第11話「不粋な侵入者」-憤怒の鉄猫
スチームライナーの通路を、三人が駆けていた。
列車は高速で走り続けている。
床がわずかに振動する。
ガシャン……ガシャン……
「貨物車両は最後尾よ!」
ミアが言う。
サムが歩調を落とさないまま呟く。
「相手が大人数でなければいいが...」
「……相手は二人よ。」
「何故分かる?」
ミアは手首のブレスレットを指差した。
「コラージョの視覚感知が繋がっているの。」
サムの眉がわずかに上がる。
「便利だな。」
「たぶん今、怒ってる。」
ミアが小さく呟く。
⸻
貨物車両。
薄暗い空間。
ランプの灯りが揺れる。
二人の侵入者はコラージョを囲んでいた。
「ただのバイクじゃねえ……」
男が低く言う。
黒鉄の機体。
猫の顔のようなフロントカウル。
赤く光る目。
静かな唸り。
ゴロ……
「触るな。」
もう一人が言う。
「動いてる。」
「そんなわけ――」
その瞬間。
コラージョの尾部排気管がわずかに動いた。
カチッ
蒸気バルブが開く。
低い振動音。
男たちが一歩下がる。
「なんだこの機械……」
⸻
その時。
貨物車両の扉が開いた。
ガン!
「そこまで。」
サムだった。
背後にビアンカ。
ミア。
侵入者の一人がナイフを抜く。
「チッ。」
もう一人は拳銃を構えた。
「邪魔するな。」
サムは動かない。
「貨物泥棒か?」
男が笑う。
「そう思うなら、そう思っておけ。」
次の瞬間。
ビアンカが動いた。
バスッ!
蒸気圧縮弾
独特の発射音。
拳銃が男の手から弾き飛ぶ。
「うわっ!」
「撃ったの!?」
ミアが驚く。
「安心して。あなたの発明品よ」
ビアンカは冷静だった。
彼女の手には、改造された二連式信号銃。
口径が28mmもあるが、弾頭はゴム製。
殺傷力はないが、腹部に喰らったら悶絶してしばらくは動けない。
以前ビアンカが護身用の拳銃をミアに注文した際、作られたもの。
ミアが思い出す。
「ああ『腹パンガン』ね!」
「その名前やめて。」
ミアのネーミングセンスによろけそう
になるのを堪えて、ビアンカは引き続き銃を侵入者に向ける。
「いい腕だ。」
サムが低く言う。
もう一人の男がナイフで突っ込む。
だが。
その前に。
サムが動いた。
一歩。
体をずらす。
男の腕を掴む。
ゴキッ
関節技。
男は床に叩きつけられた。
「ぐあ!」
ミアがぽかんとする。
「速い……」
サムは静かに言う。
「エージェントの嗜みだ。」
⸻
その時。
コラージョが低く鳴いた。
ゴロ……
ミアが振り向く。
「どうしたの?」
コラージョの目が点灯する。
赤。
そして青。
ミアのブレスレットが光る。
『観測完了。結果を保存します。』
ミアが顔をしかめる。
「……違う。」
「何が?」
「この人たち。」
ミアは男たちを見る。
「ただ盗みに来たんじゃない。」
サムが尋ねる。
「何をしに来た?」
捕まった男が笑う。
サムの目が細くなる。
「誰の命令だ?」
男は言った。
「もうアンタらと会っただろ。」
ミアとビアンカが同時に顔を上げる。
男は続ける。
「黒いバイクを確保しろってな。」
ミアの目が細くなる。
「……やっぱり。」
サムは静かに言う。
「クラインの事か?」
男がニヤリと笑う。
「気付くのが遅い。」
「何が?」
その瞬間。
列車が揺れた。
ギャギャー!
車体が軋み音を立てる。
ミアが呟く。
「……サム。」
「分かってる。」
サムは立ち上がる。
「まだ終わってない。」
コラージョが低く鳴く。
ゴロ……
その振動は警告だった。
この列車には――
まだ敵がいる。
続く




