第10話「ビジネストーク」-黒い影との接触
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スチームライナーはローマン大陸の平原を走っていた。
窓の外には、黄金色の草原がどこまでも広がっている。
蒸気機関の鼓動が、一定のリズムで響いていた。
ガシャン……ガシャン……
ミアは窓に額をつけて外を見ている。
「速い……」
「時速150キロ。」
サムが言う。
「この大陸で最速の列車だ。」
「150!?」
ミアが振り返る。
「スチームタービンでそこまで出るの?」
「補助タービンがある。」
ビアンカが言う。
「さっきホームで言ってたじゃない。」
ミアは腕を組んだ。
「でもあれは変よ。」
「何が?」
「コアボイラーのサイズ。」
サムが眉を上げる。
「小さすぎる。」
ミアは真剣な顔になる。
「それに気になるものを見たの。」
「気になる『もの』?」
ビアンカが聞く。
「飛行機のエンジンにある浮上推進ノズルみたいなものが、車体の下にいくつもあったの。」
「なんで列車にそんなものが?」
ビアンカも不思議に思う。
「イオン風を利用しているのね。」
ミアはサムを見て言う。
サムは一息ついて言った。
「やっぱり君には解るか....
確かにこの列車にはイオン風の
技術が利用されている。
実はそれを具体化した技術が既に開発されたんだ。
今まであった浮力推進。
イオン風の仕組みが理解されてから、それが更に進化したんだ。
それが『反重力リフター』だ。」
ミアは息を呑む。
「君の作ったジェットパックと同じ技術だよ。
とは言ってもかなり大型だが....」
「列車を浮かして軽くするわけね。」
ビアンカが理解する。
「スピードならもっとでるはずだが、線路の強度が追いつかない。
今、新たな専用軌道を作る計画もある。」
ミアは窓の外を見ながら
「鉄道局だけの技術じゃないわね。それも危ない技術。
もし、出力の調整やバランスを間違えたりしたら....」
サムが小さく言う。
「君の言う通り、これは鉄道局と陸軍省との共同開発だ。
この世界の文明は、だいたい危ない技術でできている。」
「既に軍事転用を見越しているのね。」
ビアンカは険しい顔をする。
⸻
列車の食堂車。
豪華なシャンデリアが揺れている。
白いテーブルクロス。
銀のカトラリー。
富裕層の乗客が優雅に食事をしていた。
ミアは完全に別の方向に興奮していた。
「すごい……」
「料理?」
「違う。」
ミアは厨房の奥を見ている。
「蒸気調理器。」
ビアンカは額を押さえた。
「やっぱりそっち?」
「蒸気圧制御で温度を変えてる……」
ミアの目が輝く。
サムが苦笑した。
「君はどこに行っても発明家だな。」
3人は談笑しつつ、料理を注文する。
⸻
その時。
一人の男が近づいてきた。
細身のスーツ。
丸眼鏡。
丁寧な笑顔。
「失礼。」
「相席しても?」
ビアンカが一瞬だけサムを見る。
サムは表情を変えない。
「どうぞ。」
男はサムの隣に座った。
「私はフリードリヒ・クライン。」
軽く帽子を取る。
「デアベルドミッテで貿易業を営んでいるものです。」
ミアが反応する。
「デアベルトミッテ?」
「ええ。」
男は微笑む。
「我が国のメーカー製蒸気機械の輸出をしています。」
サムが静かに言う。
「どのメーカーだ?」
「アーリア・インダストリー。」
一瞬。
空気が止まった。
ビアンカの目が鋭くなる。
サムは何も言わない。
ミアは、ただ首を傾げた。
「へえ。」
ミアは無邪気に言う。
「ソーセージの国ね。」
ビアンカは小さくため息をついた。
クラインは笑った。
「ええ。ソーセージは我が国の誇りです。」
だがその目は笑っていない。
「実は、そちらのお二人とビジネスのお話をと思いまして。」
クラインは、ミアとビアンカに視線を移す。
「私はただの発明家よ。
あなたが興味のあるようなビジネスはしてないんだけど。」
ミアが即答する。
「私が興味のあるのは、あなたの『発明品』です。」
クラインはそう言いながら、ウエイターにグラスワインを注文する。
「発明品?」
ビアンカが反応する。
「あー、あの発明品かしら?
腕を下げると、おみくじが出てくる猫型の置き物....
それとも、持ち運びができる頑丈なラジオとか?」
ミアがまた無邪気に言う。
「私がビジネスで取り扱っているのは、蒸気機械。
あなたの発明した画期的な『蒸気機械』ですよ。」
クラインは、そんなミアを冷静にあしらう様に言った。
ビアンカが強気で言う。
「残念だけど、私達はあなたの言う『蒸気機械』に心あたりが無いわ。」
「そう言う事らしいので、今回はお引取り願いたい。」
サムが追い打ちをかける。
「そうですか。
貴方達には決して悪くない取引きだと思うのですが....
残念です。」
そう言いながら、クラインは
懐中時計を見た。
⸻
その頃。
貨物車両。
暗い空間。
コラージョのセンサーが点灯する。
赤い光。
小さな音。
ピッ
振動検知。
異常。
貨物車両の扉の外。
二人の男がいた。
黒い作業服。
鍵を開ける。
「目標確認。」
「よし、箱を開けるぞ。」
バールで箱をこじ開ける。
「黒い機械だ。」
「これか。」
男が近づく。
コラージョの目が開く。
赤く光る。
ゴロ……
低い唸り。
男が言う。
「ただのバイクだろ?」
次の瞬間。
コラージョのライトが一斉に点灯した。
ギィィィィン
男たちが後退する。
「なんだ!?」
コラージョは動かない。
だが。
空気が震えていた。
⸻
その時。
食堂車。
ミアのブレスレットが光る。
小さな電子音。
『警戒対象に異常な信号を感知。』
骨伝導で音声が伝わる。
ミアの顔色が変わる。
「……コラージョ。」
サムが立ち上がる。
「何が起きた?」
ミアは答えた。
「貨物車両。」
ビアンカも立つ。
「誰かいる。」
サムは短く言う。
「行くぞ。」
三人は食堂車を飛び出した。
その背後で。
クラインがゆっくりワインを飲む。
小さく呟く。
「……始まったようですね。」
列車は走り続けている。
逃げ場のない鉄の密室。
スチームライナーの中で、
静かに、事件が動き出していた。
続く




