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49. 依頼

 クラウスからベルタンの使節団の話を聞いた翌日、今アンネリーゼはアレクサンダーとヒルデガルドに呼ばれ、2人の元を訪れている。

 クラウスと別れた後、すぐに事実確認のためミレーナをテオバルトの元に向かわせたが、彼等がそれを知ったのも昨日の午前中だったらしい…完全にベルタンに先を越された形だ。

 

 「急に呼び出してすまなかったな…」


 「ごめんなさいね、今は貴女もゆっくりしていたいはずなのに…」


 アレクサンダーとヒルデガルドは、疲れの見える表情でアンネリーゼに申し訳なさそうに声を掛けた。

 慕っていたレオンハルトが亡くなったため、2人はアンネリーゼを気遣いこれまで公務などから離れさせていたのだ。


 「構いませんわ…私も塞ぎ込んでいては先生に顔向けできませんし…それより、お2人こそお疲れのご様子ですが大丈夫なのですか?」


 「うむ、まあ余達の事は良いのだ…今日は其方に頼みがあってな」


 「私に頼みでございますか?」


 アンネリーゼが何も知らない風を装い首を傾げると、アレクサンダーは一度深呼吸をした。


 「来春、ベルタンから使節団が来る事になった…」


 「ベルタンですか…あの国とは隣国とは言えあまり積極的な交流は無かったと思うのですが」


 アンネリーゼが尋ねると、ヒルデガルドが一際大きなため息を吐いた。


 「本当、どういう風の吹き回しなのかしら…嫌いなのよねあの国」


 「余も好かん…だが、正式な使者からの申し入れを断る訳にもいかんからな」


 心底嫌そうな2人を見てアンネリーゼは心の中で同意して頷きながら首を傾げる。


 「そうなのですか?」


 「貴女もあの国の事は知っているでしょう?ここ十数年はまだマシだけど、それまでは他国に攻めてばかりで本当に碌な国ではないのよ…はぁ、今からでも断りたいわ」


 ベルタンという国は軍国主義を掲げていおり、他国との争いが絶えない国だ。

 ベルタンは鉱石などの地下資源が豊富な反面、農産物などの食料資源が乏しいため、鉱石加工技術を活かした製品類の輸出により得た利益で多くの食料を輸入しているのだが、地下資源はいずれは枯渇し先が見えないため、武具を量産し食料資源の豊富な土地を得るため戦争をするという背景がある。

 その為、ベルタンと近隣諸国との関係は冷え切っており、互いに必要な輸出入以外での積極的な交流はほぼ行われていない…アンネリーゼの生まれたヴァルドシュタイン帝国はその最たる物だ。

 ヴァルドシュタイン帝国は地下資源はベルタンに比べると少ないが、豊富な食料資源の得られる安定した気候に恵まれており、昔からベルタンに狙われている。

 だが、ベルタンとの国境に位置するケンプファー辺境伯領のおかげでここ数十年は小競り合いはあるものの戦にまでは発展していない。

 その様な関係であるにも関わらず今回の使節団の件だ…アレクサンダー達の反応も仕方のない事だろう。


 「それで、何故そのような国がこちらに?国交正常化…とかではないですわよね?」


 「それが読めんから余達も悩んでおるのだ…しかも、使節団にはあちらの第二王女も同行すると言ってきおった」


 「わざわざ王族を連れて来なくても良いのに何を考えているのかしら…」


 2人がまたもや大きなため息を吐き、アンネリーゼは苦笑する…ベルタンを嫌っているのが自分だけではない事に安堵したのだ。


 「あの…それで私に頼みとは何でしょうか?」


 「ああ、それなのだがな…其方には使節団滞在中、同行して来るレベッカ第二王女の相手を頼みたいのだ」


 「承りましたわ」


 「そうか、やはり気が進まんか…分かるぞ……ん?今、何と申した?」


 「承りました…と申し上たつもりでしたが」


 アンネリーゼが再度答えると、アレクサンダーとヒルデガルドは驚き顔を見合わせた。

 まさか、アンネリーゼが二つ返事で了承するとは思いもしていなかったようだ。


 「良いの?こう言っては何だけれど、断っても良いのよ?ヘルムートのところのセシルにお願いしても良いのだし…」


 セシルとはアンネリーゼの3歳年上の宰相ヘルムートの長女の事であり、ギルベルトの婚約者だ。

 

