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あなたの腕の中で性と向き合う  作者: 瀬戸 航帆
第3章 プロの風俗嬢として働くということ
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第17話 事務スタッフ

 高額なチップを手にしてホクホク気分で事務所に戻ると、席に着きSNSの更新や領収書の作成に取り掛かった。


「四番シートにぃ、アイリさん入りますぅ~。花びら大回転~」


 藤本店長は前に勤めていたピンサロ時代の口上を、口ずさんでいる。これは藤本店長の機嫌が良い時の口癖だ。事務所に設置されているディスプレイを確認すると、本日の売上ノルマを大幅に超えている。なるほど。機嫌がいいわけだ。


 電話が鳴り、私はすぐに受話器を取った。ここではワンコール以内に電話に出る、という体育会系のようなルールが存在している。


「お電話ありがとうございます。人妻専門渋谷店です」


 話しながらディスプレイに表示されている番号を、パソコンに打ち込んで顧客検索を行う。お客様が話し始める前に、顧客情報を表示させることにもだいぶ慣れた。


『さっきあかりさんを予約したものだけど』

「はい、タナカ様ですね。ご利用頂きましてありがとうございます」


 顧客情報にざっと目を通す。タナカ様、店舗利用歴五年の常連だ。愛花さんの本指名だが、珍しく朱里さんを指名している。恐らく愛花さんが予約一杯で、藤本店長が他のキャストを勧めたのだろう。


『さっきの子、ひどいよ。遅刻してきたうえに、愛想笑い一つもしない。ものすごく作業的だし。ここのお店は普段使わせてもらっているから、他に良い子がいるのは分かっているけど、新規のお客さんがあの子に当たったら、お店の評価が落ちるよ』


 穏やかな声で伝えられるクレームに、私はひたすら頭を下げ詫びた。タナカ様は、次は愛花さんを指名するよ、と言って電話を切った。


 私はため息をついた。朱里さん、キャスト年齢三十二歳、実年齢三十六歳、入店して半年経つキャストである。今のクレームは朱里さんが稼げない理由を、端的に示した言葉だった。


 週三のペースで出勤しているが、本指名が一人もいない。本人はお店が悪い!全然稼げない!と、クレームを言ってくるが、毎回必ず一人はお客を付けているにも関わらず、半年間勤務しても本指名ゼロというのは、どう考えても本人に問題がある。


 どうして稼げないのか自己分析ぐらいしろよ。二十代は若さを換金できるよ?脱げば稼げる世代だよ?でも、三十歳を超えたら頭使えよ!このオバサンが。だから稼げねぇんだよ!


 私は内心大きく舌打ちをしながら、隣に座っている藤本店長に声をかけた。


「朱里さんを指名したタナカ様からクレームが来ました」

「マジ?なんて言っていた?」


 私はタナカ様が言った言葉をそのまま伝えた。


「いやー、そっかぁ。朱里さん、どうにかならないかな。怖くて新規のお客様はつけられないんだよね」

「店長からビシッと言ってくださいよ」

「いや、この前言ったら、女性を稼がせるのがあんた達の仕事でしょ、って言われたよ」

「救いようがないですね…」


 お互い大きくため息をついた。稼げないとわかればキャストはすぐに他のお店に移動する。しかし、朱里さんのようになぜか居続けるキャストもいる。ここなら、出勤すれば必ずと言っていいほど一人はお客様がつく。収入ゼロということが滅多にないからだろう。


 私は心の中で朱里さんに対して毒づいた。タナカ様のような常連客がアンタに当たったとしても、店から離れてはいかないよ。でも、新規客や利用回数が少ないお客様はそうじゃない。アンタみたいなキャストの評価が、そのまま店の評価に直結するんだよ!この店はハズレだな、って。そうなったら、他のキャストにとって機会損失なんだよ!少しは頭を使え!


 イライラしながらなんとか舌打ちだけは堪え、気持ちを切り替えて鳴った電話に出た。


「お電話ありがとうございます。人妻専門渋谷店です」

『…』

「…あの、もしもし?」

『あ、すみません。初めて電話かけているんですが…』


 戸惑ったような声が聞こえた。


「初めてのご利用ですね。店長に代わりますので、少々お待ちください」


 私は保留ボタンを押すと店長に声をかけた。


「店長、初めてのお客様です。女性相手だと話しにくそうなのでお願いします」


 店長が頷きすぐに電話に出る。風俗店の電話の受付をやっていると、たまに女性スタッフだと話がしにくい、というお客様がいる。今回も恐らくそのタイプだろう。


「莉奈さんをご指名ですね!ありがとうございます」


 隣から弾んだ声が聞こる。あ、私指名だったのか。新規のお客様が最初に指名してくれるのは素直に嬉しい。聞き耳を立てていると一週間後の七月五日土曜日に予約が取れたようだ。私はどんなお客様なのか想像した。渋い声だったから五十代くらいだろうか。いい人だったら良いな、と思う。


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