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53. 来訪

 「ヴァルドシュタイン帝国帝室の皆様におかれましては、ご健勝のこととお慶び申し上げます。

 この度は我がベルタン国使節団を快く受け入れていただき感謝いたしますわ」


 ヴァルドシュタイン帝国皇宮謁見の間で、片足を斜め後ろに引いて膝を曲げ、ベルタン第二王女レベッカが見事なカーテシーでアレクサンダーとヒルデガルド始め帝室の面々に挨拶をした。

 今回の使節団の訪問は表向きは帝国の視察と外交となっているため大使は別にいるのだが、ベルタンの使節団で最も位の高いレベッカが代表して挨拶をしている。


 「遠路はるばる良くぞ参られた…貴国とは長い間表立った交流は無かったが、これからは共に繁栄出来るよう協力していければと切に願う。

 貴国とは文化や風習が違うため何かと不便な思いをするであろうが、余の娘アンネリーゼをレベッカ第一王女の案内に付けよう…何かあればアンネリーゼに申し付けてくれ」


 アンネリーゼはアレクサンダーからの視線を受けて頷き、一歩前に進み出た。


 「レベッカ第二王女殿下並びに使節団の皆様、ようこそおいで下さいました…ヴァルドシュタイン帝国第一皇女アンネリーゼと申します。

 この度はレベッカ王女殿下の案内役を仰せつかりました…なに分不慣れなため何かとご不便をお掛けするかと思いますが、誠心誠意努めさせていただきますわ」


 アンネリーゼが挨拶をすると、レベッカは柔らかく微笑み頭を下げた。


 「お会い出来て光栄ですわ…アンネリーゼ殿下のお噂はベルタンでも耳にしておりましたのでお会い出来る日を心待ちにしておりました。短い間ではございますがよろしくお願いいたしますわね」


 2人の挨拶を見守っていたアレクサンダーは何事も無かった事に安堵し、満足気に頷いて大使に向き直る。


 「大使殿も長旅でお疲れであろう…部屋に案内させるゆえ歓迎の宴までゆっくりと旅の疲れを癒されよ」


 「ご配慮いただき感謝いたします」


 アンネリーゼは大使が感謝の意を述べたのを見計らい手を挙げた。


 「陛下、私はレベッカ王女殿下をご案内してまいります」


 「うむ、頼んだぞ」


 アンネリーゼはアレクサンダーとヒルデガルドに一礼し、心配そうに見てくる2人の兄を安心させるため微笑み、レベッカに歩み寄った。


 「ではお部屋へご案内いたしますのでこちらへ」


 「よろしくお願いいたします」


 退室したアンネリーゼはレベッカの前を歩きながら迎賓館に向かうまでに通る皇宮の施設を簡単に案内する。

 迎賓館は本館を挟み東に男性、西に女性用の部屋を備えており、レベッカの衣類などの荷物類は既に女性の王族専用の部屋に届けさせているため、今頃はレベッカに随伴して来た侍女達が部屋を急ぎ整えていることだろうと思ったアンネリーゼは、長旅で疲れているであろうレベッカを気遣いゆっくりと歩く。


 「お気遣いありがとうございます」


 背後から声掛けられアンネリーゼが振り返ると、レベッカが頭を下げていた。


 「私が賜った役目ですし、何より殿下に皇宮をご案内出来て光栄に思っておりますので気になさらないでください」


 「いえ、そうではなく…私を気遣い歩調を緩めていらっしゃいますわよね?」


 レベッカに心の内を見透かされた気がしたアンネリーゼは、平静を装って微笑む。


 「今頃はまだ殿下のお付きの侍女達が部屋を整えているでしょうし、終わっていない内に戻っては殿下も侍女達もゆっくり過ごせないのではと思いまして…ご迷惑でしたでしょうか?」


 「いえ、ありがたく思っておりますわ…アンネリーゼ殿下もご存知の通り私共は他国との交流が多くありませんから皆慣れない長旅で疲れているでしょうし」


 アンネリーゼは現状怪しい素振りを見せないレベッカの姿

をまじまじと確認し、ある疑問を持つ…ベルタンは民に重税を課しているという割に身につけている服飾品に派手さが無いのだ。

 ベルタンの不況が王族にまで及んでいるのか、それともレベッカ自身がアンネリーゼと同じく身なりに気を遣わない性格なのかは分からないが、その程度の些細なことですらアンネリーゼの思考を惑わせてしまう。


