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70. 遊戯①

 「や!!」


 リーゼロッテが自分の身体程もあるクマのぬいぐるみを抱き締めアンネリーゼから顔を背ける。

 アンネリーゼとレベッカがリーゼロッテの部屋を訪れてからしばらくは本を読み聞かせたりと何事もなく和気藹々と過ごしていたのだが、次何をするかとなった際、隠れんぼを提案した途端にご機嫌斜めになってしまったのだ。

 最愛の妹に拒絶されたアンネリーゼはこの世の終わりのような表情で慌てふためき、出会ってまだ数日とはいえアンネリーゼのその様な姿を初めて見たレベッカは必死に笑いを堪えている。


 「ぬいぐるみ!ぬいぐるみをまた買ってあげるから!」


 「や!やなの!」


 リーゼロッテの侍女達がぬいぐるみという言葉を聞き冷や汗を流したが、拒否したのを見て安堵の息を吐く。

 それもそのはず、リーゼロッテの部屋はアンネリーゼが買い与えたぬいぐるみで溢れ返っており、ベッドの上すらも雪崩を起こしそうな状態のため、誰のためのベッドなのかも分からないのだ。

 その後も言葉巧みに説得しようとしたアンネリーゼだったが、リーゼロッテは頑固という言葉の通り一切聞く耳を持たず、これ以上は嫌われてしまうかもしれないと思い流石に諦めようとしたのだが、妙案を思い付き笑いを堪えているレベッカに歩み寄った。

 

 「ど、どうかなさいまして?」


 「リーゼロッテをオイレンブルク侯爵領に誘おうと思うのでフォローをお願いしますわ…」


 アンネリーゼがボソボソと耳打ちすると、レベッカは真意が分からず首を傾げる。


 「あの子もあと少しで馬を貰えるのですが、以前私が馬に乗せてあげた時に早く欲しいと言っていましたの…自分の馬を選びに行こうと言って誘いますわ」


 「それで何故私がフォローを?」


 「今、オイレンブルク侯爵領にはエマがおります…レベッカ殿下はしばらくこちらにおられますし、彼女に会いに行きたくはないですか?」


 「やりましょう」


 レベッカは即答し、アンネリーゼと握手を交わす。

 2人はいまだに顔を背けているリーゼロッテに近寄り、左右から挟む様にベッドに腰を下ろした。


 「リーゼ、もし隠れんぼに付き合ってくれたら馬を見に連れて行ってあげるわ…しかも私の馬ではなく、貴女が来年貰う馬を自分で選びに行くの」


 ぬいぐるみに顔を埋めているリーゼロッテがピクリと動き、レベッカが大袈裟にため息を吐く。


 「私、リーゼロッテ殿下が羨ましいですわ…あんなに素晴らしい馬をいただけるのですもの。

 しかも、それを自ら選びに行けるなんて素晴らしい事ですわ…私でしたら嬉し過ぎて飛び跳ねますわね」


 「…レベッカ様はリーゼの事が羨ましいの?」


 顔を上げたリーゼロッテに尋ねられ、レベッカは優しく微笑み頭を撫でる。


 「ええとても…私の生まれたベルタンという国は馬産に適した土地が限られているため輸入に頼るしかなく、自ら選べる程の余裕はございませんの。

 もちろん騎士などの必要なところへは優先して回しておりますし王侯貴族ももちろん所有してはおりますが、それでも自ら馬を選んで個人的に所有するのは非常に手間と時間が掛かりますわ…良い馬に出会える機会が限られているのです」


