第3話「ヒャッハー団」ー蒸気は吠える
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土煙が、一直線にこちらへ迫ってくる。
距離、およそ三百メートル。
丘陵地帯。
遮蔽物は少ない。
逃げれば振り切れる。
だが。
「間に合わないわね。」
ビアンカは即座に判断した。
「追撃用の蒸気ブースター付き……あれ、量産型じゃない。」
先頭のモヒカンのバイクは、明らかに改造機。
「逃げるより、止める。」
そう言ったのはミアだった。
「……戦うの?」
「試運転にはちょうどいいわ。」
ビアンカは苦笑する。
この猫族の少女は、時々恐ろしく冷静だ。
「ホース、接続。」
黒い高圧ホースがライフルへ繋がる。
カチリ。
内部機構が噛み合う。
蒸気原子炉からの圧力が、銃身へ流れ込む。
通常の蒸気圧縮弾ではない。
高圧蒸気加速式――
スチームレールガン。
ビアンカは銃床を肩へ押し当てた。
風向き。
重力補正。
蒸気圧。
三倍重力の星で育った彼女の感覚は、地球の常識とは違う。
「……射程、二百五十。」
「あと十秒。」
ヒャッハー!!
また叫んでいる。
「根拠あったでしょ。」
ミアが呟く。
バイクのライトが細くなる。
敵をロックしているように見えた。
「撃つわ。」
蒸気が唸る。
ドンッ!!
衝撃波が地面を揺らす。
蒸気弾は一直線に飛び、
先頭バイクの前輪を貫いた。
爆ぜる金属。
モヒカンが空中へ放り出される。
だが――
止まらない。
後続が隊列を崩さず回り込む。
「統率がある……?」
ただの野盗ではない。
二台が左右に分かれ、包囲を試みる。
「地形利用型の戦術ね。」
ミアの声が低くなる。
「右から二台、丘の死角へ入るわ。」
「見えてるの?」
「音で分かる。」
猫族の聴覚。
バイクの尻尾が跳ねる。
ゴロゴロ……
それは、喉鳴らしではない。
戦闘モードの低振動。
「ビアンカ、乗って!」
ミアをサドルバックに乗せている
バイクが自ら前進する。
ビアンカはライフルを肩に掛け
迷わず跨る。
アクセルを開く。
爆発的加速。
三倍重力をものともしないトルク。
丘を駆け上がる。
背後から弾丸。
蒸気圧縮弾が地面を抉る。
「撃ち返して!」
「揺れてるわよ!」
「信じて!」
信じる?
何を。
バイクを。
その瞬間。
尻尾排気管が変形した。
メモリニウムが軋み、
空中で展開する。
盾のように広がる金属板。
蒸気弾を弾いた。
「……自動防御?」
ビアンカは息を呑む。
ミアは静かに言った。
「この子、怒ってる。」
正面に三台。
挟撃。
「突破する。」
「真正面!?」
「この子なら行ける!」
アクセル全開。
ROOOOAR!!
エンジンが咆哮する。
蒸気圧が限界値を超える。
ビアンカは歯を食いしばる。
真正面から突っ込む。
敵の蒸気圧射撃。
尻尾が蛇のようにうねる。
左右へスイング。
蒸気流を乱す。
圧力波がぶつかり合う。
視界が白く染まる。
「今!」
ビアンカがアクセルを離し、
ライフルを構えて二発目を放つ。
今度はエンジン部。
敵バイクが爆ぜる。
一台、二台。
残り一台が退く。
「ヒャッ……ハ?.....ヒエーーー!」
ヒャッハーが悲鳴に変わる。
砂煙の向こうへ消えていく。
静寂。
蒸気が薄れていく。
ビアンカは呼吸を整えた。
「……終わった?」
ミアはバイクのカウルを撫でる。
「いい子。」
ゴロゴロ……
ライトが柔らかくなる。
だが。
ビアンカは気づいた。
戦闘中。
バイクのライトが一瞬だけ、
敵の弱点を“示すように”動いた。
まるで――
戦術を理解している。
「ミア。」
「なに?」
「この子、本当に……」
言いかけて、やめる。
答えを聞くのが怖かった。
ミアは空を見上げる。
遠く、まだ見ぬ大陸の方向。
ブレスレットが、淡く光った。
「観測完了。結果を保存します。」
小さな音声。
ビアンカには聞こえない。
黒鉄の猫だけが、
静かに喉を鳴らした。
次の敵を、
待つように。
続く。




