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20. 結果

 「殿下、派遣した騎士から文が届きました」


 オイレンブルク侯爵領6日目、魔物討伐と岩山の調査に派遣していた騎士から連絡が来たのは昼を回った頃だった。

 今日も馬達に会いに来ていたアンネリーゼは遅めの昼食の最中だったが、手を止めて人払いをしコンラートに向き直った。


 「分かりました…カミラ、紅茶をお出しして。

 それで、どうでしたか?騎士達は皆無事でしたか?」


 コンラートが席に着くのを待ち、アンネリーゼが問い掛ける。


 「はい、討伐は無事完了し4名の怪我人は出ましたが、いずれも軽傷とのことでございました。

 岩山の方も調査が完了し、殿下からいただいた情報の通りミスリルの鉱床を発見したと…」


 コンラートの報告を受け、アンネリーゼは目を伏せて安堵してゆっくりと息を吐いた。


 「そう…怪我をしたとは言え、騎士達が皆無事で本当に良かった…」


 「我が領の騎士達をお気遣いいただきありがとうございます…彼等もさぞ喜ぶことでしょう。

 そして、ミスリルの鉱床の発見は多くの利益をもたらします…本当にどう感謝を申し上げればよいか」


 「感謝など必要ありませんわ…私は今後起こる事について知っている情報を事前に与えたに過ぎません。

 ですが…オイレンブルク卿、初日に私と交わした約束を覚えていますか?」


 アンネリーゼに問われ、コンラートは席を立つと片膝を付いて頭を下げた。


 「もちろんでございます…このコンラート、殿下のお申し出を謹んでお受けいたします。この身を粉にし、誠心誠意お仕えすることを誓います」


 「あら、それは駄目よ。貴方は帝国にとって無くてはならない人よ?私が独り占めなんてしたらお父様に恨まれるわ…だから、期間を設けましょう?」


 「期間…でございますか?」


 「ええ、期間は11年…選定の儀までとしましょう」


 「承知いたしました…では、それまでは如何様にもお使い下さい」

  

 アンネリーゼはその言葉を聞き、嬉しそうに笑い手を叩いてコンラートを見る。


 「では早速、お願いがあるのだけれど良いかしら?」


 「何でもお申し付けください」


 「侯爵領の騎士は討伐隊を除いて今何人残ってるかしら?」


 「今現在すぐに動ける者で待機しておりますのは37名でございます。従士を合わせればまだおりますが」


 「では、私が明日帝都に発つ時、騎士を15名ほど借りられないかしら?うち2名は斥候の出来る者をお願いするわ」


 「護衛でしたら是非お使いください」


 コンラートが頷いたが、アンネリーゼは違うと言いたげに苦笑して首を振った。


 「護衛ではないのよ。出来れば一定の距離…そうね、馬で10分程の距離を保って着いてきて欲しいの」


 「何故その様なことを…」


 「私がこちらに伺って明日で7日目、帝都を発って13日になりますね?帰りはまた6日掛かります…色々と準備するには十分な時間だと思わない?そう、例えば私を亡き者にする準備とかね…」


 不敵に笑うアンネリーゼの言葉に、その場にいた者達に緊張が走った。


 帝都を発つ時は急な決定だったため時間的に難しくとも、帰りであれば誰かを雇い襲撃するには十分過ぎる程の時間があった。

 むしろ、襲撃する側からすれば急な決定だった事も都合が良い…それは、アンネリーゼ達も十分な準備が出来ずに出発しているため、護衛が少ないのだ。仮に襲撃するなら帰りの道中は絶好の機会といえる。それらを踏まえ、アンネリーゼは打診をしたのだ。


 「それであれば、尚更護衛としてお連れ下さい!」


 「そうですよアンネリーゼ様!ここはお言葉に甘えましょう!」


 コンラートとカミラは必死に止めようとしたが、アンネリーゼは首を横に振る。

 すると、それまで一人黙って聞いていたガーランドが手を挙げた。


 「殿下、もしかして敵を炙り出すおつもりですか?」


 「ええ。護衛として同行させてしまえば警戒されて出て来ない可能性もあるから、騎士達が見つからないようにある程度距離を取っておく必要があるわ。

 もちろん斥候にはあらかじめ先行して確認をして貰う必要もあるのだけれど…まあ、正直賭けではあるわね」


 「でしょうね。ただ、私は少なくとも来るとすれば雇われただけの賊の可能性が高いと思います…足が付きにくいですから」


 「その可能性はあるでしょうけど、私は案外分の良い賭けだと思っているわ」


 「何故ですか?」


 「だって、魔力が枯渇して人が変わったかの様に振る舞う怪しい皇女が少ない護衛で移動してるのよ…不確定要素は確実に消しておきたいと思わない?