 「私は自分で選びに行ったけれど、良い出会いにも恵まれて心から行って良かったと思っているわ…貴女もきっと自分の気に入った子と出会えるはずよ」


 「…本当に連れて行ってくれる?」


 「ええ、もちろん!これまで私がどれだけお父様達を無理矢理納得させて来たと思っているの?お父様達に我儘を押し通す事に関しては貴女にも負けないわ!」


 アンネリーゼが胸を張って断言すると、リーゼロッテはしばらく考え込んだ後ぬいぐるみを手放して立ち上がった。


 「やる…」


 「本当!?良かった…」


 「良かったですわね…なぜここまで必死だったのかは分かりませんが」


 「細かい事は良いのよ!そうと決まればまずは着替えよ!全員動きやすい服装に着替えて庭園に集合!」


 アンネリーゼが拳を高らかに掲げると、リーゼロッテの侍女が恐る恐る手を挙げた。


 「あ、あのアンネリーゼ殿下…全員という事はわたくし共もでしょうか…?」


 「隠れんぼをするなら人数は多い方が楽しいでしょう?今日のリーゼの予定は全て空けて貰っているのだし、そんな日くらい貴女達も気を抜いて楽しめば良いのよ」


 リーゼロッテの侍女に笑顔で答えたアンネリーゼはこうしてはいられないと着替えに戻る。

 その場にいた者達は皆揃ってため息を吐いたが、諦めて着替えに戻って行った。



 ***



 皆が着替えに戻ってから30分程が経ち、真っ先に庭園に着いていたアンネリーゼはストレッチをして身体をほぐす。

 着替えに戻っていた者達が一人また一人と集まり、アンネリーゼの気合いの入りように若干引いているが、本人はまったく気にも留めていない。


 「遅くなってしまい申し訳ございません…着替えをお借りしておりました」


 最後に現れたレベッカを確認すると、アンネリーゼは皆の前で腕を組み不敵に笑った。


 「エリアは建物以外の庭園周辺のみ!まずは提案した私が探すから、100数えるまでに隠れなさい!」


 アンネリーゼはそう言うと目を瞑りすぐに数え始める。


 「急に始まった!?」


 「時間が惜しいでしょ?ほら、既に数え始めてるんだから早く行きなさい」


 アンネリーゼは目を閉じたまま驚くガーランドに答え、そのまま答え続ける。

 皆は慌てて走り出し、それぞれ隠れる場所を探し始めた。


 「ここはどうでしょう…」


 庭園にある深い壺の中に隠れようとしていたレベッカがその中を見て動きを止める…既に先客がいたのだ。


 「あらリーゼロッテ殿下、どうやって入られたのですか?」


 「えっとね、手伝って貰ったの」


 「そうでしたか…では、私は他を探しますわね」


 去り際に近くの生垣の影に目を向けるとリーゼロッテの侍女が隠れており、目が合ったレベッカは会釈をしてその場を後にする。

 迷路の様な庭園を歩き隠れる場所を探していると、遠くからアンネリーゼとガーランドの声が聞こえて来た。


 「ガーランド、もっとマシな場所に隠れなさいな!」


 「んな事言っても男の俺が隠れられる場所なんてそんなにありませんって!」


 「全員見つかるまでガゼボで待ってなさい」


 ガーランドに指示を出し、アンネリーゼが次の獲物を探し出す。


 ーー早く隠れる場所を見つけなければいけませんね。


 気付かれぬよう足音を立てずに歩いていたレベッカは生垣の下に隙間がある場所を見つけ、気が進まないながらも仕方なくそこに滑り込んだ。

 虫が出ないようにと祈りながら息を潜めていると、またもやアンネリーゼが誰かを見つけた声が聞こえる。

 

 「これであとは3人…カミラ、ミレーナ、レベッカ殿下ね…」


 「っ…!?」


 薄暗い生垣の下に隠れていたレベッカはいつの間にかうとうととしていたらしく、アンネリーゼが接近していた事に気付くのが遅れてしまい驚いて小さく声を上げてしまった。


 「誰かいるわね…」


 レベッカの声を聞き逃さなかったアンネリーゼが歩く速度を落とし、周囲を確認する。

 隙間から外を覗くとアンネリーゼの足がゆっくりと横切っていき、レベッカは両手で口を押さえながら息を殺す。

 しばらくそのまま様子を見ていたレベッカは、アンネリーゼの気配がしなくなったのを確認してゆっくりと息を吐いた。


 ーーなかなかスリルがあるわ…。


 「みぃ〜つけた〜」


 「ひいっ!!?」


 突然何者かの声が聞こえ、足首を掴まれたレベッカは悲鳴をあげて自分の足を確認する。

 そこには自分の隠れた反対側…隙間の無い生垣の下から上半身を突っ込んで来たアンネリーゼが、不気味な笑みを浮かべて足首を掴んでいた。


 「ひっ…!?」


 「…そんなに驚かないでくださらない?流石に私も傷付くわよ」


 「な、なんて所から来るのですか!?まったく気配を感じませんでしたわ!!」


 「誰かいるのは確実だったし、気配を消して隙が出来るのを待ってたのよ…取り敢えずガゼボに行けば他の人がいますから待っててくださいな」


 アンネリーゼはそう言うと、手を離してさっさと何処かへ消えて行った。


 「心臓が止まるかと思いましたわ…」


 生垣の下から這い出たレベッカは深く深呼吸をし、ガゼボへと歩いて行く。

 その後10分程でカミラとミレーナも見つかり、隠れんぼは後半戦に入る…レベッカが本気のアンネリーゼの脅威を知るのはまだこれからだった。

 





 


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