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あなたの腕の中で性と向き合う  作者: 瀬戸 航帆
第4章 元の生活に戻るために
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第29話 転職エージェントの発掘

 十五人のエージェントと面談をして、転職活動のサポートをお願いしたいと思える人を二人見つけることができた。


 二人のうち一人は鈴木さん。奥さんが元キャバ嬢であり、水商売から昼職に転職したい人や、子持ちのママさんの転職活動を得意分野としている。もう一人は松永さん。落ち着いた紳士的な中年男性で、中小企業を得意としている。


 そもそも転職エージェントを見つけることに、ここまで労力が割かれるとは思ってもいなかった。求職者と転職エージェントをマッチングさせるサイトで、驚くほどのメッセージ数をもらった。だが、私の年収だけを見て、このような仕事を紹介できます、といきなり求人ベースで連絡を取ってくる人とは合わなかった。


 確かに、私の年収ならハイクラスの転職希望者と見受けられるだろう。しかし、一般企業で年収一千万円以上を稼ぐのと風俗で年収一千万円以上稼ぐのとでは全く性質が異なる。さすがに風俗で稼いでいる年収と、同等の年収の仕事ができるとは思っていない。私にそこまでの能力も経験もないことは、重々承知している。


 そういった誤解を与えないために、正直に経歴を記載しているのに、全く確認せずに連絡をしてくる人が多い。


 私は登録している年収をわざと低めに登録し直した。あまりにも低すぎると風俗嬢のくせに稼げていない、と思われるのも嫌だったので、とりあえず実際の年収の八割で記載し直した。


鈴木さんと松永さんは初回メッセージに、経歴を拝見いたしました、と丁寧に記載してあった。

エージェント探しに疲れ気味だった私はその時点ですでに好印象だった。


 私は風俗嬢を卒業したらどのような生活を送りたいのか、寝る前に考えるようになった。これは鈴木さんからのアドバイスだ。水商売や風俗から一般企業に転職すると、必ずと言っていいほど年収は下がる。どの程度の生活水準を保ちたいか、まずはイメージし、それが叶うような年収が稼げる仕事を探すのはどうか、と言ってくれた。さすが奥さんが元キャバ嬢なだけある。


 私はとにかく普通の生活を送りたかった。私にとっての普通の生活とは平日は仕事をし、土日はゆっくりと休み、遊びに行く。自炊を行い、たまに外食を楽しみ、旅行は年に一~二回いければ十分。そして好きな人を見つけて、穏やかな時間を過ごしたい。刺激的なものは何もいらない。身の丈に合った生活を送りたい。


 真田店長が言ってくれた時間とお金の優先順位を考えると、私は時間の優先順位が圧倒的に高かった。今までの収入をキープしたい、もしくはそれ以上稼ぎたい、という理由は私にはもうない。


 私は次の日、藤本店長に会長からの提案を辞退したい旨と、年内で退店したい意向を伝えた。それを伝えた時の藤本店長は、こちらが申し訳なく思えるほどがっかりしていた。会長には電話で伝え、ありがたいことに残念がってくれたが、私の意見を尊重してくれた。


 これでとにかく、転職活動の方向性がある程度決まった。エージェント探しを初めて約一ヶ月。あと数日で九月が終わる。やっと私が理想とする普通の生活に向けて動き出せることに心が弾んだ。


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