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21. 発見

 侯爵領最終日、明け方に旅人に扮した斥候の2名が先に出発してアンネリーゼ達は昼前に帝都に向かい発つ事になった。

 最低でも二刻以上の時を置き出発する事で、先発している斥候達が偵察をする時間を設けた。

 後発の騎士達も時間差で出発し、敵の見張りなどがいる可能性を考慮して街や村には滞在せず、野営をしながら一定の距離を保ち着いてくる手筈になっている。

 

 アンネリーゼ達の準備が整い、侯爵邸前のロータリーでコンラートと使用人達が揃って頭を下げる。

 

 「殿下、この度は我が領にお越しいただき本当にありがとうございました。

 ご希望いただいた馬達は責任を持って調教を施し、必ず無事にお届けいたします。

 それと、絵が完成いたしましたらわたくしも帝都に参りますゆえ、またお会い出来ましたら幸いでございます」


 「こちらこそ色々とお世話になってしまいました。

 こちらの騎士達も帝都まで同行していただけると聞きました…この恩には必ず報いますわ。

 貴方も帝都に来る際は道中気を付けてくださいね…では、また帝都で」


 2人は手短に挨拶をすませ、アンネリーゼを乗せた馬車が出発する。

 コンラートは馬車の姿が見えなくなるまで見送り続け、後発する騎士達に再度アンネリーゼの身の安全を徹底するよう厳命し、帰路の無事を祈った。



 ***

 


 侯爵領を発って4日が経ち、道中宿泊のため立ち寄った街や村では、先発していた斥候達が警備の兵士などに警戒するよう伝えながら移動してくれていたおかげで怪しい動きをする者達はおらず、特に何事もなく進む事が出来ている。

 ただ、アンネリーゼ達は斥候達と同じ街や村に滞在していても一切接触はせず、その代わり警備の兵士を使いに出して後発の騎士達と綿密に連絡を取り合うようにし、気を緩める事なく緊張感を維持していた。


 5日目を迎え、先発した斥候達と十分に時間を置いてアンネリーゼ達が出発する。

 その日も変わらず順調に街道を進んでいたが、森の中から鳥の鳴き声が3回聞こえ馬車が速度を落とした。


 「殿下、斥候からの1度目の合図です…」


 緊張した面持ちのガーランドが馬車の窓から顔を覗かせ、アンネリーゼに報告する。

 今回、コンラートととの取り決めで、斥候が賊などを発見した際は鳥の鳴き声を模した笛を3回鳴らして報せるようにしていたのだ。

 決めていた内容は、先発していた斥候達が賊を発見後すぐに来た道を戻り、1人目がアンネリーゼ達に合図を出した後に騎士達の元に報告に向かい、もう1人は賊達の潜伏している2里程手前で待機し、アンネリーゼ達が通過するのを見計らって2度目の笛を吹くことになっていた。これが斥候を2人用意しあらかじめ先行させていたもう一つの理由だ。

 後発の騎士達は現在時間にして10分程後方を着いてきており、アンネリーゼ達が2度目の合図を受けて速度を落とす頃にはあちらも報告を受けて進行の速度を上げ、襲撃を受けて数分後には合流出来るようにしているのだ。


 ガーランドの報告を受けたアンネリーゼは、迷彩効果の付与されたフード付きマントを目深に被り直して指示を出す。


 「そう、やはりいたわね…ありがとうガーランド。

 貴方達は次の合図があったらフードを被ってバイザーと耳栓をしなさい。それと、少し作戦を変更するわ…」


 「何をされるおつもりですか…場合によっては了承しかねますよ」


 「2度目の合図があったら馬車の中を確認するフリをしてドアを開けて欲しいの…そこでこのマントで姿を隠した私とカミラが降りるわ。

 その後カミラは斥候に保護して貰って、私は隠れて1人で賊のところに行こうと思うの」


 「何を考えてるんですか!?そんなの駄目に決まってるでしょう!!」


 「そうですよ!駄目に決まっています!!」


 アンネリーゼはガーランドを手招きし、他の護衛の騎士達に聞こえないように声を顰めて作戦を伝えたが、それを聞いたガーランドとカミラが声を上げて怒鳴った。

 アンネリーゼは慌てて静かにするように落ち着かせ、改めて2人に説明を始める。


 「どうしても必要だからやるのよ…。

 昨日も言ったけれど、金で雇った連中は数を揃えていても裏切る可能性もあるでしょうし、そうならないようにそれを監視する信頼出来る者を必ず1人は付けているはず。

 そして、信頼出来る者達のみで襲撃してきた場合でも、同じく状況を把握して報告する立場の者がいるはず…しかも、それはあの男に近い存在である可能性が高いわ。

 どちらが来るにせよ、監視者がいた場合はそいつを必ず見つけ出す必要があるの…これは他の誰にも頼めないわ。カミラには絶対に無理だし、襲撃を受けた時に護衛の騎士が1人でも減っていれば誰かが犠牲になる可能性もあるし、何より怪しまれるわ。

