第34話 祖母の死
私は初めて、人の手が加えられていない死んだ人の顔を見た。死んでいるとは思えないほど、安らかで満足そうな顔をしていた。
冷蔵庫を開閉したことを知らせる通知が朝になっても来ず、私は父とイチ兄と一緒に様子を見に行った。
最初はただ寝ているだけかと思って、ホッとした。しかし、イチ兄はすぐに祖母に声をかけ、脈拍を確認すると救急車を呼んだ。
到着した救急隊員にイチ兄はテキパキと応え、病院に付き添った両親の代わりに、自宅で亡くなったため事情聴取に来た警察の対応を行った。私は何を手伝えばいいのかわからず、邪魔にならないよう突っ立ったままその様子を見守っていた。
私は有給が溜まっているから、と嘘をついて一週間仕事を休んだ。予約をして頂いた本指名の方には、店長からキャンセルの連絡をしてもらった。優太に一言謝りたかったが、連絡先を知らないので仕方がないとはいえ、申し訳なかった。
光枝叔母さんの到着を待って祖母の家で葬儀を行った。祖母の友人はすでに亡くなっている方も多く、存命の方でも高齢のため施設に入っている人が多かった。それでも訃報を聞きつけた祖母の友人たちが車椅子で、もしくは杖をついて駆けつけてくれた。速やかに祖母の友人知人に連絡ができたのも、イチ兄がこの時に備えて、祖母の友人の連絡先をあらかじめ作成していたことを、葬儀の準備をしている時に知った。
お坊さんのお経を再び聞きながら、私は祖母を羨ましく思った。
享年九十三歳。大往生だと思う。
もちろん、亡くなってしまったことは悲しい。しかし、それ以上に、満足げな顔で永遠の眠り についた祖母の顔が、強烈に印象に残った。祖母は祖父と同じような形で人生の幕を閉じた。長年連れ添った祖父を想い続け、ひ孫達に囲まれて「なんの悔いもない」と言って死んだ私のばあちゃん。どんな人生が理想か、それは人によって答えが違うだろう。でも私にとっては間違いなく祖母の生き方は最高に理想的だった。
葬儀を終えて遺品整理を手伝った後、日曜の夜に西日暮里の家に帰宅した。
私はパソコンを開くと、兄達が話していた介護について調べた。介護と言っても様々なものがあり、とりあえず施設と在宅に分けられる、ということが分かった。しかし、そこから先は種類が多すぎてよくわからない。介護職の仕事に多少の興味が湧いたが、それ以上に祖母の家の冷蔵庫についていた見守りセンサーに興味が湧いた。
見守りセンサーをネットで調べていくと、驚くほどの種類がヒットした。思った以上に、IT化が進んでいる。介護と言えば、スタッフが手取り足取り介助するイメージしかなかったが、今では実に多種多様な機器が販売されている。
私は転職エージェントの鈴木さんと松永さんにメールを送った。介護関係のIT商材に興味があります。求人はありますか、と。




