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あなたの腕の中で性と向き合う  作者: 瀬戸 航帆
第1章 風俗業界へ転身 
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第7話 プロになるために

 面接時に店長が一定の基準を設けているだけあって、在籍キャストのルックスは悪くはない。むしろ良い。本当かどうかは知らないが元CAや元モデル、元タレントなどの肩書で売り出しているキャストは少なくない。そしてその肩書を持つキャストとお給料の清算時に対面すると、確かにスタイルが求められる仕事をしていた、と聞いても納得してしまうほどのプロポーションを備えていた。


 また、ホームページに記載されているキャストの紹介文に「お色気ムンムン」といったワードが見られるが、私は初めてこのワードを目にしてしまった時に失笑してしまった。お色気ムンムンって、マンガじゃあるまいし。


 しかし、お色気ムンムンと紹介されているキャストと対面した時に、なぜその紹介文でホームページに載っているのか納得した。四十代後半に見えるそのキャストは、確かに色気があふれていて艶っぽい。性的欲求の満足度に比重を置くお客様が、好んで指名しそうだと思った。


 そういった外見面や色気が武器になりそうなキャストと、同じ土俵で指名争奪戦に勝ち抜く自信は全く無い。大勢いるライバルに勝つためには、自分の強みを自覚した上で、武器を最大限生かした方がよい。体型も顔も色気も他のお姉さまキャストに勝てるとはとても思えないうえに、過激なベッドプレイも苦手だ。


 ただ、コミュニケーション能力は営業時代に培ったおかげで、多少はマシなはずである。初対面の人にも臆することなく話すことができるし、引っ込み思案な気質はあるものの人見知りではない。


 そういった私の性格や外的要因からみても、愛花さんは私が目指すべき目標としてベストだった。失礼だが愛花さんのルックスは他のキャストに比べると優れているとは言い難いし、お色気ムンムンという程の色気もない。写メ日記や直接会話した時の印象、本指名との付き合いの長さから、おそらく性的満足度より精神的満足度に比重を置いた接客をしているのではないかと思われた。


 精神的満足度を与えられたと手ごたえがあったお客様が、本指名になることに私は最近やっと気づいた。そしてこの人妻専門店にくるお客様は、刺激よりも癒しを求めている傾向が強い。


もちろん非日常的で、刺激的な時間を求めるお客様もいる。そういったお客様の要望には満足に答えることができず、高い報酬をもらいながらも精神的疲労がそれを上回り、セルフケアに時間と労力がかかるので、正直割に合わないと感じてしまう。


 プレイは月並みでも精神的に満たされていれば、総合して満足度は高くなるはずである。これは私自身の経験に基づく考察であった。


 ではどうやってお客様の精神的満足度を向上させるか、その方法を考えている時に以前、話したホステスの話を思い出した。


 彼女が言っていた「仕事とは関係なく、ひたすらにお客様の心に私の心を添わせる」は接客サービスを提供する上で、とても重要な心構えだ。目的は本指名獲得のためだが、その目的を心の中心に据えてしまうと、仕事感がにじみ出てしまうような気がする。あくまでも目的はお客様の精神的満足度を向上する事であって、それを達成するための手段として心を添わせることを実践し、そして結果的に本指名が獲得できた、という流れの方がおそらく良いような気がする。


 これは営業時代に受けた研修が大いに役立った。当時はあまり熱心に聞いてはいなかったが、手段と目的をはき違えないように計画を実行する、という話は覚えていた。


 愛花さんという目標を定めて、売上を上げるために私は三つのことを変え始めた。


 まずは写メ日記の内容を変えること。


 ブログの書き方について調べるとペルソナ設定、という考えを初めて知った。ペルソナとは簡単に言えば、情報を届けたいターゲット層のことである。私は写メ日記を利用して、私が得意分野とするお客様、つまり会話を楽しみたい、という欲求をもったお客様から指名されるよう内容を工夫した。


 写メ日記の内容は映画や本、訪れたイベントや展覧会、美味しかったレストランなど、私の日常を三百~五百文字数の文章で、週一~二のペースで書くようにした。あくまでも普通の女性の趣味ブログといった体を装い、私の人柄が通じるように文体には気を使った。そしてお客様から勧められた本や映画は極力目を通し、教えてもらったカフェには足を運び感想を載せるようにした。


 写メ日記という名前がついているので、写真のアップは必須である。アップできる写真の枚数は一枚と限られており、写真を編集・加工できるアプリを使用して、二~四枚の写真を一枚にまとめた。写真は内容に関連するものを必ず選び、絶対に自分自身の身体が映っている写真は使わないようにした。


