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あなたの腕の中で性と向き合う  作者: 瀬戸 航帆
第3章 プロの風俗嬢として働くということ
17/50

第16話 複数プレイ

「莉奈さん?」


 名前を呼ばれて携帯から顔を上げると、明るいショートカットのお姉さんが手を振っている。


「あ、はい。舞さんですか?」

「そうそう。ってか若いね!?いくつ?」

「今年で三十歳です」

「まじか!干支一緒じゃん。ペアがこんな年上でごめんね。今日はよろしく」

「こちらこそよろしくお願いします」

「さっき店長から連絡があって、お客さんが一時間遅れるみたいだから近くで待機していて、だってさ。あ、でも待機中も料金は払ってくれるみたいだよ」


 ラッキーだね、と舞さんは笑いながら、あそこのカフェに入ろう、と指をさした。一緒にカフェに入り、席に座ると飲み物を注文する。


 舞さん、キャスト年齢三十五歳。お店に在籍して五年目になるベテランキャストだ。実年齢四十二歳のバツイチ、子持ち、と藤本店長から聞いている。


 舞さんはスタイルがよく、タイトスカートがよく似合う。シースルーのトップスに薄いカーディガン、鮮やかなオレンジのハンドバッグに高めのヒールのサンダル。華やかな雰囲気をまとったお姉さん、といった感じだ。そして、とても四十過ぎには見えない。


「てか、莉奈さんって、お店のスタッフもやっているよね?」

「え、どうしてご存知なんですか?」

「前に事務所に行った時に見かけたのよ。面接で来ていた人にお茶出していたでしょ?女性のスタッフは今まで何人か見たことがあるけど、初めて見る顔だったし、かわいい子がいるなって思ったんだよね。実は私もスタッフやっていたんだよ」


 舞さんの気さくな話し方に私は好感を持った。


 今日は久しぶりの複数プレイのご指名を頂いた。複数プレイとは、お客様一名に対してキャストが二人以上付く仕事のことだ。複数プレイの仕事ではキャスト同士の相性が大事なので、舞さんとはうまくやれそうでホッとする。


「そうだったんですね。舞さん、どうしてお店のスタッフ辞めちゃったんですか?」

「正社員の仕事に就けたからよ」

「今はどんなお仕事されているんですか?」

「スーパーの店員」


 でも、給与が安いのよね、とため息をついた時に注文したドリンクが運ばれてきた。私はカフェラテ、舞さんはレモンティーを飲む。


 舞さんはとにかく話題が豊富だった。彼女は高校卒業後、銀座でホステスとして働き、二十五歳の時に常連のお客様と結婚。翌年に第一子を産んだが、旦那の不倫がきっかけで離婚。養育費の支払いが途絶えたことをきっかけに風俗業界に足を踏み入れたそうだ。


「元夫の浮気相手が妊娠しちゃってさ。その子、二十歳のキャバ嬢なのよ。水商売の女は妊娠したら働けないでしょ。会社員じゃないから、産休も育休も取得できない。生活が苦しくなるのは目に見えていたから、元夫に責任取って一生面倒をみてやれ、って言って離婚したのよ」


「え、舞さん、男前ですね」

「ありがと。結婚した後も元夫が、女遊びしていることは知っていたから気持ちは冷めていたし、潮時かな、と思ってさ」

「あの、どうしてスーパーで働いているんですか。舞さんほどのスペックがあるなら、クラブで十分稼げるんじゃないでしょうか」

「スナックやクラブだと勤務時間が夜になるじゃない。夜は子供のそばにいたいの。私、母子家庭育ちなんだけど母親がスナックをやっていてさ、女手一つで育ててくれたことは感謝しているけど、一人で食べる夕飯は寂しかったんだよね」


