夢で見た人達
泉の中央に浮かぶ祠の前で異変が起きる。
水面が膨らみ始め、何かが上がってくる。
一つかだけじゃない。更に二つ何かが上がってきたみたいだ。
バシャッと腕が伸びてきて水面を叩き、パンと音が鳴る。
沈むことなく、固い地面のように水面に手を突いて浮かび上がってきたのは人の姿に見える。
背は低めで太い腕と太い足に大きな胸のがっしりとした体格に、そのたくましい筋肉の塊に似つかわしくない幼い顔。
夢で見たドワーフの戦士が水面から這い上がる。
「タルガ……」
更にその後ろから現れたのは長い髪にスラッとした手足、よく見なくてもすぐに気づく。
「レイゼリア…」
そして最後に現れたのは、私と同じ青いケープの勇者の姿。
三人とも水で出来ているのか、透けていて色はない。
いきなり遅いかかってくる様子はないみたい。
透け透けの彼らには核のようなものは見当たらない。
倒せるんだろうか。
足場にするために盾で身を守ることはできず、刀一つで三人を相手にしなければならない。
一度下がるべきなんだろうか。せめて鞄を下ろしたい。
背中を見せないようにゆっくりと後ろに下がる。
タルガが手を水面に入れ、刀を出して身構える。
すると水で出来た槍斧を取り出し、真っ直ぐに上に向けて持ち上げるとバシャっと石突で水面を叩いて、そのまま動かなくなる。
待っててくれるってことなんだろうか。
「ありがとうタルガ」
背を向けて急いで焚き火をした泉のほとりに戻り、ドライフルーツの巾着袋を外して鞄に入れておき、鞄は焚き火跡の近くの木の根元に置いておく。ナイフだけを腰着けておき、彼らの元へ戻ると、さっきと変わらない様子でただ立っている。
「エリンさんを助けたいんです。通してくれたりしませんか?」
反応は無く、少しして勇者が刀を抜き、水面から四つの水の塊が飛び出して勇者の側に浮く。
そしてレイゼリアがこちらに右手を向ける。
「わかりました…」
言葉が通じるわけではないんだろうか。
刀を脇に構え、魔力を回す。
一瞬でタルガの姿が消え、レイゼリアの右手をから閃光が走る。
閃光が私を貫き、何かに押されたみたいな感覚がして体勢を崩す。その隙に左から槍斧が迫り、それを刀でギリギリ受け止めるけど、そのまま軽々なぎ払われて宙を舞う。
いつの間にか私を囲う四つの水の塊が襲いかかってきて、それを四つの鉄塊が防ぐ。
勇者はどこにと考えた時にはもう既に刃が迫り、泉へと叩き落とされる。
背中が痛むけど、運良く刀にぶつかったのか斬られてはいない。
咄嗟に盾を出して掴まり、それ以上沈むのを防ぐ。
水中には襲ってこれないのか、追撃はないみたいだけど、前準備無しに水中に落とされたからか、もう息が苦しくなってきて、急いで盾を蹴り、水上を目指す。
「ぷはっ…はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
すぐに周りを警戒する。結構飛ばされていたのか、祠も三人も見失う。
周囲に目を凝らすと右の奥に祠とそれを守る三人の姿が見える。
遅いかかってくることはないみたいだけど、私の位置はわかっているようでこちらを向いて警戒しているようだ。
盾の上に立ち、刀を構え直す。
身体強化はまだまだ大丈夫だけど全解放を使う時を見誤ると必ず負ける。
とりあえずレイゼリアは後回しだ。当たる感覚はあるけど痛みはない。魔法はそんなに効かないみたいだし、雷を避けるなんてことを考えるよりタルガと勇者をまずどうにかしなければ。
刀を上段に振りかぶり、足に魔力を回して、盾を思いっきり蹴りあげて飛び出す。
風を切り、放たれた矢のようにレイゼリアを捉える。どちらかが守りに入るはずだ。
刃を振り下ろす。
上段からの一撃を防いだのは勇者だ。水で出来た刀を斬り抜け、そのまま勇者が二つになったかと思いきや、手応えはなく、まるですり抜けて空振りのよう。
刀を振り抜いた隙に、いつの間にか詰めて来ていたタルガの槍斧になぎ払われる。
ベチンっと鞭で思いきり叩かれたような音と共に殴り飛ばされる。
斬られてはいない。ただ硬いものがぶつかった衝撃と痛みが腹から全身に伝わってくる。
「うっ…!ぐっ!」
勝手に空気が抜け出て、呻き声が漏れる。
歯を食い縛り、体勢を立て直して盾に着地する。
目の前にはもうタルガの槍斧が迫る。
上段からの一撃を刀で防ぐ。
攻撃の瞬間以外は硬くない?
「がっ!!」
油断したつもりはないけどお腹を思いきり蹴り上げられ、その隙に水の槍斧でまた殴り飛ばされる。
「ぐふぁっ!」
宙を舞いながら、野球のノックみたいだなと変なことが他人事のように頭に浮かぶ。
背中を硬いものに打ち、無意識に盾に着地したことに気づく。
さっきの勇者、魔法なら斬ったらただの水に戻ってくれてもいいのに何がどうなっているんだろう。
起き上がり、刀を構える。追撃には来てないみたいだ。
祠の近くにしかいられないのだろうか。それとも祠を守ることが最優先なんだろうか。
斬ったはずの勇者は健在、タルガには遊ばれ、レイゼリアは高みの見物。
手も足も出ない。
それでもなんとかして突破口を見つけないと。