 次に外見を磨くこと。


 この業界は商品が自分自身であり、商品価値を上げるも下げるも自分次第。完全に実力勝負の世界だ。


 私は自信を持ってお客様にお見せすることができるボディラインを得るために、パーソナルトレーナーが在籍しているジムに加入した。週一回、パーソナルトレーナーから指導を受け、週二~三日のペースで筋トレと有酸素運動を行った。


 そして、触り心地の良い肌質を維持するためにエステに通った。全身脱毛は既に終えているが、全身くまなくしっとりした肌質をセルフケアで維持するのはかなり難しい。


 多少値は張るが、月二回のペースでアロマリンパマッサージを全身に施術してもらい、ノーファンデでも接近戦に耐えられる素肌を得るために、フェイシャルエステにも通いだした。スキンケア用品も見直し、フェイスパックは毎日、朝とお風呂上りに必ず行った。


 毎月ネイルサロンに通い、美容院ではカット・カラーに必ずトリートメントをつけて、髪のメンテナンスにもお金を使った。


 最後に顧客リストを作成をすること。


 スプレッドシートに顧客の名前、年齢、体格、出身地、仕事内容、家族構成、趣味、好きなもの、使用したホテル、コース、プレイスタイル等の項目を作成し、話した内容などを記載していった。


 コンスタントに通ってくれるお客様はSランク、三回以上リピートしてくれたお客様はAランク、二回リピートしてくれたお客様はBランク、といった具合にお客様をランク分けして管理をする。本指名のお客様と会う前に、必ずお客様の情報を確認し、前回の会話を踏襲しながら話せるように意識した。


 この三点を実行したおかげで移動中の読書、映画を見ながらストレッチや軽い筋トレを行う習慣が身につき、都内にあるおしゃれなカフェやレストランに少し詳しくなった。


 ジム代も含めて毎月の美容費は家賃の倍近くに上がったが、お金をかけた甲斐があり、何回シャワーを浴びても肌がカサカサになることなく、ファンデーションを塗らなくても人前でさらけ出せるほど、素肌のコンディションが整った。そして、ジムに通って三カ月たつ頃にはボディラインにも変化が現れ、「痩せた?」と言われることが増えた。


 美容にお金をかける分、服はユニクロやGUなどでコストを抑えるようにしたが、下着だけは安っぽいものを身に着けるわけにはいかないので、ワコールで派手すぎないものを選んだ。そして、靴はダイアナで購入し、全体に安っぽく見えないように工夫した。


 顧客リストに誕生日の記載があるお客様には、誕生日が近くなればサプライズでお祝いをした。体が疲れているというお客様には、YouTubeで見て学んだ指圧のマッサージを行い、心身ともに癒されて帰って頂くようサービスを心掛けた。


 そして様々なお客様と会話を弾ませるために、アプリで経済新聞を読みビジネス雑誌を読むようになった。全く分からないジャンルの話を振られたときには知ったかぶりをせず、徹底的に聞き役に回り、次回指名された時に備えて調べものに明け暮れた。


 その甲斐あって、入店半年後には売上ランキングが十位に上がり、会社員時代の月収を倍にしても余裕で超えるほどの収入が、本指名だけで賄えるようになった。これに新規からの指名を加えれば、にやけてしまうほど収入が増える。


 目に見えて収入に変化があると俄然やる気が出てくる。実践したことが収入に反映される面白さに気づいた私は、さらに収入を増やすべく毎月の総指名数の内、本指名数が占める割合を計算し毎月記録するようになった。


 先月より本指名数が占める割合が増えれば、その原因を考え、継続して実践し、先月より本指名数が占める割合が下がれば、その原因を考え、改善した。


 入店して一年たつ頃には売上ランキングと、本指名数ランキングは五位以内の成績を常にキープできるようになった。しかし、売上ランキングでは目標だった愛花さんを超えられるようになったものの、本指名数ランキングでは圧倒的に愛花さんが首位をキープしており、私はいつも二~五位の間をウロウロしていた。


 目標である愛花さんを追い抜くことはできないものの、安定した収入基盤が出来上がったことに安堵した。もちろん、今の成績に胡座をかくわけにはいかない。今月の努力が三ヶ月後の売上の基盤になると心掛け、努力を怠らないように常に自分に言い聞かせた。


 毎月の借金の返済額を大幅に増やしても、少しは貯金できる余裕ができ、私は人生で初めて仕事にやりがいを感じたのである。


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