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36. 母親

 「この度は本当に申し訳ございませんでした!どの様な処罰も…」


 「テオバルト、私は貴方を処罰する気は無いわ…お母様とお父様にもそう取り計らうから安心なさい」


 騒ぎの後、泣きじゃくるリーゼロッテをヒルデガルドに任せたアンネリーゼは、テオバルトを応接間に呼び謝罪の言葉を遮った。

 

 「ですが!」


 「貴方に抜けられたら私が困るのよ…でも、あれを紛れ込ませた者は必ず見つけ出して処罰なさい。故意かそうで無いかに関わらず、帝室の者が選ぶ品に毒を含む物を紛れ込ませた事は流石に庇う事は出来ないもの…リーゼが触れるのを防げたのと即効性のある物じゃなかったのは不幸中の幸いだったわ。

 良いかしら、もし素性を調べても特に何も出ず辞めさせる場合でも、しばらくは監視を付けるなりした方が良いわ…誰かが帝室を狙って送り込ませた者であれば、口封じとか何かしら動きがあるはずよ」


 「承知いたしました、ご温情感謝いたします…この件に関しましては上にも報告し、必ずや探し出しご報告いたします」


 「コンラートには気にしないように言っておいてね。彼には色々お世話になっているから…」


 「はい…それにしても殿下は良く気付かれましたね?あれが毒だと判明したのはごく最近のはずですが…」


 テオバルトに問われ、アンネリーゼは苦笑して小さくため息を吐いた。


 「最近読んだ本に書いてあったのよ…私が本の虫だったのが良かったのかしら?いえ、貴方が私の注目通り多種多様な書物を揃えてくれるおかげかしらね?」


 「そう仰っていただけて救われる思いです…」


 「さてと、お母様が来る前にあの件について伺っても良いかしら?」


 「殿下、こちらを…」


 アンネリーゼの言葉に頷き、テオバルトは上着の内ポケットから紙を取り出し手渡した。

 その紙には、組織のアジトの場所や構成員の数、影武者として目星を付けた双子の姉妹の名と素性が事細かく記されていた。


 「ありがとう…随分時間が掛かったと思ったらこれが理由だったのね…」


 「裏取に時間が掛かってしまい申し訳ございませんでした…」


 「いえ、良く調べてくれたわ…まさか、双子なのに常にどちらか片方しか表に出ていないなんて随分と慎重なのね」


 「はい…双子である事を知っているのは幹部のみなうえ、見分けがつくのは頭目の男だけらしく、名前も常に偽名を使っているようです」


 「分かったわ…なら、決まり次第また改めて使いを出すわね」


 手短に会話を済ませ、2人はヒルデガルドを待つ。

 怪しまれぬよう先程の件について改めて話しているとすぐにヒルデガルドが現れ、双子に関する話を早目に切り上げていたアンネリーゼは安堵した。

 ヒルデガルドが部屋に入ったと同時にテオバルトは立ち上がり頭を下げる。


 「皇后陛下、この度は大変な事態を招いてしまい誠に申し訳ございませんでした」


 「頭を上げなさい…その件に関しては貴方の処罰を含めアンネリーゼに任せました」


 ヒルデガルドは着席し、アンネリーゼを見て説明を促す。


 「お母様、テオバルトにはオイレンブルク侯爵家の紹介で来ていただいておりますし、今回私があの生地の危険性に気付き未然に防げたのも、彼が揃えてくれた本で得た知識があったお陰でもあります…まさか、毒に関する本を売った後に毒を売り付けるような真似はしないでしょう。ですので、商会に関しては侯爵の顔を立てるためにも不問にしようかと思います。

 まあ、テオバルトが不問では申し訳ないと言うのなら、お詫びとして私達にドレスを贈って貰っても構わないわよ?」


 「商会への処分に関しては良いでしょう…コンラートにはいつも貴女がお世話になっているし、彼のこれまでの働きに免じて不問といたします…貴方もアンネリーゼの提案で構わないかしら?」


 「ご温情をいただき感謝いたします…最高のドレスを仕立て贈らせていただきます」


 「ええ、楽しみにしているわ…それで、問題は毒となる物を紛れ込ませた者の処罰よ。貴女はどう考えているの?」


 「故意であるかないかに関わらず、帝室や貴族を狙った者は本来死を持って償わせるのが決まりではあります…ですが、あの生地に使われている顔料が毒であることはまだ広く知られてはいません。綺麗な色だからと善意の結果入れた可能性もありますし、調べて何も出なかった場合は奴隷落ちがよろしいかと思います。

 ただし、無知を良いことに何者かに利用された可能性もありますので、取り調べ中も奴隷に落とした後もしばらくは監視を付ける必要があるかと…口封じを企む輩が現れないとも限りませんので」


 アンネリーゼの考えを聞いたヒルデガルドは長い沈黙の後、頷いて立ち上がった…だが、握られた拳は小刻みに震えている。


 「そう…では陛下にもそのように伝えます。ですが、私は正直に言って許せないというのが本音です…何も知らなければ命を奪っても構わないとはならないと思ってしまうのよ。

 アンネリーゼ、私に比べて貴女の方が余程大人だわ…怒りに身を任せず冷静に判断出来るのだもの」


 「お母様は痛みに耐え、命の危険を顧みずリーゼロッテとお兄様達、そして私を産んでくださいました…そうまでして産んだ愛する我が子が危険な目にあって、怒らない母親はおりませんわ。私も成長し、結婚をして子を授かったら、お母様のように怒りで冷静さを欠くかもしれません。

 ですが、お母様は私が魔力暴走を起こした時も、その後昏睡状態に陥った時も、オイレンブルク侯爵領の帰りに賊に襲撃された後も涙を流し自分の事のように悲しんでくださいました…私にとってお母様はいつだって最も尊敬している女性ですわ」

 

 その言葉を聞き、ヒルデガルドはアンネリーゼを優しく抱き締める。


 「ありがとう…いつまでも貴女が誇れるような母親でいないといけないわね。

 では、私は陛下へ報告に行くわね…テオバルト、ドレス楽しみにしているわね」


 アンネリーゼとテオバルトは立ち上がり、退室するヒルデガルドを見送った。

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― 新着の感想 ―
敵の敵は味方どころか、 味方の味方は味方なのかも 疑わなければ、足元を掬われる。 これは苦しいですね。
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