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39. 双子

 「それにしても秘密の多い皇女殿下だな…どんだけ周りを騙しまくってんだよあんた」


 「人聞きが悪いわね…」


 呆れるヴィクトルの言葉に憮然としたアンネリーゼは椅子に座り直し、出された水を飲み干す。

 たいして喉は乾いていなかったが、相手の厚意を無碍にしないようにと考えたのだ。

 ヴィクトルからは先程までの剣呑な雰囲気は無くなり、話を聞こうという意思が感じられ、アンネリーゼは安堵する。


 「んじゃまぁ、仕事の話をしようか?」


 「そうね…取り敢えず、貴方達にはまずはテオバルトの商会の用心棒として雇われて欲しいの」


 「あ?んなこと言ってもあそこはオイレンブルク侯爵絡みの商会だろ?言っちゃあ何だが、俺達が必要とは思えねぇぜ?」


 「本来ならそうなのだけれど、先日帝室絡みでちょっとした問題があってね…今なら商会も警備とかで人を欲しているし特に怪しまれる事は無いわ」


 「ああ、そう言うことかい…」


 ヴィクトルは既に先日の一件の情報を得ていたのか、それ以上追求せずに頷いた。

 

 「で、俺達は用心棒として出入りしつつ得た情報を商会に流すって事で良いんだよな?どんな情報を集めりゃ良い?」


 「特に制限はないけれど、とにかく色々よ…民衆の間でよく聞く噂話とか、何処かの建物や森とかで最近怪しい者を見たとかそう言う真偽不明のものでも良いから、得た情報を逐一テオバルトに報告して欲しいの。

 基本的には侯爵家が何を優先すべきか精査して調べる事になるけど、もしかしたら貴方達にも頼むかもしれないわ」


 ヴィクトルは腕を組みしばらく考え込み、アンネリーゼを見てため息を吐いた。


 「そこまでして情報が欲しいって事は、あんた相当厄介なもん抱えてんな…まあ良いや、受けてやるよ。で、報酬はどうすんだい?」


 「私は定期的に商会から色々と購入しているから、心付けとして多く支払う分を貴方達への報酬として渡して貰う手筈になっているわ…その中から商会への仲介料を1割、あとは貴方達の取り分としても結構良い額にはなると思うわよ」


 「了解した、それで受けよう…で、依頼はそれだけか?」


 まだ何かあるのだろうと言いたげなヴィクトルにアンネリーゼは苦笑し、ヴィクトルの隣に座っていた女性を見た。


 「貴女、名前は何て言うの?」


 「セリーヌよ…何?まさか私をご指名?」


 「そう、今はセリーヌと名乗っているのね」


 アンネリーゼが微笑むのを見てヴィクトルが眉を顰める。


 「おい、まさかこいつらのことまで調べがついてんのか?」


 「ミレーナとターニャだったかしら、双子よね?もう1人も連れて来て欲しいのだけど良いかしら」


 「はあ…おい、ミレーナを連れて来い」


 女性が頷き部屋を出る…今までいたのはターニャだったらしい。

 ターニャが部屋を出るのと同時に、ヴィクトルがまたも大きくため息をついた。


 「はあ…あいつらの事はこれでも上手く隠してたつもりなんだぜ?侯爵家の情報収集能力はやっぱ半端ねぇな…」


 「あら、それを言ったら貴方達の隠蔽も相当なものよ?だって裏取が出来るまで4年も掛かったのだから…貴方達の慎重さもあったからこそ仕事を頼みたいと思ったのよ。

 あとは、貴方達が他の組織に比べて受けた仕事はきっちりとこなすし、何よりしっかりと流儀を持って筋を通すっていうところが気に入ったのも選んだ理由ね」


 「それとあいつ等双子もだろ?」


 「そうね…でも、双子がいなくても貴方達を選んでいたわよ?たまたま双子が貴方達のところに居たに過ぎないわ」


 「まあ、そういう事にしといてやらぁ」


 アンネリーゼは本当だと言いたげに口を尖らせていたが、ターニャが瓜二つの女性を連れて戻って来たのを見て目を丸くした。

 双子と言えど生活習慣などで若干の見た目の違いが出るものだが、目の前の2人は鏡写しのようにそっくりだった…服が同じだったならどちらが先程のターニャか見分けが付かないレベルだ。


