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ヘーンド遺跡

 遺跡の周囲には一本の草木も無く荒地となっていて、およそ五百年前にあったと伝わる戦いの傷跡が今もなお続いていることを感じさせる。


「レイゼリア、確かここは大昔はの前線基地一つだったと聞いているが」

「はい。当時の魔王軍に敗れ、属国となっていた東側諸国の攻撃で激しい戦闘になり、この通り未だに草木も生えぬ土地になってしまっているようです」

「兵士達や私達への影響は大丈夫か?」

「はい。土地の魔力が回復していないだけで毒や呪いは無いようです」

「そうか…しかし予想よりもゴーレムがいないな。動かなくなったものはいくつか見かけたが…」

「そうですね…数年前まではたくさん歩いていたそうなのですが…」


 ヘーンド遺跡の周辺には当時の名残なのか多くのゴーレムが徘徊しているという話が有名だった。

 長い年月でとうとう魔力が尽きたんだろうか。


「念のために警戒しろ。盗賊でも住み着いてるのかもしれない」


 お兄様がそう言うと一緒に遺跡の確認に来た六人の精鋭達が剣を抜く。

 近くの村人も近づかないというからありえない話ではない。


「中に入るぞ。ハーク、エレイナ、カルケンはレイゼリアを守れ。残りの三人は俺と先行だ」

「はっ!」


 遺跡の上部は崩れ、野晒し壁と床が残っているだけだが、

地下にいくつかの部屋が残っていると聞いている。

 崩れたどこかにガンゼツの武器が埋まっている可能性があるかもしれない。

 二人の兵士が先行し、お兄様とその背後を守る兵士と続いて、私の前を行く二人の男性の兵士と後ろを珍しい女性の兵士が守ってくれる。

 気配は感じず、動かなくなったゴーレムが三体。瓦礫と砂利だらけだ。地下への入口も埋まってしまっているんだろうか。


「何もないな…」

「お兄様、周囲の警戒をお願いします。魔法でまだ地下が残っているのか調べてみます」

「全員レイゼリアの言う通りにしろ」


 左手の中指に着けておいた指輪に魔力を込めて、石の床に手を突く。

 床に触れた手から波紋のように光が広がり波打っていく。

 一定以上の厚みと密度を持った物に光の波紋が当たると跳ね返り戻ってくる。

 戻ってきた波紋が手に触れると距離や大きさによって様々な感触が手に伝わる。

 もしも何かが埋まっていれば波紋が跳ね返り、私の手にそれを教えてくれる。


「お兄様、下にはまだ空間が残っているみたいです。左の角の先に階段が埋まっています」

「敵は?」

「ごめんなさい。そこまではわからないんです」

「わかった。お前は天幕に戻ってくれってのは聞いてくれなさそうだな」

「ええ、お兄様。ヘーンド遺跡を指定したのは私ですし、何か原因があるのならこの目で確かめたいのです」

「わかった。布陣はさっきのままだ。進むぞ」


 左の角の先にはゴーレムが倒れている。


「もしやゴーレムの下か?」

「そのようですね…」


 たまたまなのか守っているのか。


「七人ならなんとか押せるか?」

「試してみましょう」


 一番年長そうな兵士がそう答えると、大きなゴーレムに手を突いて構え、お兄様の掛け声で一斉に力を込めて押し始める。

 しかし残念ながら動かないようだ。


「力が出ない…」

「土地の魔力が無くなったままのせいかもしれません。おそらくみなさんうまく身体強化が出来ていないのかと」


 あまり数がないから使いたくなかったけど仕方ない。

 師匠から貰った小袋から種を二粒取り出して、手前の両角の下に種を押し込む。


「危ないので下がっていてください」


 ポケットから魔石を一つ取り出して右手に握り、右手の人差し指の指輪に魔力を込めると、緑色の宝石が光を放ち、めきめき、みしみしとした音と共に種をねじ込んだ両角に大きな蔓が育っていく。

 思った通り、空気中の魔力も大地の魔力もとても少ないのか右手の魔石がみるみる色褪せていく。魔力が足りるだろうか。


「姫様、お手伝いいたします」


 先程、エレイナと呼ばれた女性の兵士が色褪せていく魔石に両手をかざして魔力を込め始める。

 すると蔓が勢いを取り戻し、ゴーレムだった大きな石を持ち上げていく。

 倒れていた石が起き上がり、後ろに倒れて轟音が響く。


「ありがとう。あなた魔力が?」

「はい。少しだけですが」

「本当に助かったわ。ありがとう」

「魔法使いになれるほどの魔力はないらしいので微々たる魔力ですがお役に立ててよかったです」

「私やお兄様にだって魔力は無いのよ?。お兄様直属の兵士になれる程の努力家なら魔法だってきっとすぐに覚えられるわ」

「ありがとうございます。頑張ってみます」


 兜で顔はよく見えないけれど声色的に嬉しそうだ。魔法使いに憧れがあったのかもしれない。


「女性同士親交を深めるのはいいが俺の部下は簡単にはやらないぞ?レイゼリア」


 お兄様がおどけながらそんなことを言うと、エレイナさんが恥ずかしそうに慌てて姿勢を正す。


「女性の兵士の方なんて珍しいですから、お父様に頼めばすぐに異動させて貰えるかもしれませんね」


 彼女の反応が可愛くて私もつい冗談で返すとエレイナさんがあわあわと困ってキョロキョロとお兄様と私の方を交互に見る。


「よし、みんな!緊張が少し解れたところで下に降りるぞ。エレイナ、レイゼリアの後ろを頼むぞ?」

「はっ!」


 お兄様の軍での立派な姿を目の当たりにして、評価を少し改めながら、地下へと降りていく。

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