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37. 組織

 花緑青の生地の騒動があってから20日が経ち、アンネリーゼはその件を不問にし今後も贔屓にするという事をテオバルトに示すため、そして情報にあった組織に接触するために、カミラとガーランドを連れて商会を訪れた。

 本当であればもう少し早く訪れるつもりだったのだが、テオバルトにいくつか準備をして貰わないといけない事があったため今日になったのだ。


 「殿下、本日は当商会にお越しいただき誠にありがとうございます。先日は商会の者が大変なご無礼を働いてしまったといいますのに、変わらずご贔屓いただけるとの殿下のご温情…このテオバルド生涯忘れることはございません」


 「気にしないでと言ったでしょう?お父様も私の案を納得してくださったし、起きた事をいつまでも気にしていては他が疎かになってしまうわ。その件については今も被疑者の取り調べが続いているけれど、少なくとも貴方が関与していない事は既に証言で分かっているのだから、今まで通りでいきましょう」


 「はい…ありがとうございます」


 「ええ、この話はこれでお終い…早速お願いした人達を紹介してくださる?」


 アンネリーゼの気遣いを受けたテオバルトは深々と頭を下げ、部屋の外に待機させていた女性2人と男性1人を呼んだ。

 3人はそれぞれアンネリーゼに恭しく頭を下げ、テオバルトの後ろに並んだ。


 「この者達はわたくし同様、コンラート様から殿下の事情を知らされている信頼の出来る数少ない者達でございます」


 「ありがとうテオバルト…貴方達も急に呼び出してごめんなさい、協力に感謝するわ」


 「勿体無いお言葉でございます」


 「では、早速始めるわね」


 3人が頷き、アンネリーゼは魔法を使いテオバルト以外の自分を含む全員の姿を変えた。

 アンネリーゼとカミラは女性2人の姿に、ガーランドは男性に、テオバルトの部下達はアンネリーゼ達の姿になった。

 それを見ていたテオバルトは目を見張り感嘆の声を上げる。


 「初めて見ましたがこれ程とは…」


 「どう、凄いでしょう?じゃあ、貴方達はここで商談しているフリをしておいてね」


 「はい、では殿下のご無事をお祈りいたします」


 アンネリーゼは頭を下げるテオバルト達に笑顔で答え、商会の裏口から外に出る。


 先程の3人の男女は、今日のために数日前から商会に雇われた者達として出入りしており、アンネリーゼ達が組織に接触している間のアリバイ作りのために集められていたのだ。

 

 「さてと、じゃあ行きましょうか」


 「はい…殿下、何度も言いますが無茶だけはしないでくださいね?」


 「分かってるわよ…私だってカミラを危険な事に巻き込みたくはないもの」


 ガーランドに釘を刺され、アンネリーゼは先程の女性の姿で不安気に見つめてくるカミラの頬を撫でた。

 12歳になり成長したとは言え、まだカミラより背が低いアンネリーゼだが、今は魔法で背が伸びているため新鮮な気持ちになったのか、ついつい頬が緩む。

 それを察したのか、カミラは憮然として顔を背けた。


 「アンネリーゼ様は小さい方が良いです…」


 「貴女こそ無茶言わないでよ…」


 「おい新人、そろそろ行くぞ!」


 「ごめんなさい、今行きます!」


 馬車で待っていた事情を知らない商会の従業員が苛立たし気に催促したため、アンネリーゼ達は急いで馬車に乗り込む。

 商会の店舗から歓楽街までは少し距離があるため、テオバルトが気を利かせて商品の配達に行く馬車に乗れるようにしてくれたようだ。


 10分程馬車に揺られ、歓楽街の入り口で馬車が停車する。


 「1刻半程でまた迎えに来るから遅れるなよ!」


 「分かりました、遅れないようにしますね」


 アンネリーゼが笑顔で手を振り馬車を見送っていると、背後からカミラのため息が聞こえた。


 「いくら事情を知らないにしても、あの言い方は許せません…」


 「まあ良いじゃない?彼にとっては無駄な仕事が増えてしまったわけなのだし、責めては可哀想よ…それより早く行きましょう?」


 怒るカミラを嗜め、アンネリーゼはテオバルトから聞いていた組織のアジトに向け歩き出す。

 いくつかの飲食店や飲み屋、娼館などの並ぶ道を抜けて行き、目標となる看板のある薄暗い路地に入る。


 「ここからはフードを被りましょう」


 カミラとガーランドが頷き、2人がフードを被ったのを確認して魔法による変装を解いた。

 3人はそのまま路地を進むと突き当たりにあるくたびれた酒場の前で止まり、入り口に座っていたガラの悪い男に金貨を1枚差し出した。


 「貴方達のリーダーに会わせて貰えるかしら?」


 「何だ嬢ちゃん、俺達が誰か分かって言ってんのか?」


 「分かっていなければ会わせろなんて言わないでしょう?

 もう一度言うわね…貴方達のリーダーのヴィクトルに取り継ぎなさい…ヴァルドシュタイン帝国第一皇女アンネリーゼが会いに来たと」


 アンネリーゼが目深に被っていたフードを持ち上げて顔を見せると、男は慌てて座っていた椅子に躓きながら店内に駆け込んで行った。

 男が受け取り忘れた金貨をしまい直し、アンネリーゼが苦笑する。


 「得しちゃったわね」


 「まあ良いんじゃないでしょうか?殿下と契約したら彼等にとって金貨1枚なんてはした金になりますよ」


 「何を言っているの?鉄貨1枚だって無駄にしたら駄目よ…それすら賄えずに餓える民もいるのだからそう言う冗談はやめなさい」


 「申し訳ございません…言葉が過ぎました」


 アンネリーゼに指摘されガーランドが深々と頭を下げると、先程の男が戻って来るのが見えてアンネリーゼは居住いを正す。


 「カシラがお会いになるそうだ…あんたが本物の皇女殿下か分からねえし色々と聞かれるとは思うがそこは容赦してくれ…」


 「まさか第一皇女が来るなんて誰も信じられないでしょうし構わないわよ。あ…護衛の彼の剣も預けた方が良いかしら?」


 「あ、あぁ…念の為預からせてくれ」


 「ガーランド」


 「はい」


 アンネリーゼの指示に従いガーランドが大人しく剣を預け、男は安堵して深く息を吐いた。

 本物かどうかはさておきアンネリーゼが身分ある立場ということは理解しているらしく、男は慣れないながらも失礼の無いように店内に案内する。

 店内には数人の構成員らしき男達がおりアンネリーゼとカミラを値踏みするような視線を向けて来たが、ガーランドに睨まれすぐに目を逸らした。


 「ここから地下に進めばカシラと幹部がいる…」


 「ありがとう…これ、さっき受け取り忘れたでしょう?皆で何か飲むなりしなさい」


 「あ、ああ…感謝する」


 改めて差し出された金貨を両手で受け取り、男は離れて行く。


 「結局渡すんですね」


 「働きには報いてあげないと悪いじゃない?正体が定かじゃ無い私達を彼は取り継いでくれたんだもの、正当な報酬を受け取る権利があるわ…さ、行きましょう」


 アンネリーゼの言葉に2人が頷き、3人は組織の頭目ヴィクトルと幹部達が待つ地下室に向け階段を降りて行った。

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