【第4話】家出 ー自由への渇望ー
「ごめんね、タカハシ......」
リズがポツリとそう言った。
「ううん、こっちこそ、ごめん......」
何かあるとすぐにごめんと言ってしまうのは悪い癖だ。部屋を一瞥して、その豪華な様を目に焼き付けた。というか、リズの顔を見れなかったから他の何かに注目したかったのかもしれない。
「……私のお父さん、ディフィン・二ヒリスターって言うんだけどね。すっごい優秀だったらしくて、それまで低級貴族だった二ヒリスター一族で唯一公爵まで上り詰めちゃったの。遠征してるとき、魔獣に襲われて亡くなったらしいんだけどね。それで、次期公爵を巡って一族が争ってて、みんな仲悪くなっちゃって……」
「リズ……」
この世界はなんて美しいんだって、少し思っていた。だから、いきなりこんな話を聞いてしまって、なんだか僕まで悲しくなった。リズは、そんな僕を無視して続けた。
「お母さんが私を残して自殺しちゃって、おばさまに引き取られてから、おばさまはディフィンの唯一の子孫である私を利用して公爵の座を狙っているみたいなの。……私って、権力のための道具みたい。嫌になっちゃうよ……」
リズは震えた声で、目を湿らせてそう言った。
......
......
「ごめんね、自分語りみたいになっちゃって」
何も言えなかった。慰めたかったけど、言葉が出なかった。
沈黙が続く。そこで、リズが何かを決心して口を開いた。
「……タカハシ、二人で家出しよう?」
「い、家出!?」
衝撃的だった。さっきまでこの屋敷に泊めてもらえるなんて思ってたのに、いきなり家出なんて。
(この子には、振り回されてばっかりだな......)
「で、でもいきなり家出なんて......おばさまと1回話し合おうよ......」
僕としては、できるだけ穏便に、前の世界みたいな、あの平穏な日々を過ごしたかった。こんなこと、この世界に来てなかったら絶対思わなかったけど。
「タカハシは......嫌?」
僕を見るリズの目は、不安と自信に満ち溢れた強者の目だった。
「......リズがしたいなら、僕もそうするよ」
仕方なかった。僕にはどうしても、彼女を見捨てられなかった。
リズは途端に笑顔になって、大きなリュックを背負いだした。
「それじゃあ決まりね。タカハシ、いくよ!」
(用意周到か。仕方ない、僕、一度死んだ身なんだ。一回も死んでないリズなんかに負けちゃいられない)
リズは器用に窓から降りる。僕は少し怖かったけど、リズが手を伸ばしてくれて、無事に豪邸から出れた。その時の僕は背徳感というか、とにかくいけないことをしている感覚だった。でも、楽しかった。
「......行く宛てなんてあるの?」
リズは自信満々に答える。
「私はかの有名なディフィン・ニヒリスター公爵の娘よ?」
(それは『私に不可能はない』ってことか?)
「とにかく、別荘に向かうつもり!そこから色々考えよう?」
やれやれ、また別荘に戻るのか。でも、悪くないかもなって思った。