 その様なアンネリーゼの思考に気付いたかのようにレベッカがドレスの裾を摘んで苦笑する。


 「地味ですわよね…皆からは国の威信に関わるからと言われたのですが、どうしても派手な物が苦手で…もちろん失礼に当たらないようにと配慮はしたのですが…」


 「不躾で申し訳ございませんでした…ですが、私自身も派手な装いは苦手ですから共感いたしますわ」

 

 謝罪し、改めてレベッカの姿を見返したアンネリーゼはその収まりの良さに気が付いた。

 アンネリーゼより少し色味が強い金色の艶のある髪を真っ直ぐに腰の辺りまで伸ばし、瞳はエメラルドグリーン、肌は薄い化粧の上からでも色素が薄く白いのがわかるほどだが不健康さは見られない。

 ドレスは宝石などを散りばめた流行りの物とは違い、アッシュゴールドの絹の生地に刺繍が施されており、身に付けている宝石類も瞳の色に合わせたエメラルドの物を嫌味にならない程度に身につけている。

 アンネリーゼと同い年にしてはやけに大人びた装いではあるが、その立ち振る舞いから違和感を感じられない。


 「あの、どうでしょうか…?」


 またもやまじまじと凝視され、今度は恥ずかしそうにレベッカが尋ねた。


 「も、申し訳ございません!動きやすそうだなと思ってしまい…」


 アンネリーゼが慌てて謝罪すると、レベッカはくすくすと笑う。

 すると、今度は恥ずかしげに俯くアンネリーゼをレベッカが観察し始めた。


 「アンネリーゼ殿下はコルセットは使われていらっしゃらないのですか?」


 「えっ…あぁ、そうですわね。必要が無いと申しますか何と申しますか…」


 「羨ましいですわ…いくら細く見せる為とは言え、私はあれが苦手で。

 やはりアンネリーゼ殿下は剣の鍛錬をされてらっしゃるからでしょうか…私なんて油断するとすぐに要らないところばかり出て来てしまいます」


 そう言ったレベッカはお腹の辺りを摩りながら苦笑する。

 それを見たアンネリーゼはお腹の辺りがぽっこりと出たレベッカを想像してしまい、緊張が解れ釣られて笑った。


 「そう言えば、出る時はお腹から出て引っ込む時は胸から引っ込むと愚痴を言っていましたわね」


 「あら、それはどなたが?」


 「えっと…母ですわ」

 

 「まあ、皇后陛下がですか?」


 「ああ見えて公務以外では結構抜けてますのよ?あ、これは秘密にしてくださいませ…また怒られてしまいますから」


 「ふふっ…はい、必ず内緒にいたしますわ」


 レベッカが小指を差し出したのを見てアンネリーゼは一瞬戸惑ったが、自らの小指を絡めて指切りをする。

 相手が憎きベルタンの王女でなければ良き友になれたかもしれないと思うとアンネリーゼは寂しさを感じる。


 「アンネリーゼ殿下、よろしければもう少し遠回りして案内をお願い出来ませんか?」


 「それは構いませんが…どこか気になるところがありましたか?」


 「アンネリーゼ殿下のお気に入りの場所を見てみたいと思いまして…ご迷惑でしょうか?」


 「分かりましたわ…では、人を向かわせレベッカ殿下の侍女達に遅れる旨を伝えますわね」


 「ありがとうございます!」


 素直に喜ぶレベッカを見てアンネリーゼも嬉しくなる。

 アンネリーゼは近くにいた2人の衛士達にカミラとターニャを呼んでくるように伝え、1人は迎賓館に向かわせる。


 「レベッカ殿下は護衛騎士はお連れではありませんか?」


 「今は待機させておりますわ」


 「では、今日は女性のみでご案内いたしますわね」


 「アンネリーゼ殿下にお任せいたします」


 カミラとターニャが来るまでの間2人は何気ない会話を楽しみ、簡単な紹介の後まずは図書館に向かった。

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