第12話「別働隊」-無双の鉄猫
貨物車両の空気は重かった。
床に押さえつけられた男たち。
ビアンカの銃。
サムの視線。
ミアはコラージョの横にいた。
黒鉄の機体を軽く撫でる。
「大丈夫?」
コラージョは小さく鳴く。
ゴロ……
ライトがゆっくり点灯する。
「怒ってるわね。」
ミアが小さく言う。
ビアンカが男を睨む。
「さっきの話、詳しく聞かせてもらうわ。」
男は笑った。
「言ったろ。」
「俺達はその機械を確保するだけ。」
サムがしゃがみ込む。
「他にもいるのか?」
男は答えない。
だが、目だけが笑っていた。
それで十分だった。
サムが立ち上がる。
「ビアンカ、この二人を縛れ。」
「了解。」
ミアが聞く。
「サム、どうするの?」
サムは短く言う。
「狩りだ。」
⸻
列車の通路。
スチームライナーは速度を上げていた。
車体が微かに揺れる。
ガシャン……ガシャン……
「犯人は三人以上いる。」
サムが言う。
ビアンカが聞く。
「根拠は?」
「貨物車両の連中は回収係だ。」
ミアが顔を上げる。
「回収?」
「まずはコラージョを確保する役。」
サムの目が鋭くなる。
「他に別働隊がいる。」
⸻
食堂車。
バイオリンの演奏が続いていた。
乗客たちは何も知らない。
ワイン。
笑い声。
優雅な旅行。
その席の一つに、
フリードリヒ・クラインが座っていた。
グラスを揺らす。
赤いワイン。
その瞳は窓の外を見ていた。
「……遅いな。」
小さく呟く。
その時。
サム達が食堂車に入ってきた。
クラインの視線が動く。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
二人の目が合った。
サムは歩みを止めない。
だが、ミアが気付いた。
「……あの人も?」
ビアンカも小声で言う。
サムが答える。
「ああ、だが役割が違う。」
サムの声は静かだった。
クラインが立ち上がる。
「おや。」
穏やかな笑顔。
「お食事は?」
ビアンカが銃を構える。
「動かないで。」
食堂車の空気が凍った。
乗客がざわめく。
クラインはゆっくり両手を上げた。
「物騒ですね。」
ミアが言う。
「コラージョを盗む気だったの?」
クラインは笑う。
「盗む?
それは心外ですね。
私はビジネスのお話をしただけですよ。」
その瞬間。
轟音と共に列車が揺れた。
ドォン!!
衝撃。
食堂車のランプが揺れる。
ミアが叫ぶ。
「今度は何!?」
サムはすぐ理解した。
「列車を止める気だ。」
ビアンカが顔を上げる。
「まさか……」
クラインは微笑んだ。
「それよりも、外を見た方がよろしいのでは?」
窓の外。
遠くの平原。
煙。
そして――
装甲車両。
蒸気バイクの部隊。
ミアの顔色が変わる。
「……待ち伏せ。
あの時の反応はこれだったのね。」
ミアは、列車に乗車した際に反応したブレスレットを思い出す。
クラインは言う。
「私の他にも、興味がある人がいるようですね。」
サムの目が鋭くなる。
「コラージョか?」
クラインが微笑む。
ミアが静かに言う。
「やらせない。」
その時。
貨物車両の奥。
コラージョの目が光った。
青。
そして赤。
蒸気圧が上がる。
ギィィィィン……
ミアのブレスレットが強く光る。
『監視対象が完全起動しました。』
ミアが呟く。
「……コラージョ?」
黒鉄の猫が、ゆっくりと動き始めた。
スチームライナーの床が揺れていた。
減速。
蒸気圧が落ちる。
シューーーーッ
列車が長いブレーキ音を響かせる。
食堂車の窓の外。
平原。
そして遠くから迫る黒い影。
蒸気バイク部隊。
十台以上。
ミアの顔色が変わる。
「多すぎる。」
サムは冷静だった。
「別働隊だ。」
ビアンカが銃を握る。
「軍用装備よ。」
サムが頷く。
「ただの企業じゃないようだ。」
クラインは微笑んでいた。
「この世界では、企業は国家より強いこともあるそうですよ。」
ビアンカが銃口を向ける。
「喋りすぎよ。」
⸻
その時。
貨物車両。
黒鉄の猫がゆっくりと動きだす。
コラージョ。
機体内部の蒸気リアクターが唸る。
ヴォォォォ……
ライトが強く光る。
青。
赤。
そして白。
ミアのブレスレットが反応する。
『監視対象が移動を開始しました。』
ミアが呟く。
「……コラージョ。」
ビアンカが聞く。
「何してるの?」
ミアは小さく言う。
「戦う気。」
⸻
列車の最後尾。
尻尾が扉のレバーを叩き上げる。
ガン!!
