほかにあるのだろうか?


ここまで読んでくださってありがとうございます!


もし少しでも楽しんでいただけたら、

高評価【★★★★★】、ブクマ、感想、シェアなどで応援していただけると励みになります。


最後に、完結まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

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