 でも私は魔法が使えるし、何より馬車の中を見られない限り連中に勘付かれる可能性も無い…当に適任でしょう?」


 「ですが…」


 納得しかねているカミラが瞳に涙を浮かべて俯き、アンネリーゼはそれを安心させるように優しく抱きしめた。


 「もちろん無謀なことはしないわ…難しそうならすぐに戻ってくると約束する。でも、あの男に繋がる奴がいた場合、些細なことでも良いから何かしら情報を得ておきたいのよ。

 あの結末を変えられる可能性があるならそれに賭けたいの…だからお願い」


 「カミラ嬢、行かせてやろうぜ…殿下が抱えてるもんは俺達が考えている以上にデカいのは知ってるだろ?

 俺だって心配だし出来れば守らせて欲しいけどさ、それで未来が変えられなかったら意味が無くなっちまう…」


 「わかりました…絶対に無事に帰ってきてくださいね…」


 「ええ、約束するわ…ガーランドもありがとう」


 ガーランドの説得もあり、納得したカミラの濡れた頬をアンネリーゼはハンカチで拭い、準備を始める。

 そして、程なくして2度目の笛の音が響き、作戦に移した。


 笛の音とともにアンネリーゼがガーランドに話しかけて御者を止め、馬車の扉を開けたと同時に姿を消したアンネリーゼとカミラが外に出る。

 ガーランドは他の騎士達に怪しまれないように話すフリをした後、飴を持って他の騎士達と御者に渡した。


 「殿下が緊張しすぎも良くないから飴でも舐めてくれってさ」


 「そうか…何事かと思ったよ。殿下のご厚意だ、ありがたくいただこう」


 アンネリーゼは道中、騎士や御者を気にかけ頻繁に甘い物を与えていたため、特に怪しまれることもなく行動に移せた。

 馬車が動き出すのを待ち、アンネリーゼはカミラを連れて笛の音の聞こえた森の中に入り、被っていたフードを取って隠れているであろう斥候に聞こえるように声を掛ける。


 「誰かいますか?」


 「殿下!?な、何故こちらへ!?」


 アンネリーゼ達の後方20m程に生えていた木の上から慌てた斥候が飛び降りて駆け寄る。

 

 「襲撃を受ける前に避難してきました…それで、賊の数はどれくらいでしたか?」


 「そうでしたか…賊はおよそ20、街道の左右に分かれて潜伏しております。装備はバラバラでしたので寄せ集めの可能性があります」


 「そう、では賊が余程の腕利きでもない限り装備の整っている騎士達で対応出来そうね。

 あの、もう一つ聞いておきたいんだけど、賊の中に身なりの整った者とかはいなかったかしら?」


 「いえ、特にその様な者はいなかったかと…賊に扮している可能性はありますが、遠くから見ただけでは判別が出来ませんでした。

 では、殿下と侍女殿は後発の騎士達が来るまで私がお守りいたします」


 報告を終えた斥候は護衛を名乗り出たが、アンネリーゼはゆっくりと首を振ってカミラの背を押した。


 「貴方は彼女を守ってあげて…私にはどうしてもやらなきゃいけない事があるの」


 「なっ…!?まさか賊の確認をしたのは…!!」


 「そう、どうしても私が行かなければいけないの。だから貴方には私の大事な侍女を頼むわ…カミラ、待っていてね」


 アンネリーゼはカミラを抱きしめ、フードを被り直して走り出す。


 「で、殿下!お待ちください!」


 「駄目です!行かせてあげてください…お願いします」


 追おうとした斥候はカミラに腕を掴まれ、アンネリーゼが走り去った方角とカミラを交互に見て深くため息を吐く。


 「はぁ…殿下からのご命令だし必ず君を守るよ…だから泣かないでくれ」


 「すみません…ありがとうございます」


 斥候はハンカチを取り出してカミラに渡し、後発の騎士達と合流するまで守り通した。

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