貨物横の扉が開く。
次の瞬間--
黒鉄の猫は外へ飛び出した。
蒸気が勢いよく噴き出す。
⸻
コラージョが貨物車から飛び出した直後....
貨物車両の扉が静かに開いた。
黒いコートを着た無言の男。
ビアンカに拘束されていた2人の前に男が立つ。
「よ、よう! アンタか、早くこれを外してくれ!」
男は無言のまま。
懐から消音器付きの銃を取り出す。
⸻
ドン!!
コラージョは、線路脇の砂利に着地した。
その瞬間。
回収部隊のバイクが近づく。
一人が叫ぶ。
「目標確認!」
黒鉄の機体を見て笑う。
「バイク一台か!」
次の瞬間。
コラージョの尾部排気管が開いた。
カチン
蒸気圧が上昇する音。
ギィィィィィン!!
空気が震える。
回収部隊の先頭バイクが突然バランスを崩した。
「なっ!?」
蒸気エンジンが暴れる。
バシュッ!!
蒸気が噴き出す。
二台。
三台。
次々と制御不能になる。
ミアが叫ぶ。
「共振制御波!」
サムが驚く。
「離れたエンジンの振動周波数にも共振するのか?」
ビアンカも驚く。
「そんなこと出来るの!?」
ミアは言う。
「耳が良いのよ、あの子は。」
⸻
線路の横。
コラージョはゆっくりと走っていた。
黒鉄の猫。
赤い目。
蒸気が静かに漏れる。
回収部隊が囲む。
隊長が叫ぶ。
「撃て!」
銃声。
バン!バン!
弾丸がコラージョの装甲に当たる。
火花。
だが、傷はつかない。
ミアが叫ぶ。
「やめて!!」
サムが肩を掴む。
「落ち着け。」
ビアンカが冷静に言う。
「大丈夫。」
コラージョが低く鳴く。
ゴロォ……
次の瞬間。
尾部排気管が動いた。
蒸気噴射。
バシュッ!!
噴射されたものが弾丸の様に飛ぶ。
一台のバイクが吹き飛ぶ。
回収部隊が動揺する。
「なんだこの機械!?」
⸻
列車の中。
クラインは窓からそれを見ていた。
黒鉄の猫。
蒸気を操る機体。
彼は小さく呟く。
「素晴らしい....想像以上だ。」
サムが銃を向ける。
「終わりだ。」
クラインは笑った。
「いいえ。まだの様ですよ。」
窓の外。
遠くの丘。
巨大な影。
装甲車両。
砲塔が搭載されている。
サムの顔色が変わる。
「マズいな……」
ビアンカが言う。
「あんなの戦場でも見た事ないわ。」
ミアが窓を見る。
巨大な砲塔が、
列車へ向けられている。
「……コラージョ。」
ミアが呟く。
黒鉄の猫が顔を上げた。
蒸気が渦を巻く。
そして――
装甲車の砲塔がゆっくり回る。
列車を狙っていた。
続く




