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あなたの腕の中で性と向き合う  作者: 瀬戸 航帆
第3章 プロの風俗嬢として働くということ
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第23話 優太との日々

 それからというもの、毎週土曜日に十時から三時間コースで、優太さんが指名をしてくれるようになった。彼とは会うたびに、どんどん気さくな関係になっていく。お互い呼び捨てで名前を呼ぶようになり、楽しくおしゃべりに興じては一緒に寝た。


 プレイ終了後、掛け布団にくるまり優太からゆずさんの話を聞いた。一級建築士の筆記試験が終わり、一緒に遊びに行ったそうだ。私はこの話を聞いて一級建築士の試験が、筆記と実技の二段構えであることを初めて知った。


「彼女と会うの、一ヶ月ぶりだったんだけど、前ほど辛いって思わなくなった」

「…彼女と一緒にいるの、辛かったの?」

「いや、辛いというか、楽しいんだけど、やっぱり寂しいというか。彼女といる時、やっぱり俺って男としては必要とされてないんだろうな、って思うと結構悲しくて、辛い時もあったけど、今は穏やかな気持ちで一緒にいられるよ」

「そう。良かった」

「俺のこと、男扱いしてくれてありがとう」


 彼のたくましい腕に抱きしめられ、私は、どういたしまして、と答えた。男として女として、その人の性を誰かから求められることは、その人自身の自尊心を維持するために重要なことなのかもしれない。もちろん、そうじゃない人もいるだろう。しかし、本音では男として求めて欲しい、と思っている人が、彼女から男として必要されないのであれば、それは辛いだろう。


 もし、私が恋人から人として求められたとしても、女として必要とされないなら、おそらく相手を恋人として認識することは難しいかもしれない。


 帰り支度を済ませ二人でホテルから出ると、容赦ない真夏の日差しが降り注いだ。私はすかさず日傘を差し優太と手を繋ぐと、解散場所である交番前の交差点までやってきた。


 いつもはここで優太が道玄坂を下っていくのを送っていくが、なかなか手を離そうとしない。日 傘を傾けて見上げると、優太が真顔で言った。


「この後って事務所に戻るの?」

「いや」

「お昼食べる感じ?」

「いや」


 テンポよく否定しすぎたかもしれない。でも、次の予約が入っているので、そろそろ移動しなければならない。


「…次、予約入っている?」

 私は少しだけ肩をすくめる。


「渋谷?」

「いや、恵比寿」

「何時から?」


 今まで聞いてこなかった質問をいきなりしてきたので、私は困ってしまった。


「どうしたの?」

「ごめん…」

「いいよ。私、山手線で移動するけど、途中まで一緒に移動する?」

「…じゃあ、一緒に駅まで行こう」


 私は繋いでいる優太の手を揺らして笑いかけた。彼のことは好ましく思う。しかし、特別な感情を向けられるのは困る。本来の目的を見失わないでほしい。


 交番前の横断歩道を渡りマークシティの中に入ると、ひんやりとした冷気に包まれる。快適な空間を進みながら、優太が来週に彼女と北海道旅行に行くと話をした。


「お土産買ってくるよ。何がいい?」

「なんでもいいよ。北海道いいなぁ、何を食べても美味しいよね」

「行ったことある?」

「大学の時の元カレと旅行で」

「そうなんだ」


 私が初めて愛した男性を思い出した。彼とは五年付き合ったが、結婚したら仕事を辞めて一緒に地元に来て欲しい、と言われて私は頷けなかった。当時の私は、仕事を辞めることも、知り合いが全くいない土地に行くことも受け入れられなかった。そんな彼も、去年結婚したと大学の同級生に聞いた。奥さんと地元に戻ったらしい。


 優太がなにか言いかけようとしたが、山手線の改札口についてしまった。予定より時間が押していたので、申し訳ないとは思いつつも、私は別れを切り出した。


「見送ってくれてありがとう」


 手を離そうとすると強く握ってくる。向日葵が描かれたネイルを指でさすっている彼の手を、私は笑いながら両手でそっと外した。


「北海道旅行、楽しんできて」

「ありがとう。来週の土曜日にまた予約入れるから、その時にお土産持ってくよ」

「楽しみにしている」


 手を振りながらホームへ向かった。私は気持ちを切り替えるために、イヤホンを付けるとテンポの速い曲を流した。次のお客様は私が新人の頃からずっと指名をし続けてくれるナカネ様だ。情報は全て頭に入っているが、恵比寿駅までの短い時間の間、私は顧客リストに記載された情報を目で追い続けた。



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