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あなたの腕の中で性と向き合う  作者: 瀬戸 航帆
第5章 人生の選択肢
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第37話 絵麻の展示会で

 数千ものブースが並んでいるイベント会場は相変わらずの混み具合だ。絵麻と大学のサークルメンバーと共同で出店していた頃を懐かしみながら、絵麻が出店しているブースを探した。


 例年ながら様々なジャンルのブースが列をなしている。アクセサリー、革製品、ガラス製品、貴金属や木工雑貨、服、鞄、スマホケース、ネイルチップに絵画など、実に様々なハンドメイド作品が販売されているので、見ているだけで創作意欲が湧く。


 絵麻のブースは遠目からでもすぐにわかるくらい目立っていた。多くの色がごちゃごちゃしている空間にぽっかりと青一色。それは思わず目が引き寄せられ、自然と足が向いた。ちょうど接客を終えて、お客様にお辞儀をしている絵麻に声をかける。


「おつかれ。今年はずいぶんと趣向を変えたね」


 絵麻は嬉しそうに振り返った。つい2か月前に会った時は派手な髪色だったが、今は黒髪に毛先がほんのりと青いショートカットだ。お店のイメージに合わせているのか、真っ青なツナギを着ていた。私は似合ってるね、と褒めながら手土産のクッキーを渡した。


「ありがとう。よかったら見ていって。今回のテーマカラーは青色だよ」


 そう言って、作品を説明してくれた。


 ブースに設置されている棚に並んでいる焼き物は全て青色で統一されており、釉薬で色付けされている食器と、素焼きに水彩絵の具を塗ったような質感の食器が2種類が販売されている。

水彩絵の具のような色合いの食器は、彫刻で模様を削っているようで、地肌が白い線となって浮き出ている。模様は細かく、エスニック彫のものもあれば、日本の伝統模様、絵本に出てくるような可愛らしい動物など多岐にわたっており、選ぶ楽しさがある。


「もしかして、これ全て手彫り?」

「そうだよ」


 当たり前じゃん、という顔をした絵麻に舌を巻いた。この量の作品を全て手彫り?いったいどれだけ時間がかかったことか。


 私は作品一つ一つに貼られている値段シールを確認した。手が込んでいる割にはリーズナブルすぎる。


「全て手作業なら、もう2~3割高くてもいいんじゃない?」

「まぁ、このイベントは趣味で出店しているからいいの。陸が手伝ってくれているから人件費はタダ」


 笑いながら絵麻が言った。そんな人件費がタダな陸さんは、ブース内で忙しそうに商品を新聞紙でくるんでいる。


 少し絵麻が羨ましくなる。好きなことで生計を立てていく。簡単なことではないとは思うし、理想と現実とのギャップだってあるだろう。しかし、人生を費やしてでも没頭できるものがある、そのことが羨ましい。


 ゆっくりと見ていってね、と絵麻は言い残し、新しく来たお客さんの接客をし始めた。ひっきりなしにお客様が足を止めて、絵麻の作品を見て行く。何千とブースがある中で、これだけのお客様が足を止めることは凄いことだと思う。それだけ、絵麻のブースが魅力的であることを物語っていた。


 せっかくだから私もなにか購入しようと思い、模様が彫られているコーヒーカップと、カレーをよそうのにちょうど良さそうな食器を物色した。


 クジラ柄のコーヒーカップとお皿を手に取ると、絵麻に購入したい旨を伝えた。絵麻は特別に、と少し安くしてくれたので追加で小皿も買った。私の前に2人ほど先客がおり、商品を手渡されるのを待っている。陸さんが梱包しているのを眺めていると、すぐ左隣で女性の楽しそうな声が聞こえた。


「優太、見て!すごい可愛いよ」


 さっきまで私が物色していた、絵柄が彫られている食器コーナーに男女のカップルが立っていた。私は優太、と呼ばれた男性の顔を見ると、慌てて顔をそむけた。毎週末、私を指名してくれている白川優太だ。


 私はブースの端に展示されている食器を見るふりをして少しだけ距離を置き、こっそり左隣にいる女性を伺った。横顔しか見えないが美人だ。背が高く足が長い。細身のジーパンに黒い革ジャケット。ショートカットが似合う小顔。ボーイッシュな雰囲気があってかっこいい。以前、写真で見せてもらったゆずさんだ。


「優太、こちら絵麻。私が通っている陶芸教室の先生で、高校の時、同じバレー部。絵麻、彼氏の優太」


 ゆずさんがテキパキとお互いを紹介している。


「どうも!高校の同級生アンド陶芸の先生でーす」


 軽いノリで絵麻が挨拶をしている。まじか。私はドキドキしながらその場に立っていた。


「知夏ちゃん、お待たせ」


 新聞紙にくるんだ食器類を紙袋に入れて陸さんが手渡してくれる。私はお礼を言い、軽く頭を下げてその場を後にした。


 優太の誕生日の日に話を聞いて気になってはいたが、わざわざ友人を紹介するくらいなのだから、きっと上手くいっているんだろう。しかし、まさか絵麻の高校の同級生がゆずさんだったとは。世の中が狭すぎて恐ろしい。


 寂しさを感じつつも、彼の本来の目的に貢献できたのなら、それで良かった。そう思おうとした。



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