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26. 女傑

 レオンハルトに剣の才を認められてから2ヶ月が経ち、夏を迎えたその日もアンネリーゼは騎士団の訓練場の片隅でただひたすらに剣を振るっていた。

 上段に構え、脱力し、振り切る瞬間に柄を握る手に力を込める…ただそれだけをひたすらに続けている。


 「殿下、気を抜いてはなりませんぞ?」


 「分かっていますわ…数より質でしたわよね?」


 「うむ!数だけこなしても身には付きませんからな!例え忙しくとも毎日剣を握り、一振りでも良いから気の籠った剣を振るう…そうでなければ意味が無い!」


 「ただでさえ夏に入って暑いというのに、レオンハルト様は熱過ぎますわ…その元気はどこから来ていますの?」


 「む…弱音ですかな?雑念が多いようですし回数を増やしますかな?」


 「ひぃぃぃぃぃっ!?違いますわよ!!ただの素朴な疑問ですわ!!」


 側から見ても過酷な指導にも関わらず、アンネリーゼは鍛練中に軽口を言えるくらいには慣れてきた。

 レオンハルトもそろそろ先に進めようとアンネリーゼに合った師に目星をつけて文を送っているのだが、いまだ返事が来ずひたすら素振りをさせていた。

 合わない得物で妙な癖を付けてしまわぬように基礎に留めているのだ。


 「剣聖様、お客様がお見えです」


 「儂に客だと?誰だいったい…」


 皇城を警護する衛士に呼ばれレオンハルトが振り向くと、そこには亜麻色の髪に鍛えられて引き締まった身体を持つ、背が高ぐ美しい褐色の肌をした妙齢の女性が立っていた。

 その女性はレオンハルトの姿を目にし、大きく手を振る。


 「先生!お呼びにより参上いたしました!」


 「おお、やっと来おったか馬鹿者が!?というか返事くらい書かんか!!」


 「お急ぎかと思い直接伺った方が早いと思いまして…」


 レオンハルトに怒鳴られた女性は頭を掻きながら照れたように笑ったが、ひたすら剣を振っているアンネリーゼを見て目を輝かせた。


 「おお!この少女が先生の手紙に書いてあった件の少女ですか!?ふむ…流石は先生、適正を見て無駄な鍛錬はさせていないご様子!」


 「あ、あの!レオンハルト様、この方は…!?」


 自分の周囲を回りながらジロジロと見てくる女性に集中力を切らしたアンネリーゼは、堪らずレオンハルトに助けを求めた。

 レオンハルトは手にしていた木剣を目にも止まらぬ早さで女性の頭目掛けて振り下ろしたが、女性は腰に下げていたダガーを素早く抜いて難なくそれをいなし、逆にレオンハルトの喉元に斬りかかった。


 「ふむ、腕は落ちておらんの…」


 「何を仰います!私の一撃をそのように防ぐなんて先生こそ相変わらず健勝なようで安心いたしました!」

 

 そう言った女性の短剣を見ると、レオンハルトの喉元に届く寸前で指に挟まれ止まっていた。


 「どちらも人間の技とは思えませんわ…」


 アンネリーゼが2人の応酬に呆気に取られて呟くと、女性はそれに気付いて慌てて頭を下げた。


 「ご無礼を働き申し訳こざいません!私は先生から文をいただき殿下の剣の指導を承ったテレーゼと申します!」


 「まったくお主は自己紹介くらい先にせんか!」


 「それ、レオンハルト様が言われますか?」


 「はて…何のことかのう?」


 アンネリーゼはツッコみたくなるのを必死に堪え、テレーゼに頭を下げる。

 親と子は似るというが、師弟関係でも同じなのだろう。


 「ヴァルドシュタイン帝国第一皇女アンネリーゼと申します。これからご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたしますわテレーゼ様」


 「おお…本物の皇女様ですよ先生…」


 「ここを何処だと思っておるんだお主は…」


 2人の気の抜けるやり取りを呆れて見ていたアンネリーゼは、訓練場の騎士達が何やらひそひそと話している姿が目に入り、離れて剣を振っていたガーランドを呼んだ。


 「何かありましたの?」


 「ああ、テレーゼ殿も剣聖様に負けず劣らず有名人なんですよ…」


 「そうなの?」


 「殿下はご存知ないかと思いますが、他国の紛争地帯とかで傭兵として名を馳せたのがテレーゼ殿なんです…」


 「…そんなに凄かったの?」


 「サーベルと短剣を巧みに操り、敵がまぁ…その…」


 「あぁ、それ以上は言わなくて良いわ…何となく想像出来たから」


 そう言ったアンネリーゼの表情は呆れたように笑っていた。


 テレーゼはガーランドの言った通り、レオンハルトの元を離れた後は傭兵として他国を渡り歩き、その活躍ぶりから「疾風」や「女傑」の二つ名で呼ばれていた女性剣士だ。

 見目麗しく腕の立つ女剣士となれば有名になるのも頷ける。


 「殿下、もう一度素振りを見せていただいても?」


 「へっ?あ、はい…」


 いつの間にか目の前に立って覗き込んでいたテレーゼに困惑したアンネリーゼは首を振って気持ちを切り替え、先程までと同じように剣を構え、振った。

 しばらく素振りを続けていると、テレーゼは唸ってレオンハルトを見た。


 「ほほう、実に素晴らしい…先生、彼女はいつ頃から?」


 「2ヶ月前、儂が剣の才を見させていただいた日だのう」


 「初日から!?私でも1週間は掛かったと言いますのに…」


 「儂も3日掛かった…文に書いてあったであろう、殿下は本物であると。

 なればこそ優れた師が必要と思うてお主をわざわざ呼んだのだ」


 テレーゼは頷き、アンネリーゼを真っ直ぐに見据えた。


 「殿下、私はサーベル、レイピア、ダガーなど女性でも扱える得物は一通り、それに加え槍や弓なども扱えますが、何かご希望はございますか?先生から適正は伺っておりますが、一応殿下の習いたいものを聞いておきたいのです…やりたいものをやるのも大事ですからな!」


 ニッと笑ってウインクをしたテレーゼを見てアンネリーゼも釣られて笑い、逡巡した後、心を決めて頷いた。


 「レオンハルト様が薦めてくださったサーベル、レイピア、ダガー…それと弓を習いたいと思います」


 「ん?一つではなく?」


 「え?一つだけなのですか?」


 アンネリーゼが首を傾げ2人の間にしばらく沈黙が流れたが、テレーゼの肩が小さく震え出したかと思うと声を上げて笑い出した。


 「はっはっは!殿下はなかなか我儘ですな!先生、お誘いいただき感謝いたします!」


 「うむ、師弟とはただ師が弟子に教えることだけではなく、師が弟子から教わることも多分にある…お主もそろそろ弟子を取るべき時期であろうと思うてな。共に精進し、良き関係を築くが良い」


 「はい!では殿下、今日は時間も無いゆえ共に素振りをいたしましょう!私も久しぶりに先生に見ていただきたいですからな!」


 「負けませんわよ!」


 「おっ、そうでないと張り合いがない!」


 2人は競うように素振りを始め、結局その日の軍配はテレーゼに上がった。


 「はっはっは!甘いですぞ殿下!」


 「わ、若さでは勝っているのに…」


 「歳は関係ないでしょう!?経験の差と言っていただきたい!」


 「6歳に張り合うでないわ、ガキかお主は…」


 まだ幼い少女相手に地団駄を踏む弟子を見て、レオンハルトは頭を抱えた。

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