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花の名前

 雄叫び、風を切る音、何かがぶつかる音、悲鳴、怒号、破裂音、そして血、血、血、そこらじゅうで誰かが誰かを殺している。

 魔王が率いる魔族と人族の戦いだ。

 四方八方から彼を目掛けて飛んでくる魔法や矢を宙を舞う鉄塊が防ぎ、弾き、敵を殴り潰す。

 そして彼に振るわれるまま敵を斬って斬って斬って突いて斬る。

 彼の手はいつも震えていた。

 いつも泣いてた。

 いつも怖がってた。

 いつも帰りたがってた。

「いつも私達と一緒だった」

 

 耳元で話しかけられた気がして、はっと目が覚める。

 心配そうにこちらを見ているレイゼリアさんと目が合い、昨日一緒に寝たことを思い出す。


「大丈夫?うなされていたわよ」

「はい、大丈夫です。ちょっと夢を見ていて」

「そう。昨日怖い思いをしたからかしら」

「そうかもしれません」

「朝ごはんが焼けましたよ」


 焚き火の方からジャンさんがこちらに手を振ってくれる。

 レイゼリアさんが行きましょうかと声をかけながら手を取って起こしてくれる。

 焚き火に近づくにつれて香ばしい香りが漂ってくる。美味しそうな串に刺さった焼き魚が器用に大きめの石で固定されて焼かれている。


「おはよう、お嬢ちゃん。熱いから気をつけて」

「ありがとうございますジャンさん。いただきます」

「レイゼリア様もどうぞ」

「ありがとう。六匹もよく素手で取れたわね」

「親父に叩き込まれたんですよ。野営の為のいろいろなことを。ちなみに取れたのは八匹です。リネ様には生のまま二匹もう差し上げたので、だから一人二匹あたりますから遠慮せず食べてください」

「すごいわね」


 パリパリの香ばしい皮にふわふわの身がとても美味しい。淡白だけど旨味がしっかりしてる気がする。


「名前どうしましょうか。ジャンは何か思いつく?」


 レイゼリアさんが二匹目を手に取って言う。

 昨日の夜、王都や城に行くとなると名前がないと不便だろうとレイゼリアさんが言っていた。


「えーと珍しい黒い髪だからクロとか?」

「犬とか猫じゃないんだから」

「すみません」


 ジャンさんが縮こまる。


「そういえば勇者の武器に名前はあったんですか?」

「あるのかもしれないけど、わからないわね。一応ガンゼツの刀、ガンゼツの盾と言われてたかしら」

「はい。かつて存在したキコクという国の鍛冶師ガンゼツが作ったと言われていて、他に槍と斧があるらしいですよ」

「ガンゼツ、キコク…」


 白髪の無精髭の大男が浮かぶ。


「何か心当たりがあったかしら?」

「いえ、なんか凄そうな人だなって」

「ガンゼツの作った武器はどれも再現不可能で何を材料に作られたのか一切わからないそうですよ」

「貴重なものなんですね」

「ええ。他国には渡すわけにはいかないわ」


 二匹目も食べ終えて、一息つく。

 リネが何かを咥えてこちらにくる。私の隣に来て鼻先をぐりぐりとした後、咥えていた何かを離す。

 花畑にたくさん生えていた白い花だ。いつの間に採ってきたんだろうか。


「なるほど、いいかもしれないわ」


 レイゼリアさんが白い花を差し出しながら私を見る。


「この白い花は元々はキコクに生えていたもので、勇者が持ってきたと伝えられているわ」


 小さな白い花と三角のような小さな葉がひとつの長い茎にたくさんついている。


「あなたの名前は今からナズナ、ナズナよ」

「ナズナ」


 どこか懐かしい感じがする。ベロンとリネが舐めてくる。自分の案が採用されて嬉しいんだろうか。


「ありがとうリネ」

「さて、そろそろ別荘組と合流しましょうか。ナズナ、ジャン」


 レイゼリアさんの一声で森の中を進む。小川の向こうに行くのは初めてた。歩きなれたリネとレイゼリアさんとジャンさんがいるからか何事もなく、昼頃には小さな泉のほとりに建つ別荘にたどり着いた。

 別荘の扉が勢いよく開き、スカートをはいた女の人が飛び出してくる。


「レーゼ様!ご無事で何よりです。どこかお怪我はありませんか?こんなにボロボロになって…」


 そのマントをボロボロにしたのは私ですとは怖くて言えない。


「大丈夫よレーシャ。皆とリネ様とナズナが助けてくれたから。マントも着たまま野営したから汚れただけよ」

「そうですか、よかったです。そちらのお子様は?」

「ナズナよ。森で保護したの。この子も王都に連れていくわ。だからナズナのことよろしくお願いね」

「えっとこんにちは」

「ご丁寧にありがとうございます。ナズナ様。私はレイゼリア様の専属侍女のレーシャです。王都まで私が身の回りのお手伝いをさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」

「えっとよろしくお願い、いたします」

「皆様、さぁ中へどうぞ」


 リネはと思ったけど泉の近くで丸くなって眠っていた。

 私は皆に続いて中に入る。

 中は想像よりもなんというか普通だ。普通といってもとても綺麗に片付けられているし高級な宿としてお金が取れそうだ。


「レーシャ、まずはナズナをお風呂に入れてあげて。部屋はどこか空いてる部屋を。あと出来ればでいいのだけどナズナに服を見繕ってあげてほしいの」

「かしこまりました。ナズナ様こちらへどうぞ」

「はっはい!」


 レーシャさんに連れられて一階の奥にある部屋に入る。


「お洋服はご自分で脱げますか?」

「はい大丈夫です」

「ではこちらの籠に」


 私はナイフの紐を首から取り籠に入れてから青いケープを脱いで入れる。


「あの、他には?」

「荷物はこれだけです。何か間違えてしまいましたか?ナイフは別でしたか?」

「いえ、大丈夫ですよ。こちらへどうぞ」


 びっくりするほど私は汚れていたんだろうか。

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