 「お待たせしました姉のミレーナです」


 紹介された女性…ミレーナがアンネリーゼに頭を下げる。


 「よろしくミレーナ…。私も今までに何組か双子の兄弟姉妹は見て来たけれど、貴女達程そっくりな人達と会ったのは初めてよ」


 「よく言われます。私達の見分けがつくのは兄だけです」


 「…兄?」


 「おう、俺だ…おい、何だその面は?兄とは言っても義理だ義理!」


 「あ、あぁ…そう言う事ね」


 ヴィクトルに睨まれたアンネリーゼが慌てて目を逸らし、それを見ていたターニャが手を挙げた。


 「そんな事より私達に用があったんじゃないの?」


 「ターニャ、皇女殿下に失礼よ…言葉遣いに気を付けなさい」


 「はいはい、姉さんは相変わらず細かいわね…それで、どのようなご用件でしょうか?」


 見た目はそっくりでも性格は違うらしく、アンネリーゼは苦笑し小さく咳払いをした。


 「貴女達、私の専属侍女にならない?もちろん報酬ははずむわよ?」


 『…は?』


 ミレーナとターニャが全く同じ顔、全く同じ声で見事なシンクロを見せ、アンネリーゼは吹き出しそうになるのを堪える。

 2人はしばらく沈黙し互いを見つめ合ったのち、アンネリーゼに目を向けた。


 「あの、専属侍女にというのは分かりましたが、何のためでしょうか…」


 「貴女達は今2人でセリーヌという1人の人間として活動しているのよね?それと一緒で、2人で1人の侍女として働いて欲しいの。名前はそうね…ミレーナとターニャだからミレニヤ?いえ、ミレニアでどう?」


 「安直過ぎやしねぇか?」


 「そこ、お黙りなさい!」


 アンネリーゼに睨まれヴィクトルは肩を竦めて口を噤む。

 それを見たアンネリーゼは頷くと、ミレーナとターニャに視線を戻して話を続ける。


 「貴女達には私がいない間の影武者として他の者達にそれを悟られないようにして欲しいの。

 貴女達2人であれば、どちらかが私として過ごす間も片方は侍女として働けるから怪しまれずに済むじゃない?

 それに、2人は仕事柄武術の心得もあるでしょう?それならある程度身を守れるし、何より私の影武者として雇うなら武器の扱いに慣れていないと任せられないでしょう?」


 「あぁ、確かにね…」


 「?」


 ターニャは先程のアンネリーゼと仲間の手合わせを思い出し苦笑し、それを知らないミレーナは首を傾げながら手を挙げた。


 「事情は分かったのですが、私達が殿下の影武者になるのは無理があるのでは…」


 「それなら心配ないわ」


 いうが早いかアンネリーゼは指を鳴らす。

 ミレーナとターニャが光に包まれそれが収まると、2人の姿はアンネリーゼになっていた。

 それを見たヴィクトルがソファーから立ち上がり感嘆の声を上げる。


 「こりゃ凄え…変装や変身て言うよりもはや変態だなこりゃあ…」


 「貴方の事?」


 「違ぇよ!何でさっきから俺にばかり突っかかって来やがる!?」

 

 「揶揄い甲斐があるからかしら…まあ、そんな事はさておきこれなら問題無いでしょ?私が解除するまで勝手に魔法が解ける心配は無いわ。もちろん貴女達が私の影武者として働いている間はカミラがフォローするから難しくは無いと思うわ」


 アンネリーゼはヴィクトルを軽くあしらい、ミレーナとターニャに微笑み魔法を解く。


 「そう言うことならまぁ…で、報酬はどうなるの?」


 「2人で1人として雇用登録しないといけないから侍女としての報酬は1人分しか支払えないのだけど、危険手当として私が個人的に2人に支払うつもりよ。

 お金は記録に残る可能性があるから難しいのだけど、先日商会から記録に残さない形で宝飾品をいくつか購入したの…それ等を下賜という形で貴女達にあげるわ。頻繁にとは言えないけれど、一つ売るだけでかなりの額になるわよ」


 「分かったわ…で、いつから行けば良いの?」


 「引き受けてくれるのね…良かったわ。

 取り敢えず、まずは貴女達を仲介してくれる貴族を紹介するから、それまでは待機していてちょうだい…決まり次第商会経由で連絡するから待っていて」


 2人が頷き、アンネリーゼが立ち上がる。


 「それじゃあそろそろ迎えが来る時間だし失礼するわね」


 「おう、俺達も近々商会に顔出すって伝えといてくれ」


 「分かったわ。ミレーナとターニャもまたね、貴女達が侍女として来てくれるのを楽しみにしているわ」


 アンネリーゼは笑顔で手を振り、自分とカミラ、ガーランドに再び魔法を掛けて変身しフードを被ると部屋を後にする。


 「とんでもねぇのに目を付けられちまったな…」


 「えぇ…でも、退屈はしなさそうだわ」


 「そうね」


 「違ぇねぇ…」


 ヴィクトル達はアンネリーゼ達が出て行った扉を見つめながら揃って苦笑した。


 

 

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前世知識に隠した膨大な魔力 頼れる側近に口の固い手駒達 ・・・ それでも、敵陣営の強大さを考えるに 何人生き残る事が出来ますかね?
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