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7. 告白

 「ア、アンネリーゼ様!どうされたのですか!?」


 自分のカップを取りに行き部屋に戻って来たカミラは、アンネリーゼが涙を流していることに驚愕し駆け寄る。

 それを見たアンネリーゼは涙で濡れた顔で苦笑し、駆け寄って来たカミラの首に抱きついた。


 「ふふっ…やっぱり貴女はそうやって心配して、いつだって一番に駆け寄ってくれるのね」


 「そんなの当然じゃないですか!…それより、どうされたんですか?どこか痛みますか?」


 「違うわ…ただ、もう二度と戻れない昔のことを思い出してしまって、懐かしくて泣いてしまったの」


 「昔のことって…アンネリーゼ様はまだ5歳じゃないですか…。そりゃあ最近なんだか大人びたなと思わなくもなかったですけど…」


 「そうね、それも含めて貴女に話しておきたかったの…貴女に隠し事はしたくないから」


 「…わかりました。では、取り敢えず先に紅茶を淹れなおしますね」


 そう言って素早く準備をしたカミラは、緊張した面持ちでアンネリーゼの正面に座る。


 「ふふっ、そんなに緊張しないでよ。話し辛くなるじゃない?」


 そう言ってアンネリーゼは指を鳴らす。

 その瞬間、鳥の囀りや木々が風に揺れる音、人々の話し声など、部屋の外から聞こえるあらゆる音が聞こえなくなった…外界から完全に遮断されたのだ。

 そのことに気付き、カミラが慌てて立ち上がる。


 「アンネリーゼ様!これって魔法ですか!?」


 「そうね」


 「何故使えるんですか!?」


 「そりゃあ使えるわよ枯渇してないし」


 「えっ…えっ?どういうことですか!?」


 アンネリーゼはカミラが頭を抱え始めたのを見て可笑しそうに笑い、用意されていたお菓子を差し出す。


 「ほら、これでも食べて落ち着いて。貴女がそんなんじゃ話せないじゃない」


 「ううっ、すみません…」


 「良いのよ。騙していたのは私だし、謝るのは私の方よ」


 アンネリーゼは紅茶を口に含み、ゆっくり飲み込んで息を吐く。

 カミラは何を聞かされるのか分からずそわそわとしている。


 「先ずは何故魔法が使えるかについてね…詳しくは後で話すけれど、今後必要になるかもしれないから力を蓄えていると言ったところよ。その為には、魔力を完全に抑え込む必要があったの」


 「アンネリーゼ様が魔力を抑え込んでいたから感知出来なくなって枯渇したように見えたということでしょうか…」


 「その通りよ。そうする事で魔力量を増やせる可能性があったから試したのよ…結果ここ三ヶ月で一定の効果は得られたわ。あとは成人する15歳までにどこまで増やせるかね」


 アンネリーゼはそう言うと、冷めかけていた紅茶を飲み干し、空のカップを指差した。

 カミラは不思議そうに空のカップを見つめている。


 「今からこのカップに溢れないギリギリの量の水を入れるわね」


 「えっ!そんなこと出来るんですか!?」


 「出来るわよ?だって、正確な水の量と、その量の水を出すのに必要な分だけ魔力を計算して使えば良いんだから」


 そう言うが早いか、アンネリーゼは空中に水の球を作り出し、飲み干したカップの中に入れて魔法を解いた。

 すると、カップには表面張力で保持出来るギリギリまで水が満たされていた。


 「ほわぁ…水がぷるぷるしてますよ…」


 「ふふっ…何よ『ほわぁ』って…可愛いわね」


 指摘され、カミラは耳まで真っ赤になる。

 アンネリーゼはそれを見てくすくすと笑い、息を吐いた。


 「昔はここまでは出来なかったんだけど、なんとか制御出来るようになったのよ…流石に三ヶ月も昏睡状態に陥ったのは想定外だったけれど」


 「あの…先程から昔とおっしゃってますけど、どういう事なんですか?アンネリーゼ様はまだ5歳ですし、それだともっと歳がいってないと出ない言葉だと思うんですが…」

 

