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久しぶりの和やかさ

「お待たせしました。お兄様」

「来てくれてありがとうレイゼリア。お前達は下がっていてくれ」


 お兄様のメイド達が庭園を後にする。

 はぁレーシャも下がらせないといけないか。


「レーシャ、あなたも少し休んでいて」


 会釈してレーシャもその場を離れ、残ったのは庭園の入口に立つ近衛兵の二人。

 二人は大声で叫ばないと声の届かない距離にいるので実質お兄様と二人きりになる。

 しかし何処かにお兄様の手の者が隠れているんじゃないかという不安は消えない。


「そう構えないでくれ。これは新作らしいよ」


 お兄様がお菓子一つ手に取り、口に運ぶ。

 それを見て私も焼き菓子を一つ手に取り、口に運ぶ。

 甘いけど口の中に残らず、後味がすっきりしていていくらでも食べられそう。

 毒も無さそうだ。


「美味しいです。それでお兄様、お話とは?」

「ああ、そうだね。単刀直入に聞こう。賢者様から返事が来たと聞いてね。ガンゼツの武器はどうにかなりそうかな?」

「いいえ、特定の国には肩入れ出来ませんと断られてしまいました」

「森の賢者らしい返事だ…それで本当のところは?」


 テーブルに肘をついて、無邪気な笑顔で顔を寄せてくる。

 昔はとても嬉しかった笑顔が今はとても怖い。


「本当のお話ですよ。ガンゼツの武器は各国や各ギルドが研究材料として欲しがっていますから。お兄様もご存じでしょう?」

「そうだな…魔法耐性の高い武具は作れる。しかし魔法を斬れるものは思いの外少ない。どんなに強力な魔法耐性を持った剣を達人が使っても魔法を斬ることは難しい」


 太古から戦争で使われてきた魔法は、より強力に、より素早く、進化、変化してきた。

 隠密性、機密性も重視され、攻撃魔法のほとんどはもう詠唱も呪文も使う必要は無く、魔法で作られる岩や氷は自然の物を超える強度を誇る。

 切れ味がいいとされる刀でも、そう簡単には斬ることはかなわない。

 しかしガンゼツという人の打った武器達はそんな魔法を容易く両断するという。


「魔物の脅威に備えることはわかります。しかしお兄様は何を焦っておられるのですか?」

「焦ってなどいないさ」

「勇者の遺産にこだわりすぎているように思えてしまいまして…」

「子供の頃、一目見た時から憧れていたものが、突然何処の馬の骨ともわからない子供に奪われれば多少は腹が立つだろう。お前だって伝説が本当だと知って心踊ったはずだ」

「それはそうですが…勇者の遺産は誰のものでもありません」

「いいや私達、王家の物だ。早く取り返せるように祈ってるよ」


 昔のお兄様ならおとぎ話の聖剣にも選ばれたかもしれないけど、今のお兄様は決して選ばれることはないだろう。


「すまない。久しぶりにゆっくり二人で過ごしたかっただけだなんだ。そんな悲しい顔はしないでくれ。別に子供に手出しをするつもりはないから…」

「わかっていますお兄様」


 顔に出ちゃってたか。

 けどお兄様が最近私がハマっているお菓子のお店を調べてくれていたり、二人で話したかっただけというのは本音なのかもしれない。


「ただレイゼリアも知っての通り、南方諸国の動きも不穏さを増している。勇者の遺産を狙って何か仕掛けてきてもおかしくはない」

「勇者の遺産以外にも初代レイゼリア様の遺品や魔法使いエリンの作った魔法道具がありますからね」

「ああ。それにしても俺がいない間にお菓子もずいぶん種類が増えたなぁ」


 無邪気な顔で両手に別々のお菓子を持って頬張る姿は昔のままだ。


「フフフフ、お父様に叱られますよ」

「いいんだ。二人きりなんだから好きに食べさせてくれ」


 いっそお兄様も誘ってヘーンド遺跡に行こうかな。


「お兄様、森の賢者様がたまには外に出て、魔法の研鑽を怠らないようにってお手紙をくれたんです。良かったら一緒に何処かに訓練にでも行きませんか?」

「訓練か…いいな。でも昔みたいに俺に勝てると思ってたら大間違いだ。流石に今は俺が勝ってみせる!」

「ええ、望むところです。ヘーンド遺跡などはどうですか?」

「ヘーンド遺跡か…今もゴーレムが徘徊しているというから良いかもしれないな。俺がお父様に聞いてみるよ」

「ありがとうございますお兄様。お願いしますね」

「ああ、任せてくれ」


 その後も楽しく昔のように談笑し、最後はメイド達にもお菓子を食べてもらい、部屋に戻って溜まっていた書類に目を通す。

 半分程に目を通し終えたころにレーシャが声を掛けてくる


「レーシャ様、南に行っていたパースが戻ってきたそうです。ママクラ亭でお待ちしているそうですよ」

「パースが?お兄様も南方諸国が怪しいと行っていたからすぐに会いに行ってくるわ。レーシャは私のふりをお願いね。久しぶりにあれを使うわ」

「わかりましたレイゼリア様」


 レーシャと向かい合って両手を繋ぎ、額をくっつけて、小指の指輪に魔力を込めると、レーシャの姿が私に変わる。

 服も髪も私がしていたものそのままの姿に。

 そして私の姿はレーシャに変わる。

 服も髪もレーシャがしていたものそのままの姿に。

 私だと気付かれないよう指輪を外して胸元に隠し、ローブを羽織って城を出る。

 レイゼリア様のおつかいですと笑顔で言えば兵士は私がレイゼリア本人だと気付くことはない。

 なんとか正体に気付かれずに城を抜け出し、城下町の東にある酒場、ママクラ亭へと向かった。

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