 そもそも、これまで一切怪しい動きを見せてこなかった連中が、お金で雇っただけの信用出来るかどうかも分からない者達に接触するリスクをわざわざ冒すかしら?私だったら腕の立つ信用出来る配下にやらせるわ」


 「確かに…」


 ガーランドが唸りながら頷き、アンネリーゼはさらに話を続ける。


 「それと、理由はもう一つあるの…それは、私の血よ。

 私はこの国の第一皇女よ…その血には利用価値があるわ。

 もし、お金で雇った者達が欲に目が眩んで私を人質にし、身代金を要求するようなことがあったらどうなるかしら?

 今回の侯爵領への訪問を知っているのはほぼ帝都にいる貴族だけよ?地方にいる貴族も耳の早い者は知っているでしょう…だとしたら、情報がどの様にして漏れたかに関係なく、私が賊に捕まれば、時間的に犯行の難しい遠い地方を除く多くの貴族家が高確率で調べられるでしょうね。

 お金で動く者はより多く稼げる方を選ぶし、稼ぎを重視しない者はそもそも皇女誘拐や殺害なんてリスクは冒さない…そして、稼ぎもリスクも考慮しない者は、自身が忠誠を誓う相手から指示をされ盲目的に従う者か、快楽殺人鬼くらいのものだと思うわ」

 

 「だとすれば、尚更危険ではないでしょうか…」


 「そうですよアンネリーゼ様…」


 尚も心配そうな表情を浮かべているコンラートとカミラにアンネリーゼは苦笑した。


 「もし本当に怪しい連中がいたなら、斥候に合図を出させるようにすれば良いわ。

 合図を確認したら私達はペースを落として、騎士達と合流までの時間を少しでも短縮するの…でも、その間はガーランド達に負担を強いることになってしまうわ」


 「では、急ぎ必要な装備を揃えご提供いたしましょう。

 殿下はこの国にこれから起こるであろう出来事と首謀者を知る唯一のお方です…万全を期す必要がございます」


 コンラートの提案にガーランドが頷き、必要な装備について意見を交わす。


 まず第一に馬車の安全を確保するため、最上級の防護付与の施された護符は必須とのことになった。これはアンネリーゼが防御魔法を使うことを避け、相手に魔力があることを悟らせないためでもある。


 次に、ガーランド達と御者のために同じく防護付与の施されたフード付きのマントと黒水晶を薄く削り出したバイザーと耳栓を人数分、それと火を付けて投げると強い光と音で相手の視覚と聴覚を奪う暴徒鎮圧用の閃光玉を用意することにした。バイザーと耳栓に関しては相手も閃光玉を使う可能性を考慮してのことだ。


 そして最後に、斥候とアンネリーゼ、カミラのために隠密用の迷彩効果の付与されたフード付きマントを用意することになった。


 特に迷彩効果の付与された装備は犯罪等への使用を避けるため非常に高額で取引をされており購入も厳しい審査が必要になるなどかなり制限をされているのだが、帝国の諜報を担っているオイレンブルク侯爵家にとっては必需品であるため国から結構な数を支給されているらしく、それを借り受けることになった。


 「オイレンブルク卿、貴重な装備をご提供いただき感謝いたします。この恩は必ずお返しするわ」


 「殿下のお役に立てるのであれば幸いでございます…本当は何事もなく無事帝都へお戻りいただけるのが一番ではごさいますが…」


 「そうね…私もそう願うわ。皆を危ない目に遭わせたくないから…」


 そう言葉を交わし、アンネリーゼは愛馬達とのしばしの別れに後ろ髪を引かれる思いをしつつも侯爵邸へ戻り、侯爵領最後の夜を静かに過ごした。

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