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27. 選択

 「さて、先日殿下が習いたい得物はお聞きしましたが、何から習いたいかを聞いておきましょう」


 テレーゼが来て3日目、昨日まではアンネリーゼの父母であるアレクサンダーとヒルデガルドへの挨拶や諸々の手続きで直接の指導を受けられなかったが、やっと全てが片付いたため今日から本格的に指導が開始する。

 

 アンネリーゼはテレーゼの前に膝を抱えながら座り、何から習うべきかに頭を悩ませ、しばらくして自信なさ気に手を挙げた。


 「うーん…ダガーと弓からでしょうか」


 アンネリーゼがそう答えるとテレーゼが肩を落とし、その後ろで見守っていたレオンハルトがニヤリと笑った。


 「賭けは儂の勝ちだのう?」


 「…殿下のせいですよ?」


 「何でよ…そもそも私で賭けをしないでくださらない?」


 「だって、殿下くらいのご年齢であれば強そうなサーベルかレイピアあたりから習いたいと思うじゃないですか…それが短剣と弓って年寄り臭いと思いませんか?」


 その言葉を聞いたアンネリーゼはカミラを振り返って微笑んだが、目だけは笑っていなかった。


 「…カミラ、テレーゼ様は紅茶とお茶菓子を辞退なさったわ」


 「承知いたしました。では、賭けで勝たれたレオンハルト様に…」


 「待ってください!謝りますから!申し訳ありませんでしたっ!!」


 「…分かりましたわ」


 あまりにも必死に何度も頭を下げるテレーゼに、アンネリーゼは苦笑しながら謝罪を受け入れた。


 「よ、良かった…では、早速訓練を始めま痛いっ!?何するんですか!?」


 「馬鹿者!殿下が短剣と弓を選んだ理由を聞かんか!」


 背後からレオンハルトに頭を叩かれたテレーゼが前のめりに倒れ、後頭部を摩りながら起き上がり恨めしそうに睨んだ。


 「やりたい以外に理由が必要とは思えませんが…」


 「甘いわ馬鹿者!何故やりたいかが重要なのだ!

 どのように考えそれをやりたいと思ったか、何故それが今必要と思ったか…そこに間違いがあれば諭すのも師の務めと心得い!」


 「はあ…では、何故短剣と弓を選んだかお聞きしても?」


 テレーゼはピンと来ない表情のままアンネリーゼに問い掛ける。

 アンネリーゼはしばらく俯き逡巡した後、居住いを正しテレーゼを見た。


 「まずダガーですが、今の私の体格に最も適した大きさだと思ったからですわ。

 長さのあるサーベルとレイピアは私ではまだ持て余しますし、何より短剣は他2つに比べて間合いが狭く学ぶべき技術も他に比べて特殊ではないかと考え、習得までに時間を要するかと思い選びました。

 次に弓ですが…これは私の持つ印象でしかないのですが、弓はサーベル、レイピア、ダガーとは違い遠くの標的を狙う物ですし、矢を放つまでは私が制御出来ても放った後は命中するまで結果は分かりません。

 的を外せば次を射つまで時間が必要ですし、標的が動いていれば狙いを付けるのも困難かと思います。

 よって、弓は他の得物に比べてより修練と慣れが必要かと思い希望いたしました」


 「おお…」


 唖然としているテレーゼにレオンハルトがため息を吐き、テレーゼの代わりにアンネリーゼの頭を優しく撫でた。

 レオンハルトの眼差しは孫の成長を見守り喜ぶような穏やかなものだ。


 「うむ、なかなか良く考えておられますな殿下。

 今後も今のようにしっかりと考え、自分なりの答えを出し、分からぬ場合は師に教えを乞うようになさいませ。

 無知も無能も罪ではございませぬ。ですが、分からぬ事を分からぬままにする事、出来ぬ事を出来ぬままにする事…己の至らぬところを変える努力をせぬ怠惰こそが罪であると心得なされ」


 「はい、ありがとうございます!」


 嬉しそうに笑うアンネリーゼの姿に目を細め、レオンハルトはテレーゼを見た。


 「テレーゼよ、ただものを教えるだけが師ではない…教え導いてこそが師であると心得よ…道を示し、間違えておれば正し、踏み外さぬよう導くことが師である者の務めである。

 弟子を知らねば正す事も導く事もままならん…よく弟子を観察し、考えを聞きかねばならんぞ。

 技は教えずとも盗ませれば良い。だが、ただ師の背を追わせるだけでは子は道に迷ってしまうからのう…そういう時に振り返り、手を差し伸べてやるのが師であるお主の役目であるぞ」


 「はい、以後気を付けます…ご指導いただきありがとうございました」


 己の至らなさを恥じ頭を下げるテレーゼを見てレオンハルトは満足気に頷く。

 現在の騎士団長を含め、レオンハルトの騎士団長時代を知る古参の騎士達がいまだに彼を敬い教えを守り続けているのは、彼自身が部下達を厳しくも優しく見守り、道を示し続けてきたからこそなのだろう。

 レオンハルトの献身に、その忠節に対しアンネリーゼは目頭が熱くなるのを感じ、自分の師の1人として彼を選んでくれたアレクサンダーの想いに感謝した。


 「レオンハルト様…いえ、私も先生とお呼びしてもよろしいでしょうか?」


 アンネリーゼの急な申し出に一瞬驚いたレオンハルトだったが、破顔一笑して大きく頷いた。


 「はっはっは!構いませんぞ!儂は基礎のみと思っておりましたが…いやあ、齢60を超えてこのような可愛らしい弟子を持てるとは長生きはしてみるものですなぁ!」


 「アンネリーゼ様、私は先生って呼んでくださらないんですか?」


 「え…だってテレーゼ様からはまだ何も教わっておりませんし…」


 「じゃあ今やりましょう!すぐやりましょう!」

 

 そう言って意気込んだテレーゼだったが、いざ指導を始めるとまたもや問題が発覚し、レオンハルトとアンネリーゼを悩ませる結果となってしまった。

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