なんだか眠たくなってきた
氷の礫が飛び交う中を駆け回り、隙を探る。
宙に浮かんで追従する盾にいくつもの氷塊が当たって砕ける。切れ間なく攻撃が降り注ぎ続ける。
これでは盾を分裂させて階段状にして駆け上がる隙がない。
身体に魔力を回して、速度を上げる。
それでもなお風を切って高速で飛んでくる氷の礫を追い抜けない。
腰のナイフを抜き、隙を見て中心に浮かぶ氷の塊目掛けて投げる。
くるくると回転しながら飛んでいき狙い通りに当たるけど、小さな音を立てて弾かれる。
やっぱりナイフひとつでは効果がないみたいだ。
もう使うしかないと思い、全力で魔力を身体に張り巡らせる。
右の脇腹がちょっと熱いけど、大丈夫そう。
更に速度を上げて氷の礫を追い抜き、盾を四つに分裂させて階段状に出して消して、螺旋階段のように空中の氷の塊に向けて駆け上がり、それを足場に飛び込み、居合のように斬り払う。
盾を横にして出して、上に乗って着地し、氷の塊を見ると、ゆっくりと落ち始め、力を失ったのか突然速度を上げて落下する。
ゴンと音を響かせて雪面に埋もれ、崩れる。
周囲を覆っていた渦も消え、風が止んでいる。
しかし回りにはたくさんの白い影が集まっていた。
雪のゴーレム達が風の渦の外で立ち往生していたのか、こちらに向かってくる。
身体強化を解くと三十秒使い切ってなくとも息苦しさに襲われる。
それでも雪のゴーレム達をどうにかしないと。
息苦しさを我慢して、次から次に歩いてくる雪のゴーレムを迎え撃つ。
斬って、鉄塊をぶつけ、斬って、鉄塊ぶつけ、斬って、鉄塊をぶつけ核を斬る。
十体から先はもう数えていない。
もう寒さで手足の感覚がない。地吹雪が止んでも寒いことには変わりない。
拳を避け、斬り伏せる。
一体だけ他より大きなゴーレムがいる。腕は五本で頭は二つに足は四本。
仕留め損なった奴が異形に再生したのかもしれない。
いや違ったみたいだ。
異形のゴーレムに他のゴーレムが自ら身体を差し出す様に雪の身体同士がくっつき大きくなっていく。
くっついた雪の塊が足から胴体、肩へと移動して、腕が六本になった。
これ以上大きくなられると核を捉えるのが難しくなる。
周囲の雪のゴーレム八体をまず片付ける。
鉄塊達で上半身を弾き飛ばし、核を斬る。
拳を避け、そのまま胴体を両断し、見えた核を突く。
更に地面を砕く勢いで鉄塊をぶつけ、核ごとゴーレムを叩き潰す。
足に力を込め、勢いのままにゴーレムを核ごと真っ二つにする。
鉄塊の一つで拳を防ぎ、残りの三つで頭と胸を砕き、露出した核を斬る。
拳をしゃがんで避けてそのまま懐に入り胸の核を突く。
足を斬り、手を着いたところを核ごと両断する。
鉄塊達で両腕を砕き、無防備な胸に張り付いて核を突く。
これで近くの八体は片付いた。
異形のゴーレムが拳を振り下ろしてきて、転がり避けて、距離を取る。
粉雪を舞い上げ、六本の腕を繰り出す異形のゴーレムに鉄塊達をぶつけると、他の通常の雪のゴーレムと違い、崩れたり砕けたりしない。
強度が上がっているんだろうか。
飛んでくる拳の一つを斬り落としても、すぐに再生する。持久戦になりそう。
既に全力を使ってる上に、寒さで限界が近い身体が持つだろうか。
思考を遮るように連続で殴打が放たれる。
四つの鉄塊で防ぎつつ、避け、斬り払うけど、すぐに新しい腕が襲いかかる。
このままじゃ私の体力が先に無くなる。もう一度全力で行くしかない。
四つの鉄塊で四本の腕を押さえながら、残りの二本の腕を斬り落とし、その隙に下腹部から残りの魔力を全力で張り巡らせる。
左から背後に回り込み、背中から駆け上がり核を狙って深く刀を突き刺す。
核に届かなかったのか、腕が伸びてきて掴まれる。
身体強化がもう解けそうで息が苦しくて、身体が軋む。太ももに触れる角灯が熱く、肩に駆けっぱなしの鞄の紐が食い込む。更に握り絞められ身体が悲鳴を上げる。
「っ!っつあ!」
呻き声が漏れ、意識が遠のく。
「くっ!っうあああああああああ!」
最後の力で四つの鉄塊を刀の柄尻にぶつけ、更に奥に刀を叩き込む。
刀はもう雪の身体に埋まって見えず、何度も同じ場所に鉄塊をぶつけられ、ゴーレムの背中が大きく凹む。
もう息が出来なくて限界感じた時にようやく核に届いたのか、腕が崩れ落ちてそのまま雪に埋もれる。
なんとか這い出し、遠のく意識を必死に繋ぎ止める。
回りにはまだ五体程のゴーレムがいるみたいだ。
こんな雪の中で意識を失うわけにはいかない。
気力だけでゴーレムを斬り伏せ、拳を避け、鉄塊で弾き飛ばす。
頭痛のおかげで寝ずに済んでいるのかもしれない。
刀を振る力がもう無く、鉄塊でゴーレム達を叩き潰す。
頭が割れそうだけど、今はむしろこれでいいはずだ。
とりあえず歩き続ける。雪の中で眠るわけにはいかない。
地吹雪が止んだから雪に足跡が残るから迷子にはならないはすだ。
四つの鉄塊をぐるぐるの周囲を守るように回転させながら真っ直ぐ歩き続ける。
渦があった場所の先に行けば何かあると信じ、ひたすら歩く。




