怒ってる
目の前には花畑が広がり、白い小さな花がたくさんのナズナがゆらゆらと風に揺れている。
見渡す限りの花畑の真ん中に一人ぽつんと立ちすくむ。
目が覚めて以来、ずっとここに来たかった。
「みんな!勇者!いる?」
しばらく待ってみても返事はない。
いつもはその場から動けないし振り向きも出来ないけど、怪我をしていないからか自由に動けるみたいだ。
とりあえず前に歩く。
夢の中だからか、ただ広いだけなのか、延々と花畑が続く。
ふと、みんなは私の身代わりになってしまったのではと思いつく。
私が帰ってこれたのはみんなが代わりに消えてしまったからなんじゃ…。
「それは違げーよ」
「よかった…無事だったんだね」
「ああ、みんな無事だぜ」
男の子だけみたいだけどみんな無事ならよかった。
姿は見えないけど。
「他のみんなは?」
「みんな怒ってるぞ」
「私が無茶をしたから?」
「俺達が怒ってるのはそうだな。勇者のにーちゃんはもっと怒ってるけど」
「エリンさんをちゃんと元に戻してあげられなかったから?」
「違う」
「じゃあどうして?」
「それはお前が考えなきゃ。それじゃあな」
「待って!」
「俺も怒ってるけどからな」
「ごめんなさい…」
返事は無く、一人花畑に残される。
どうしたら許してくれるんだろう。
突風に煽られ、追い出されるように花畑から吹き飛ばされて目を覚ます。
ゴンという音が響き、おでこに鈍痛が走って両手で頭を抱えると誰かの声が聞こえる。
「いっ………たぁ…」
「ごめんなさい…夢を見てて…」
声のする方を見ると右手でおでこを押さえるエリンさんがベッドの縁に腰掛けていた。
「どうしてエリンさんが私の部屋に?」
「部屋の前を通ったらなんだか声が聞こえて、うなされてるみたいだったから顔を覗いたら飛び起きて…」
「そうだったんですね…」
「怖い夢でも見てたの?」
「いえ、怖い夢ではなかったんですけど」
そういえば鍵をしていたはずなのにどうやって入ってきたんだろう。
それとリネがいない。
「あの、リネは?」
「私が入ってきた時にはいなかったよ?」
「じゃあ鍵はリネが?」
「そういえば普通に開いた…」
「おはようございます。何かありましたか?」
アリシアさんがリネと一緒に部屋に入ってくる。
「リネさんが急に走ってきてスカートの裾を引くものですから、ナズナさんに何かあったのかと」
「ちょっと夢を見ていただけです。ごめんねリネ、私は元気だよ」
駆け寄ってくるリネの顔をわしゃわしゃと撫でまくる。
「エリンさんも大丈夫ですか?おでこが赤いですが…」
「ああ、これなら平気平気」
「そうですか?それでは私は作業に戻りますね。もう少しで朝食が出来ますから食堂にいらしてください」
「わかりました」
「うん、ありがとう」
リネの頭を撫でてアリシアさんが部屋を出ていく。
「その…身体の方は平気ですか?」
「うん、あなたのお陰でね」
ひらひらと白い両手を振って見せる。
しかし黒くなった髪はそのままみたいだ。
綺麗な藁色の髪だったのに。
「そんな悲しい顔をしないで。人として戻ってこれたのはナズナのお陰だよ?さあご飯を食べに行こ?」
「はい…」
勇者はエリンさんをちゃんと元に戻せなかったから怒っているんだろうか。
みんなが怒っているから武器も使えないんだろうか。
半分上の空のまま、エリンさんとリネと食堂に向かう。
食堂に入るとガンドルヴァルガさんもいて、朝食をたべているみたいだ。
「おはよう三人共。エリン、今日ミミリ殿がまた来ることになっておる。来たら呼ぶから覚えておいてくれ」
「わかった」
「そうだ。ナズナもついでに経過を見てもらおう」
「わかりました」
魔力は回復しているんだろうか。
「さあどうぞ」
ガンドルヴァルガさんと話をしている間にアリシアさんが料理を運んでいてくれていたようで、テーブルにはパンとスープとサラダが並び、手にはリネ用のお肉も持ってきている。
リネは大人しくちゃんと座って待っている。
「リネさんもどうぞ」
アリシアさんが床にお肉のお皿を置くと尻尾を振って食べ始める。
私とエリンさんと椅子に座って食べ始める。
いつもと変わらず美味しいはずなのに、少し味がしない。
みんなが怒っている原因を考えて上の空の間に、気がつけば謁見の間でミミリさんに会っている。
謁見の間の中に小さな小屋が建っていて、その中でエリンさんとミミリさんが二人きりで話をしているみたいだ。
前のようにみんなの前で診られるわけではないみたいだ。
小屋から、エリンさんが出てきた。
「ナズナの番よ」
「わかりました」
扉を開けておいてくれているエリンさんに促されるように中に入ると、エリンさんが扉を閉じる。
小さな小屋の中には窓は無く、天井とテーブルの上に灯りが一つずつあり、テーブルの向こうにはミミリさんが座っている。
「座って」
言われるままに手前の椅子に座ると、ミミリさんにじっと見つめられる。
魔力を見ているんだろうか。
「何かあった?」
「いえ…特になにも…」
「せっかく増えてきた魔力が淀んでいるわ。嫌なことでもあったのかと」
嫌なことと言われれば嫌なことなんだろうか。
悪いのは私だからちょっと違うんだろうか。
「ここなら外に漏れないし、城の人達に話しづらいことでも私なら大丈夫よ。私はガンドルヴァルガの弟子でも部下でもないからね」
夢のことは確かに話しづらい。
ガンドルヴァルガさんは夢に惑わされるなと言っていた。
ミミリさんになら話していいだろうか。