 「そうね…でも実際そうだもの…だから別に変じゃないの」


 アンネリーゼの言葉に理解が追いつかず、カミラは首を傾げる。


 「カミラ…貴女、死に戻りって信じるかしら?」


 「死に…えっ?何ですか?」


 「死に戻りよ…。死んで、過去に戻るの…」


 「そ、そんな夢物語みたいな事あるはずないじゃないで…」


 カミラは自分を真っ直ぐ見つめるアンネリーゼの目を見て言葉に詰まってしまった。

 アンネリーゼは自嘲気味に微笑むと、小さく溜息を吐いた。


 「貴女が信じられないのも理解出来るわ…私だって最初は何がなんだか分からなかったのだもの。

 でもね、真実なの…私は17歳で崖から飛び降りて死んで…でも、何故かその時の記憶を持ったまま5歳に巻き戻っていたの…」

 

 「そんな…」


 唐突なアンネリーゼの告白にカミラは頭の中が真っ白になる。何をどう返せば良いのか答えが見つからない。

 それを察してか、アンネリーゼはポツリポツリと言葉を続ける。


 「今でもその時の事を思い出すの…お父様も、お母様も、お兄様達も、再来年生まれてくる妹も殺されて、貴女も私を逃がそうと囮になって殺されて…帝都は火の海になって…逃げ惑う民達が…忠義を尽くし守ろうとしてくれた騎士達が無惨に殺されていくのを、つい先程のように思い出してしまうの…」


 アンネリーゼの瞳からまたも涙が溢れる。

 肩が小刻みに震え、拳に力が入る。


 「不思議なものよね…どんなに悲しくても、どんなに悔しくても、流れる涙は枯れてくれないの…どうせなら、こんな思いも一緒に流れてしまえば楽なのに…。

 でもね、それじゃだめなの…こうやって死に戻ったから…チャンスを得られたから…次こそはこの国を、皆を守りたいの…」


 握る拳に一層力を込め、アンネリーゼはカミラを真っ直ぐ見据える。


 「でも、私だけでは無理だから…私だけでは全てを守れないから…だから、助けて欲しいの!一番最初に仲間になって貰うなら他の誰でもない、貴女が良いの!

 私じゃ貴女のお給金だって払えないし、貴女に何もしてあげられないけれど!それでも…それでも、一番最初は貴女が良いの…!お願いします…助けてくださいっ…」


 アンネリーゼは声を押し殺しながら泣き、頭を下げる。

 17歳の精神を持つとは言え、成人してるとは言え、まだ17歳の少女が抱えるにはあまりにも暗く重過ぎる過去に、カミラもまた涙を流す。

 カミラは立ち上がると、懇願するアンネリーゼに駆け寄り優しく抱き寄せた。


 「私を最初に選んでくださってありがとうございます…。

 アンネリーゼ様は自分では何もしてあげられないと言ったけれど、そんなことはありません…私に笑顔をくださいました…幸せをくださいました…希望をくださいました…太陽の様に私の日常を照らしてくださいました。

 私の方こそ出来ることは少ないかもしれませんが、アンネリーゼ様が例えこの先どの様な道を歩もうと、どの様な選択をなさろうと、私は生涯アンネリーゼ様のお側で仕えさせていただきます…」

  

 「信じてくれるの…?」


 「当然です」


 「ありがとう…ありがとうカミラ…」


 互いに涙が止まるのを待った後、二人はすっきりとした表情で冷めた紅茶と焼き菓子を摘みながら会話を楽しむ。

 しばらくしてアンネリーゼは泣き疲れたのかうとうととし始めたため、カミラはベッドに案内する。

 すると、離れようとしたカミラの手をアンネリーゼが掴み引き止めた。


 「あの、カミラ…もう少し一緒に居てくれないかしら?」


 「ふふっ…何だか甘えん坊さんですね?」


 「仕方ないじゃない…貴女にまた会えたのが本当に嬉しかったんだから…」


 「そう思っていただけているなら、未来の私も浮かばれますね」


 「ちょっと…縁起でもないことを言わないでちょうだい!」


 「ふふっ、申し訳ありません。さあ、私が付いていますので安心してお休みください!」


 アンネリーゼは胸を張るカミラを見てくすくすと笑い、目を閉じる。


 「カミラ、ありがとう…大好きよ」


 「私もです、アンネリーゼ様」


 カミラの手の温もりを感じながら眠りに落ちるアンネリーゼは幸せそうな表情をしている。

 どうか今だけは幸せな夢を見て欲しい…そう思い、カミラは一人静かに涙を流した。 

 


 

 

 

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