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あなたの腕の中で性と向き合う  作者: 瀬戸 航帆
第3章 プロの風俗嬢として働くということ
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第21話 リベンジの帰り道

 優太さんから受け取ったお金を清算するために、事務所に戻る途中でノンセクシャルについて検索した。どうやら、ノンセクシャルとは恋愛感情を抱くことはあっても性的行為は望まない。ただし、性欲の有無は個人差があるらしい。


 私のように性別問わずに性的な魅力を感じるバイとは、正反対のタイプだ。人肌が恋しい、というあの渇望じみた苦しさがそもそも無いとしたら、羨ましくも思えた。


 私の幼少期は異性よりも同性に惹かれることの方が多く、気になる女の子の前では良くドキドキしたものである。同じように男の子を好きになることもあったが明確に違いがあった。それは男の子に対してはライク、女の子に対してはラブ、の違いである。


 私は小学校、中学校、高校と学校が変わるたびに違う女の子を好きになり、ひたすら片思いし続けた。男性に淡い恋心を抱く瞬間もあったが、それはすぐに割れて消えるシャボン玉のように、あっという間に消えてしまう。しかし、女性への恋心は私の中にしっかりと根を張る。


 好きな子が好きな人の話をするたびに、私は一番仲が良い友人として話を聞き、時にはアドバイスをし、家に帰れば泣いていた。だが、私は好きな女の子にとって一番身近な人物になりたいがために、ひたすら良い友人役を演じていた。私の片思い期間はだいたい二~三年続き、卒業と同時に実ることのない恋に終止符を打った。


 高校生になる頃には、同性ばかりに思いを募らせてしまう自分はレズビアンなのでは、と思い始めた。当時は同性愛者に対する法的な整備も、多様性という言葉も浸透していなかった。私は一般的な人たちのように家庭を持つことができない、と考えており、それが当時の最大の悩みだった。


 大学に入学し、女性を好きになるのと同じくらいの熱量で好きになれる男性を見つけた時には、嬉しさのあまりホッとして泣いた。私はレズビアンじゃなくてバイセクシャルだった。これで私も普通の人々と同じように、結婚して家庭を持つことができる。


 今まで好きになった女性へ、ついに自分の気持ちを一度も伝えることなく終わった。私はそれぞれの結婚式に参列した時、祝福の気持ちを述べながらも、ゴールすることのない同性への恋に虚しさを覚え、そして疲労を感じた。そして、異性を好きになったほうが、とんとん拍子で物事が上手くいくことに気が付いた。


 私は絵麻にラインを送った。


「今日、性欲がない女性と付き合っているお客様が来たよ」

『それってノンセクシャルのこと?』

「そういうの詳しい?」

『別に詳しくはないけど、友達でそういう子がいるから』

「そうなんだ。性欲が無いってどんな感じなのかしら?」

『それはわからん』


 私はゆずさんのことを話してくれた優太さんのことを思い出した。好きな人に触れられない、その辛さはよくわかる。状況は違えど同性を好きになった時、相手に触れないようにとにかく意識をしてきた。それは、女同士のいちゃつきとは別の意味を持つだけに、気安く触ってはいけないような気がしたのだ。


 性欲がない人とある人が付き合うのは、ミスマッチではないのか。どちらも苦しくはないのだろうか。しかし、それは外野の意見で、当事者同士はもっと別の価値観で生きているのかもしれない。


 もし優太さんが我慢に我慢を重ねて、ついに風俗を利用せざる負えない状況になるまで自分を追い込むタイプではなく、もっと気楽に女遊びをし、つまみ食い感覚で風俗を利用する人だったら、事はもっと単純だったのかもしれない。


 しかし、彼と話してみて、割り切った気持ちで行動を起こせないタイプなだけに、しんどかっただろうな、と思う。次に指名を受けた時には、少しでもその辛さが和らぐように尽くしたい。



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