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何が起きたのかわからない

 ノートパソコンの画面に私が泉のほとりで服を脱ぐ映像が映し出されている。

 なんか変な気分。

 星空だった空が白み始め、明るくなってきているようだ。

 画面の向こうの私が青いケープを脱ぐと、それをベッドの上で体育座りで見ている私のケープもすっと消えてなくなる。

 そして画面の向こうの私が血の滲むシャツを脱ぐと、爛れて腫れ上がった刀傷が見える。

 シャツが消えて剥き出しなった傷を直に見るのが怖くて、画面から視線がそらせない。

 画面の向こうの私が、鞄から水筒を取り出してから手袋を脱ぐと、手に水筒から粘液を注ぎ出す。

 自分の手を見てみるけど、手袋が消えただけで、粘液でぬるぬるになるということはないみたい。

 パンツ一丁で画面の向こうの私が傷口に粘液を塗っていく。

 流石に滲みるのか顔をしかめながらも、たっぷりと傷口に塗り込んでいく。

 おもむろに盾を出し、敵が来たのかと不安になる。

 木の上に盾が飛んでいくと葉のたくさん生えた枝が落ちてきて、その枝から葉を取って、粘液を塗った傷口に貼っていく。

 包帯代わりにしてるみたい。

 青いケープを羽織り、葉が無くなった枝先を折って集め、焚き火の跡に並べて、火打石で火を起こすと、折れたばかりで乾燥してないからか煙がたくさん出ている。

 気にせずにとぼとぼと今度は森の中へ歩いていき、きょろきょろと下を見ながら何かを探している。

 落ちていたのはブーツだ。

 泉の中央から結構離れているけど、まさか投げたんだろうか。

 近くにちゃんと一足揃っていたようで、拾って中を確認して履いている。

 アリシアさんのくれたお金は無事みたいだ。

 気づけば画面の向こうの私と同じパンツ一丁だったのが青いケープとブーツを履いている。

 もしかしてと思い、ケープを捲って胸を覗き込むと葉がくっついている。

 焚き火の方へ歩いている私がふらついて転びかけ、地面に手を突く。

 ぺろんっと音がしてスマホのメッセージを確認する。

 「ごめん。そろそろ俺も限界みたいだ。」

 「しばらくは会えないし、話せないと思う。」

 「エリンのことを頼んだよ」

 心配になってノートパソコンの画面を見るとふらふらと焚き火の側に戻り、木の根元にへたり込んで動かなくなる私の姿が映り、画面が消える。

 ノートパソコンの明かりが消えて部屋が真っ暗になり、スマホでメッセージを送る。

 「みんな、私はどうしたらいいの?」

 「きっとここのことは覚えていられない」

 「でもきっと身体が戦いを覚えてる。戦えるはずだよ。」

 「エリンねーちゃんのことよろしくな」

 「またね」

 そのメッセージを最後にスマホの画面も勝手に消えて暗闇に包まれる。


「忘れないで…全部あなたの力……」


―――――――――


 声が聞こえた気がして、目が覚める。

 ばちっと煙が多い焚き火が爆ぜて、気のせいだと気づく。

 そして飛び起き、盾を出して刀を構えて周囲を見渡す。

 泉のほとりで焚き火が煙を立て、ばちっと爆ぜ、泉の中央には大きな祠のようなものが浮かんでいる。

 私は水で出来た勇者達と戦って…そして泉に落ちたはず…。

 全部夢?

 焚き火の側に何故か自分のシャツが落ちているのに気づいて拾い上げると左肩から胸の下まで赤く染まっている。

 泉に落ちる時に光の中で多分勇者に斬られた場所だ。

 青いケープを脱いでみると、左肩から胸の下にかけて斜めに葉がくっついていて、葉の縁から粘液がはみ出している。


「誰か!……誰かいるんですか?」


 返事はない。

 誰が手当てしてくれたんだろう。

 まさかあの水で出来た三人が?

 手袋を拾って付け直し、水筒の水を飲んでドライフルーツを食べる。甘くて、少し元気が出る。

 眠気が急に強くなって、目蓋が重くなってくる。

 まだ体力が回復してないんだろうなと思い、落ちている大きな枝から薪を集めて焚き火にくべておき、近くの木の根元で横になって目を閉じる。

 パッと目を開くと先程よりも明るくなっていて、日射しのような暖かさを感じる。

 どれくらい落ちていたんだろう。

 青いケープを一度脱いで、シャツを着て、ケープを羽織る。

 両手を数回握って開いて、ぴょんぴょんと跳び跳ねる。

 とりあえず身体は大丈夫そう。

 胸に手を当てる。痛みはないみたいだ。

 はっとなって、自分の胸をまさぐり、首の紐を辿って指輪を見つける。

 背中の方にいってただけみたいで安心する。

 焚き火を消して、鞄を担ぎ、泉の上を鉄塊達を足場に歩いて渡り、祠に近づく。

 刀を構えて警戒していたけど、何かが出てくることはないみたいだ。

 三人はどこにいったんだろう。

 祠の中には、迷宮に入って一番最初の部屋にあったような石の板のような段差のような露骨に怪しいものが入ってすぐの空間にあるだけの簡素な祠のようだ。

 明かりは無くとも外から入る光で十分中には他に何もないことがわかる。

 怖いけど覚悟を決めて段差の上に立つ。

 ゆっくり沈むように落ちていく。

 長い長い暗闇を抜けて現れたのは薄暗い石造りの円形の空間。

 お城の塔のようにも監獄の地下牢のようにも見える。

 壁に等間隔に炎が灯り、中央には大きな檻がある。

 エリンさんは檻の中にずっと閉じ籠っているんだろうか。

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