 「セシル様はギルベルト兄様の婚約者ですし公爵令嬢ではありますが、まだ帝室に入った訳ではございませんから、レベッカ王女のお相手をさせては軽んじていると取られかねません…下手に角を立ててしまうのは得策ではありませんわ。

 ですが、かと言ってリーゼロッテではまだ幼過ぎますし、そうなると私以外に選択肢はございませんから」


 「そう言って貰えると助かるわ…自分より地位の高い者を相手にするのはあの子にとっても負担になってしまうし、貴女に受けて貰えて助かったわ。

 でも、貴女が辛い時はちゃんと私達に相談してね?」


 「はい、その時は頼らせていただきますわ。

 では、使節団来訪まで時間もありませんし、私は粗相の無いように改めてベルタンの資料に目を通してまいります」


 「うむ、頼んだぞ」


 「はい、では使節団の件でまた何かありましたら私にご相談ください」


 アンネリーゼは申し訳無さそうなヒルデガルドを見て苦笑し、2人に一礼して退室する。

 部屋を出ると、外で待機していたガーランドとカミラと共に図書室に向かいベルタンに関する資料を集めて自室に戻った。

 

 「おかえりなさいませ」


 部屋で待機していたミレーナとヴィルマに迎えられ、やっと部屋に戻って来れた事に安堵し、アンネリーゼ達は揃って息を吐く。


 「ふう…この資料の山を見るに、両陛下からの呼び出しはやはりベルタンの件でしたか…」


 部屋に戻り本をテーブルに置くなり、ガーランドが声を顰め苦々しげにボソリと呟く…自室に戻るまではアンネリーゼが魔法を使えないため、それまで話題に出すことを控えていた言葉がつい漏れてしまったようだ。

 アンネリーゼはガーランドの言葉を聞いて部屋に防音の魔法を展開し、深くため息を吐いた。


 「せめて防音してからになさい…部屋に着いたからって気を抜いては駄目よ?」


 「申し訳ありません…」


 「ふふっ、構わないわ…正直私もぼやきたい気分なのは同じだもの」


 アンネリーゼは苦笑してミレーナとヴィルマに紅茶を頼み、持って来た資料に目を通し始めた。


 「クラウス殿下の仰っていた通りだったのですね…」


 「ええ…正直驚いたけれど、昨日兄様から聞いていて良かったわ」


 アンネリーゼがガーランドに答えると、ミレーナとヴィルマも紅茶を淹れて揃ったため改めてアレクサンダー達との会話の内容を皆に伝えた。


 「うーん…話を聞いてみると確かにアンネリーゼ様が適任なのは分かりますけど、負担が大きくないですか?」


 「仕方がないわよ、立場的に他の令嬢達には荷が勝ち過ぎるしね…まあ、皇女としての責務と思って諦めるわ」


 心配するカミラにアンネリーゼが苦笑すると、それを見ていたミレーナが手を挙げた。


 「殿下はベルタンに行かれた事は無いのですよね?」


 「無いわね…今世はもちろん前世でも」


 「では、都合が良いと思われてはどうでしょう?」


 「都合が良い?」


 「はい、資料や話を聞いただけでは感じ取れないものをその目で見て感じる良い機会だと思うのですが…」


 「確かにそうね…貴女の言う通りだわ。

 はぁ…やっぱりベルタン関連だと私は冷静な見方が出来ていないわね…ありがとうミレーナ」

 

 「いえ、お力になれたのであれば幸いです」


 アンネリーゼはミレーナに礼を言い、自身の視野の狭さを反省し頬を叩いて気持ちを切り替える。

 百聞は一見にしかず…アンネリーゼは使節団や第二王女から何かしら情報を引き出す方法は無いかという方向に考えを改めた。

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