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訃報

 テーブルの向かいに座った師匠が、ばつが悪そうに私と目を合わせないように視線を逸らす。

 一体何の話なんだろう。

 私は師匠の心の準備が整うのをじっと待つ。

 そして師匠が重たそうに口を開く。


「これを…返しに来た」


 テーブルの上に綺麗な布の包みを二つ出して、それぞれをゆっくりと広げる。

 何処かで見た指輪と、真っ黒い炭の塊が崩れたような物。


「あの…師匠、これは一体?」

「…ナズナの物よ」

「え?」


 指輪をそっと手に取って眺める。

 光の加減や反射で角度によって青く見える銀色の指輪。

 確かに私があげたものだ。


「こちらの炭のようなものは…」

「多分ナズナが身につけていた勇者のナイフよ…」


 こんな原型も留めていない炭の塊が?


「あの…ナズナは…?」

「亡くなった」

「え?えっと…え?」

「私が迷宮に一人で行かせてしまったからよ」

「なんでそんなことを…」

「ごめんなさい」

「ちゃんと説明してください…」

「ごめんなさい…まだ詳細は言えない。師匠に止められているから」


 師匠は俯いたままで、大きな三角帽子の鍔がで邪魔で顔色は見えない。


「…火に巻かれて亡くなったということですか?」

「ごめんなさい」

「…遺品はこれだけ何ですか?」

「青いケープはリネが放してくれなくて…いつも一緒に眠っているわ…」

「そう…ですか…」


 意味がわからない。

 突然亡くなったと言われ、死因も、何故迷宮に行くことになったのかも教えてもらえない。

 ナズナが死んでしまった実感の無い今、師匠に対する不信感と怒りだけが私の心で激しく渦巻く。


「師匠…何のために私の前にわざわざ顔を出しに来たんですか…何も教えてくれないなら、わざわざ会いにくる必要があったんですか?」

「そうね…ごめんなさい」

「ナズナ…」


 指輪は綺麗なままで、何の変哲もない。

 またすぐに会えると思っていたのに。

 師匠は相変わらず俯いたままだ。


「リネ様の様子は?」

「リネは毎日、迷宮のあった遺跡に行っては遠吠えを繰り返して、夜はケープと一緒に寝ているわよ…」

「…ナイフが炭化する程ということは、刀と盾も壊れる程に激しい戦いがあったのですか?」


 返事がないということはそうだということでいいんだろうか。

 すると間を空けて師匠が口を開く。


「刀と盾は見つかっていないの…迷宮の崩壊に巻き込まれた様だから、もう見つからない可能性もあるわ…」


 師匠がおかしなことを言っている。


「じゃあ何故指輪とナイフがあるんですか?」

「ナズナと一緒にいた人が青いケープを羽織って指輪を持って迷宮から出てきたからよ…ナイフだと思われるものはケープの内側に張り付いていたのよ…」

「……その人を助けるためにナズナは一人で迷宮へ?」


 返事がない。

 しかし今度の沈黙は肯定のようで、待っていても師匠からの返事はなかった。


「そうですか…」

「ごめんなさい」

「師匠、謝られても困ります…それとも叱って欲しいんですか…」

「……そうかもしれないわね」

「事情を知らない私にそんなこと期待されても困ります」

「そうね…」

「精霊は死ぬとどうなるのですか?」

「魔力になって自然に還ると言われてる…」

「そうですか…じゃあ!謝ってばかりいないで、しっかりしてください!ずっとナズナにそうやってうじうじしてる姿を見せ続けるつもりですか!あなたは賢者の杖とまで言われる大魔法使いなんでしょ!」

「ええ…そうね…」


 三角帽子の鍔で顔は見えないけど、啜り泣く声が聞こえてくる。

 テーブルに手をついて手を伸ばし、そっと優しく三角帽子の上から師匠の頭を撫でる。

 普段ならこんなこと絶対に痛い目に遭うのに、師匠は黙って撫でられ続けていた。


「ありがとう…もう大丈夫よ…」


 撫でる手を止めて椅子に座りなおす。


「ちゃんと話せる時が来たら、また連絡するわね…」

「はい…何も無くてもいつでもお待ちしていますよ」


 師匠はそう言ってひとしきり泣いた後に帰っていった。

 一人残された私は、店主のママクラさんが新作だと言っていたコップを手に取り、口をつける。

 とても甘い香りがするのに、味はほろ苦くて酸っぱい。

 変な飲み物だ。

 美味しいのか不味いのかもよくわからない。

 指輪を眺める。

 装飾も宝石も無く、ナズナもきっと気後れせずに受け取ってくれると思って選んだ指輪。

 死の間際まで大事に持っていてくれるなら…もっとちゃんと良いものを選んであげればよかったかな…。

 可愛い装飾とか…もっと女の子らしい物にしてあげたらよかったかな…。

 不意に寂しさが込み上げてくる。


「レーシャちゃん…大丈夫かい?」


 ママクラさんが上がってきたのに全然気付かなかった。


「はい…大丈夫です…」

「ごめんねぇ…泣くほど不味かったかい…?」

「いえっ!これは違くてえっと…その、パースさんから友人の訃報の知らせを…聞いて…」

「そうかい…泣くくらいだ。仲が良かったんだねぇ」

「出来たばかりのお友達だったんです…次にあった時は美味しいものいっぱいご馳走してあげようとか、お城を案内してあげようって思ってたんですけどね…」

「そうかい…」

「私を魔物から…助けてくれたんです…」

「そうかい…」

「お風呂とかも一緒に入ろうって…」

「そうかい…」


 ママクラさんは追い出すこともせずに、私が泣き止むまでずっと優しく慰めてくれた。

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