 子どもにはそういう思いさせたくないだけ、そう言いながら舞さんは、レモンティーのストローでゆっくりと中身をかき混ぜた。結構ハードな人生を送っているのに、湿っぽさも自分を憐れむ雰囲気も一切ない。自分の人生に対する嫌味のようなものもない。あくまでも、そんなこともあるよね、と前向きな感じだ。


「ま、でも私にとってこの仕事って、いい意味で息抜きになっているのよ」


 それを聞いて私は、思わずキョトンと首を傾げた。


「疑問が顔に出すぎだよ、莉奈さん」


 豪快に笑う舞さんに、首をすくめるようにして謝る。


「やっぱ私も女だから、たまには男性と寝たいって思うわけ。でも不倫や浮気対象にされるのはいやだから、この仕事なら奥さんから訴えられることってまずないでしょ。お金も稼げて、やることもできて一石二鳥じゃない」


 まじか、この人。さらっとお客様とセックスしていることを認めたわ。暗黙の了解とはいえ、本番行為は厳禁という建前の元、私たちは働いている。


 そんな私の考えを見透かしてか、舞さんは頬杖をつきながら片方の口角だけを器用に上げて笑った。


「舞さんは、その、性欲解消のために働いているんですか?」

「それもあるけど、目的は子供の大学進学費を貯めるため。うちの子、結構成績が良いの。子どもが進学したいって言ったら私立の大学でも、奨学金を借りなくても行けるようにしてあげたいのよ」


 男性相手に体を張る仕事は、思った以上にストレスが多い。しかし、そのことさえ楽しんでいる生き方に、私は共感を覚えた。


「莉奈さん、売上ランキング上位なんだって?店長から聞いたよ」

「そんなことないです」

「でも、ランキング上位なのもわかるな。莉奈さんって話しやすいもん。初対面なのに自分のことをベラベラ喋っちゃた。自分ばっかり喋ってごめんね」


 舞さんが両手を合わせて謝ったところで携帯が鳴った。舞さんが携帯を耳に当てながら、承知しました、と答える。どうやら仕事がこれから始まるようだ。


「お客さんがホテルに着いたって。いこっか」


 サッと伝票を取り、舞さんがレジへ歩いていく。慌てて後ろを追いかけながら財布を取り出した。


「あの、自分の分、払います」

「いいのよ、年下の子に出させるわけにはいかないでしょ」


 いいから、と優しく背中を押されて、先に店を出るように促される。私はありがたく好意を受け取った。


「すみません、ごちそうさまでした」

「全然いいよ。ホテル、すぐそこだって」


 舞さんについていくと、そこは有名な高級ホテルだった。


「ここのホテルに女性2人も呼ぶなんて、お金持ちだね」

「ですね」


 上品なロビーを抜けて、エレベーターで十八階へ昇る。指定された部屋をノックするとガタイのいい中年男性が現れた。


「待たせて悪かったね。さ、入って」


 失礼します、と言いながら部屋に入ると、キングサイズのベッドが置かれており、かなり広々とした部屋だ。


「せっかく三時間で予約したんだけど、打ち合わせが長引いちゃってね。十六時まででもいいかな?料金は三時間分渡すから」


 ガタイがいいので怖そうな印象だったが、意外にも優しい言い方で安心した。時計をみるとちょうど十四時半。九十分の仕事で三時間分の料金がもらえるなんてラッキーでしかない。私は舞さんに向かって頷いた。


