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魔力全解放

 身体に穴が増え、ズキズキと痛み、お腹を蹴られ一瞬息が止まる。

 私が手を突いていた床のところだけすぐに広い範囲の黒い水が無くなっていたということはいつもより多くの魔力が確かに出ているはず。

 どうにかそれをエリンさんに当てることが出来れば、人に戻すことも本当にできるかもしれない。

 黒い棘なら効果が大きいと学んだのか、私が落ちようとしている床から無数の黒い棘が現れ、私に向かって伸びてくる。

 盾を出して上に乗るとガガガガガと激しい音を立て、黒い棘が盾にぶつかって折れて消える。

 どうせ玉に出来ないならと盾から隙を見て飛び込んで歪で大きめの緑色の角を掴んで頭にしがみつき、手のひらから魔力を出す。

 黒い煙が溢れ出し、緑色の雷のような閃光がバリバリと音を立てて激しく光る。


「ギギャギャアアアアアアアアアッ!!」


 掴まれそうになるのを四つの鉄塊で必死に邪魔して手を叩いて弾き、鉄塊を代わりに掴ませる。

 更に手のひらに魔力が込める。


「ウガアアアアアアッ!!」


 身体を思いきり振り回される。


「ぐふっ!」


 エリンさんが床に自身の頭ごと私を激しく叩きつける。

 角が無くなるまでは放すわけにはいかない。

 何度も床が砕けるほど叩きつけられ、今にも力が抜けそうになる。


「がぁ……」


 意識も手放すわけにもいかない。

 鉄塊達の動きが悪くなり、右手に掴まれてしまい、鋭い爪が脇腹に食い込み、激しく痛む。

 あまりの痛みに角を放してしまい、右手首を掴む。


「っ……エリ…ン…さん…」


 言葉は届かず、握り締める力が強くなっていく。

 黒い棘が刺さった傷口達からか、鋭い爪が刺さっているのか、生暖かさと共に赤い雫が足を伝う。

 使うしかないのかな…。

 いや…魔力が全開なら魔力の玉を作れなくても少なくとも今よりも手のひらからもっとたくさんの魔力を出せるはず…!

 下腹部から全力で魔力を回す。

 下腹部から心臓へ心臓から身体全体へ。

 髪が白く染まり、全身が熱くなる。


「グギャアアアアッ!」


 私を握るエリンさんの右手から激しく黒煙が溢れ出し、エリンさんが私を振り払うようにぶん投げる。

 多分これも間違った身体強化なんだろう。

 本当は無駄に外に溢れ出ている魔力も内側に留めておかないといけないんだと思う。

 とりあえず空中に盾を垂直に出して着地し、魔力を刀に込めて八相に構え、盾を蹴り上げ、エリンさんの歪になった緑色の右角を斬り飛ばす。

 エリンさんの絶叫を無視して、即座に残った羽も斬り落とし、尻尾も更に根元から斬り飛ばす。

 手加減なんてしていたつもりは少しもないけど、手段を選んでいる余裕はもうない。

 よろけるエリンさんを盾で殴り飛ばして仰向けに倒し、手足を四つの鉄塊で床が割れるほどに叩きつけて押さえ込む。

 暴れるエリンさんのお腹に馬乗りになり、胸に手を置いて、魔力を手のひらから出す。


「ッ――――――――――――――――――ッ!!」


 頭が割れる。耳が取れる。

 今すぐ耳を塞ぎたい。ここから離れたい。

 音に耐えて、更に両手に魔力を込める。

 手のひらが熱い。手のひら中がズタズタに切り裂かれるように痛い。

 血が水飛沫のように噴き出しているんじゃないかと不安になるけど、エリンさんの胸からは蒸気のように勢いよく黒煙が噴射し続けていて、手元もエリンさんの顔もよく見えない。

 ただ耳と頭を破壊しそうな叫び声が少なくとも効果があることを証明してくれる。

 後はこれがただの攻撃になっていないことを祈る。


「――――ぁああああっ!ぁああああああ!」


 声が代わり、尖っていた声が丸くなる。


「エリンさん!もう少し我慢してください!」


 エリンさんの鱗で太ももが痛い。

 魔力を全部手のひらに集める。


「うぐぁっ!っああああああああああああああ!」

 手のひらが燃え、切り裂かれ、更にそれを引き千切られる。

 黒煙の奥から白い光が漏れて黒煙を掻き消していく。

 私の手のひらから溢れ出す白い光が黒い鱗を吹き飛ばし、エリンさんの綺麗な白い肌を取り戻していく。


「やめ、なさい!あなたが…もたないっ!」

「やめない!私が消えても元に戻す!」


 いきなり棺の中で目が覚めて、真っ暗闇で何もかもがわからなくて怖くて堪らなかった。

 夢で見るあなた達だけが希望だった。

 エリンさんの心が消えてしまう前に私が生まれたのはきっと運命という奴だ。

 私はあなた達を助けるために生まれてきたんだ。

 死んでいった仲間達の最後の虚ろな顔が鮮明に浮かぶのはもうこれ以上誰も失いたくないと勇者が心から思っていたからだ!


「はぁ、はぁ、はぁ、やめ…て…これ…以上は!あぐぅっ!」


 手のひらから溢れ出す白い光がエリンさんの胸を完全に柔らかで綺麗な白い肌へと戻す。

 そして肩や首の黒い鱗が花が散るように吹き飛んでいき、徐々にエリンさんの身体が元に戻っていく。

 手のひらは張り裂けそうなっているけど、意外と身体はなんともない。

 太ももが多分黒い鱗でズタズタなくらいだろう。

 まだまだ全解放が切れる心配はない。


「これ以上は……あなたが消えてしまう…」

「まだ大丈夫です…!」


 そしてついにエリンさんの顔の黒い鱗が花のように舞い散っていく。

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