名前はなんだろう
クリフトさんの鎧を外す。
鎧がひしゃげて壊れているからか小さな私でも簡単に外せた。これで少し楽になればいいんだけど。
そしてようやく思い出す。
さっきのはなんだったんだろう。
あの子供達ははどこから?
私は魔法で鉄が作れるんだろうか。
いや、任せてって声が聞こえたから彼らが助けてくれただけかもしれない。
でも魔法が使えたらという気持ちが抑えられず、手をかざして念じてみる。
シャンっという音と光と共にさっき鉄の盾みたいな具足の袖みたいなものが現れる。
びっくりして手を引っ込めると宙に浮かんでいたそれが地面に落ちてクリフトさんの横でドスっと重たい音を立てる。
クリフトさんが呻いて、危ない、起こしてしまうかもと思うとスっと消える。
もう一度出して、消してみる。
好きなところに出して消せるようだ。
色はケープと同じで青い。変わった金属で出来てるんだろうか。それとも塗装か。
頭がぼーっとしてきて出し入れを止める。魔法を使うのは疲れるみたいだ。
とりあえずレイゼリアさんを守ってくれたし盾ということにしておこう。
「お嬢ちゃん、君が看ていてくれたのか?」
目を覚ましたクリフトさんが声をかけてくる。顔色はさっきよりもだいぶましに見える。
「えっと横に居ただけですけど一応。助けてくれてありがとうございました」
「いいんだ。君こそ助けてくれてありがとう。まだ起きるのは難しそうだが、鎧を外してくれたからかさっきよりは息もしやすい」
「それはよかったです。いまレイゼリアさんとリネが残りの方達を探しにいってます」
「そうか。皆無事だといいが」
「森の外にはあんなのがいっぱいいるんですか?」
「魔物を見るのは初めてかい?いっぱいかはわからないが、奴らはどこにでも現れる。今回は運が悪かったんだよ」
「そうですか」
「すまないが、水を飲ませてくれないかな。左の肩が外れてるかもしれない。水筒は腰にある」
彼の腰には剣の鞘と栓の付いた口の小さい皮袋がある。こっちが水筒だろう。
私は結ばれた水筒を外して、栓を取ってクリフトさんの口へと運ぶ。
吸うようにしてごくごくと水を飲み、片手を上げたの見て水筒を口から離す。
「ありがとう。左のズボンのポケットにお菓子が入ってる。君にあげるよ」
「お菓子?」
「ああ、娘がくれたんだが私には甘すぎてね。カルルっていう菓子だよ。このままじゃ俺の体温で溶けてしまうから助けると思って」
「えっとじゃあ、いただきます」
左のポケットに手を入れると紙に包まれた固いものがある。
取り出して紙を開くと、茶色い四角形に切られたのものが三粒出てくる。何かが混ぜこまれてるのか断面に粒が見える。
甘くて香ばしいとてもいい香りがする。
口の中で転がすと甘さが口に広がって、噛むとザクザクボリボリと少し固いけどとても美味しい。ビスケットとナッツが入っているみたい。
夢中で二粒、三粒目と食べてしまう。
「二人はすっかり仲良しさんになったみたいね」
そう言ってレイゼリアさんが上から笑顔で覗き込む。
「レイゼリア様、他の者達は?」
「みんな怪我をしてるけど生きてるわ。一番重症なのはあなたよクリフト。先に別荘に戻ってもらって、あなたを運ぶ用意をして戻ってきてくれるわ」
「そうですか。それはなによりです」
「さあ、あなたの番よ」
そうレイゼリアさんが私の口に付いていたらしいお菓子のくずを取りながら言う。
恥ずかしい。
「私達は勇者の墓に起きた異変を調べにここに来たわ。だから一緒に中に入って何があったのか教えて?」
「わかりました」
リネが鼻先をぐりぐりと押し付けてくる。
「あなたの名前リネっていうんだったんだね。ありがとうリネ、私を助けてくれて。ちょっと行ってくるね」
リネをいっぱい撫でてから、レイゼリアさんとお墓に入る。
レイゼリアさんがすたすたと真っ暗な通路に入っていき壁に手を着くと天井に明かりが灯る。松明入らなかったんだと、少し悲しくなりながら後についていく。
真っ直ぐな通路だから会話もなく、すぐに石板のある部屋に着く。
「ここはおよそ五百年程前に活躍した勇者の墓。そしてここにお墓を建てたのは私の先祖、当時の王女レイゼリア。何か覚えてることは?」
「いいえ、何も。でもそのお墓に刻まれた名前を見た時とレイゼリアさんが魔物に襲われそうになった時、何故か赤い髪のレイゼリアさんに似た女性が頭に浮かびました」
「そう。あなたはここで眠っていたの?」
「いいえ。多分奥の部屋です。その、真っ暗だったので」
「奥の部屋は王家の者しか入れないようになっているわ。どうやったか、見せてくれる?」
徐々にレイゼリアさんの言葉と表情が冷たくなっている気がする。
私は泥棒か何かなんだろうか。何も覚えてないのも何かの罠とか魔法にかかったからなんだろうか。
私はレイゼリアさんに言われた通りに石壁を通ってみせる。
振り返っても壁があるだけで、彼女の反応はわからない。
すると壁から手が飛び出し、レイゼリアさんも壁をすり抜ける。私は咄嗟に反応できず、彼女のお腹に顔を押され尻餅をついてしまう。
「ごっごめんなさい。レイゼリアさん」
怒られると思って萎縮してしまう。
「いいえ、こちらこそごめんなさい。その、私も頭が混乱していて。そんなに怖がらないで。森の主でここの墓守でもあるリネ様があんなに懐いているのだから、あなたをいじめたりしないわ」
そんなに顔に出ていたのだろうか。
「その、名前も覚えていなくて、何かの罰で閉じ込められたり、記憶が無くなったりしてるのかなって」
「ここにそう言った罠とか呪いは無いわ。悪い人はリネ様が懲らしめてしまうしね。奥であなたに何があったのか教えてくれる?」
「はい。わかりました」
レイゼリアさんが手を引いてくれて、立ち上がり、二人で通路を進む。
通路の先でレイゼリアさんが突起を動かし、扉を開ける。そして二人で中へと入る。