24. 歓談
帝都に戻った翌日、久しぶりの早朝ランニングと朝食を済ませたアンネリーゼは、カミラとガーランドに強制的に休みを与え、久しぶりに1人の時間を過ごしている。
カミラ以外の侍女2人もアンネリーゼによく尽くしてくれるのだが、カミラと違い冗談が通じにくいため話が続かないのが難点だ。
それなのに何故2人に休みを与えたかと言うと、昨日話をした後の様子があまりにも気掛かりだったからだ。
2人の思い詰めたような表情をアンネリーゼ自身見るのが辛かったというのもある…だから休みを与えたのだ。
「アンネリーゼ様、後ほど両陛下がお見えになるそうです」
「あら、じゃあそろそろ準備をしないといけないわね」
読書をしていたアンネリーゼは伝えに来た侍女と共に机に山積みになっていた本を片付け支度をする。
本来なら黙っていても侍女やメイドが片付けをしてくれるのだが、アンネリーゼは自室の本の場所を全て記憶しているため、位置が変わらないように自分でも片付けているのだ。
支度を終え侍女が紅茶を淹れるためお湯を沸かしていると、丁度アレクサンダーとヒルデガルドが訪れた。
「アンネリーゼ、昨夜はよく眠れたか?」
「はいお父様、おかげさまでぐっすり眠れましたわ。実家のような安心感とはまさにこのことですね」
「…実家よ?」
「例えですわお母様」
「……そ、そう?」
アンネリーゼは死に戻ってからというもの、アレクサンダーとヒルデガルドとの言葉のキャッチボールが上手くいかず、こうやって度々会話が途切れる。
だが、それでもアンネリーゼが幸せな気持ちになれるのは、2人の愛情を感じられるゆえだろう。
「それで、オイレンブルク侯爵領はどうだった?」
「よく聞いてくださいましたわ!それはもう、筆舌に尽くしがたい素晴らしさでした!」
「あら、そんなに気に入ったの?」
「はい!侯爵に放牧地を案内していただいたのですが、素晴らしい自然と馬達に囲まれていて移り住みたいと思った程ですわ!」
力説するアンネリーゼに2人は困ったような表情を浮かべてため息を吐く。
「それは困ったな…」
「ええ、寂しくなってしまうわ…」
「例えですわ!でも、また行きたいと思える素晴らしいところでした」
「そうか、落ち着いたらまた行くといい。コンラートも喜ぶであろう」
「ふふっ、そうね…次は私も行ってみようかしら?」
「お二人も是非!お兄様達も一緒に行けたら嬉しいわ!」
最近すっかり大人びたと思っていた娘のはしゃぐ姿に2人は笑みが溢れた。
アンネリーゼも2人の嬉しそうな表情を見て胸が暖かくなるのを感じる。
「そう言えば、馬は決まったの?」
「はい!青毛、月毛、白馬の3頭を紹介していただいて、白馬を贈っていただくことになりましたわ!ですが…」
「どうした?」
アレクサンダーは言い淀んだアンネリーゼに問い掛け、ハッと何かに気付いた…おねだりだ。
だが、それに気付いたからといって既に遅かった。
「他の2頭も可愛くて、3頭とも引き取りたいと思ってしまったのです…駄目でしょうか?」
「いや、それは…なぁ?」
「そうね…」
上目遣いで見上げてくるアンネリーゼの目を見ないように2人は目を逸らして言葉を濁す。
今アンネリーゼの目を見てしまえば負けると本能が叫んでいるのだ。
「お父様達さえよろしければ、侯爵が他の貴族達にも目立たぬよう格安で譲って下さると言ってくださいました…もちろん購入費も維持費も私が出します!駄目でしょうか…?」
「う、うむ…では、コンラートと話をしてから決めよう」
「そうね、それが良いわね!」
アレクサンダーとヒルデガルドは苦し紛れに答えを先延ばしにしたが、アンネリーゼとコンラートはグルである…結局、コンラートが持参した絵を見て二つ返事で許可を出したのは数ヶ月後のことだった。
しばらくの間侯爵領での出来事などを語り、帰路の話になると、アンネリーゼは居住まいを正して2人を見据えた。
「お父様、お母様…お願いがございます」
「どうしたの改まって…」
「今度はなんだ…?」
ヒルデガルドとは違いこの流れに慣れているアレクサンダーは、またかと思いつつ聞き返す。
「今回、帰路にて賊の襲撃を受けたことはお2人もご存じのところですしご心配をおかけしました…。
騎士達の働きで私もこうして無事に帰ってこれましたが、今後もそうとは限りません…。
どんなに人事を尽くしても完璧な人間はおりませんし、私自身の備も必要かと思うのです…ですので、剣を習う許可を頂きたいのです」
「駄目よ!危険だわ!それに、貴女は皇女…女の子なのよ?剣なんて習わなくても…」
アンネリーゼの話に最初に反応したのはヒルデガルドだった…母親として、娘に危ない事をさせたくないという意思を感じる。
だが、アレクサンダーは違った…ヒルデガルドの肩に優しく手を置いて座らせ、アンネリーゼの目を見た。
「アンネリーゼよ…お前の言いたい事は理解出来る。
お前の言う通り人は完璧ではないし、日頃厳しい訓練をしている騎士達でも失敗をする…だが、彼等を信じて任せるのも我々の役目だ。
お前が剣を習えば、周りからは騎士を信じていないと思われてしまうだろう…それでも習いたいと思うか?」
アレクサンダーの言葉はもっともだ…周りからの目以上に、忠誠を誓った主人から信じて貰えていないと思われては、彼等の誇りを傷付けることになる。
だが、アンネリーゼの目に迷いは無かった。
「私はこの国の騎士達を信じています…その剣の腕を、忠誠を疑った事など微塵もありませんわ。
私が剣を習うことで心が折れるような弱い者などこの国の騎士に1人としておりません…むしろ、私に越されまいと更に修練し、より強くなってくれると信じています」
「そうか…分かった」
「あなた!?」
ヒルデガルドは尚も食い下がるが、アレクサンダーはアンネリーゼから目を離さない。
「だが、ただ許す訳にはいかん…習いたいからと言って、剣は誰もが扱えるものではない。
よって、後日お前に才があるかを判断出来る者を呼ぶ…その者が才在りと判断したならば許可しよう」
「構いませんわ。ご配慮いただきありがとうございます」
「そんな…」
「我々の娘を信じよう…娘の決意を信じるのも親である私達の役目だろう?」
アンネリーゼはヒルデガルドの肩を抱き寄せ、安心させるように優しく諭した。