「大丈夫です」


 舞さんが答え、二人分の料金を受け取る。金額を確認して、お店へ報告の電話を入れた。


「さて、どっちが舞ちゃん?」

「私です」

 舞さんが元気よく手をあげた。


「じゃあ、君が莉奈ちゃん?」

「はい」

「俺のことは、まぁ、ムタって呼んで」

 良かったら座りなよ、とソファーを勧めてくれたので私たちはムタさんの向かいに腰かけた。


「莉奈ちゃん、若いよね?いくつ?」

「今年で三十歳です。」

「ってことはまだ二十代?」

「はい」

「俺の娘とあんまり変わらないじゃん」


 ガハハハッ、と大きな声で笑い、背徳感やべぇな、とさらに陽気に笑った。


「ムタさん、私、莉奈さんと干支が一緒なんですよ」

「ってことは四十二歳?おばさんじゃん」

「えー、ひどい」

「ってことは、舞ちゃんが四十二歳なら俺と干支が一緒だわ」


 また、ガハハハッと笑う。その様子がおかしくて私たちも笑った。


「ムタさんは何のお仕事をされているんですか?」

「君たちと同業だよ」

 私の質問に手を組みながら、ムタさんが答える。


「えっ、風俗のキャストですか?」

「こんなおじさんキャストなんかいないよ。風俗店を運営してんの」

「へぇ!どこのお店ですか?」

「九州」

 東京へは観光ですか、と聞く舞さんに、いや、とムタさんが首を振る。


「東京に店を出そうと思ってね。その関係で来たんだけど、せっかくだから東京の女性と遊んで おこうかと思ってさ。ここのお店、初めて使うけどアタリだよ」

 アタリ、と言われて悪い気はしない。


「ちなみに君たち、複数プレイの経験は?」

「あります」

 はっきり答える舞さんの隣で私も頷く。


「ふぅん。女同士でやったことあんの?」

「ありますよ」

 あっけらかんと言う舞さんに、ムタさんがへぇ、と笑った。


「あ、バイ?」

「いえ、ストレートです。でも、昔、レズの子に告白されて。付き合うことはできないけど、女性同士ってどうやってやるのか興味があったから、何回か寝たことがあるだけです」

「へぇ、いいじゃん。莉奈ちゃんは?」

「…私はバイです。でも、そこまで経験しているわけじゃないです」


 ちょっと気後れして答える。女性経験がゼロではないとはいえ、豊富な性体験があるわけではない。舞さんがどの程度の経験値なのかはわからないが、ベッドプレイに入れば私の乏しい経験値をさらけ出す必要がありそうで、恥ずかしい。このムタさん、おそらく複数プレイに慣れている。私は男女関わらず、セックスにおいてはリードして欲しい派のため、できればリードしてくれるとありがたい。


「いいねぇ。莉奈ちゃんから見て、舞ちゃんってどう?」

「舞さんは綺麗でお姉さんって感じなので、私のタイプです」

 そう言うと舞さんが歓喜を上げながら抱き着いてきた。


「やだ、何この子!可愛い!莉奈ちゃん、って呼んでいい?」

「いいね!いいよ!マジでアタリだわ」


 そんな私たちを見ながら、ムタさんがのけぞるように笑い出した。


 シャワー浴びておいで、と言われて私たちは交互にシャワーを浴びると一つのベッドに集結した。複数プレイは今まで何度か対応したが、一番楽しいプレイだった。


 お互い嬌声をあげながらベッドの上を跳ねたり入れ替わったり、とにかくじっとしていることがない。そして舞さんの乱れっぷりはエロかった。女性の私から見てもエロいと思うのだから、男性からしたらたまったもんじゃないだろう。


 プレイが終わり、シャワーを浴びて着替えるとムタさんが分厚い財布を開いた。ぎょっとするほど一万円が収まっている。


「二人とも良かったよ。これ、とっておいて」

 そう言って、私たちに三万円ずつ渡してきた。本番行為無しでこのチップの金額はさすがに受け取れず、断ろうとすると舞さんが、ありがたく頂戴しましょ、と言った。私は頭を下げて、ありがたく頂くことにした。


 また指名するね、と手を振るムタさんに手を振り返して部屋を後にする。エレベーターを待っている間、お互いの取り分の金額をそれぞれの鞄に入れた。


「また複数プレイの仕事があったら莉奈さんとペア組みたいわ」

「私もです」


 一緒にホテルを出ると、お互い手を振って別れた。


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