【第5話】洞穴 ー危機の訪れー
ーー午後4時リズの別荘
「これから、どうしようか……」
リズがそう呟く。いきなり手に入れた自由に少し戸惑っているのだろうか。
「せっかく家出したんなら、したいことすれば?この別荘にはご飯も水道もあるんだし」
言ったあとに驚いた。転生前の僕なら絶対にこんなこと言わなかったから。死んでから成長するなんて、皮肉なものだ。
「あ、ならさ!行きたいとこがあるの!」
「行きたいとこ?」
僕は首を傾げる。
「ついてきて!」
リズが何を考えてるのかは分からないけど、とりあえず危険なことなのは分かった。それは前世で培った陰キャとしての勘のせいか、リズが意味ありげにニヤニヤしてたせいなのかは分からないけど。
僕はリュックを背負い直してリズを追いかけた。
「うわぁ、凄いね……」
別荘から少し歩く。そこには大きな洞穴があって、いかにもな雰囲気を醸し出していた。
「行こタカハシ!」
リズの探究心に火がついたらしく、懐中電灯をつけて、真っ暗なその洞穴をずんずん進んでいく。
真っ暗なのに、リズといるとやけに怖くない。すぐに最奥らしきところに着いた。
「あれ、何これ……」
灯りを照らすと、大量の木の実が現れる。
「わぁ!美味しそう……これ、ハネの実じゃない?」
(僕にはリンゴに見えたけど、この世界ではそう呼ぶのか)
「分かるの?」
「そりゃ、外に出れない分、お部屋の中で図鑑は何度も見たんだもの」
暗くて見えないけど、絶対今リズはドヤ顔しているんだろうな。
「ハネの実は焼くと美味しくなるのよ?」
「へぇ、焼きリンゴみたいな」
僕がそう言ったけど、多分リズには焼きリンゴが何か伝わってないだろうな。
「よーし、フレイム!」
そういうと、リズの手から炎が出てきてハネの実を包む。一瞬にして焼きハネの実ができる。
「す、すごい……そんなのできるんだ」
「あれ、タカハシは魔法使えないの?まぁ、難しいから無理もないけれど」
(魔法……そんなのもあるんだ。この世界観だもん、そりゃあるよなぁ)
びっくりしたけど、リズには不可能がないんだもんなって思うと、言うほど予想外でもなかった。
リズは焼いたハネの実をひとくち齧った。
「んん、ハネの実美味しい♪」
「でも変だね、こんな洞穴の奥に木の実なんて……」
そのとき、入口から差し込んでいた太陽光が一気になくなったのに気付いた。
ドカンッ!
ドカンッ!
一瞬、地震かと思った。転生先で、また死ぬのかと思った。
でも、違った。
ズシンッッッ!!
ズシンッッッッッ!!!
僕らが来た道から足音が近づいてくる。さっきまで平和ボケしてたのに足が震えて、かろうじて手が動いたから懐中電灯を向けた。
四足歩行、長い尻尾、ギョロギョロとした目。爪は地面を削り、鱗は鋼のようだ。見た目こそ前世で見たトカゲのようだったが、大きさはサイかカバ、それ以上はあった。
「ホラアナオオドラゴン......」
リズの顔から血の気が引ける。
グワァァァオォォォォォオ!!!
ドラゴンなんて、フィクションの存在じゃないか。そう思ったけど、そういえばここは異世界だ。さっきの木の実、こいつの餌だったのか。じゃあ今、巣に帰ってきたとこ?
頭が真っ白になって、逆に冷静になって、でもすぐに焦りがやってきた。
(あ、リズが危ない!)
慌ててリズに電灯を向け、様子を見る。
「ふ、フレイム!フレイム!!」
リズは必死で何度も何度も火の玉を飛ばす。どれだけ打っても、トカゲの鱗には傷ひとつつかない。
「リズ!!!」
「きゃっ!?」
その瞬間、トカゲの尻尾がリズを巻き付ける。
「あ、あ……」
リズの目から涙がこぼれ落ちる。
「タ、タカハシ……!!」
リズが殺される、そう思った。でも、動けなかった。
逃げるか?いや、それは無理。僕たちは洞穴の最深部にいて、トカゲは入口側。位置的にはかなり不利、それにヤツから逃げ切れる自信もなかった。倒すなんて、もっと無理だ。
……でも、リズのことを見捨てられない。
「助けてタカハシ……助けてぇぇぇぇ!!!」
リズの金切り声が響く。逃げるは無理。倒すなんてもっと無理、でも……。
【異世界豆知識】
"ホラアナオオドラゴン"
洞穴を住処とする大型爬虫類。
雑食で基本的に木の実を好む。
縄張り意識が強く、巣を荒らす者は許さない。
硬い鱗や鋭い爪は洞穴での生活に順応した結果。
近い種族として
・川辺に生息するスイセイオオドラゴン
・砂漠に生息するサバクオオドラゴン
などがいる。




