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今度は全力で

 鎧の剣士が瞬く間に距離を詰める。

 私はそれに反応出来ず、ガキンと大きな音で盾が私の脇腹を両手剣から防いだことに気がつく。

 咄嗟にしゃがみ込んで、身体中に熱を回す。

 床を思いきり蹴って剣士の腹に横になぎ払うように刀を振るう。

 しかし刀は鎧に触れることなく急に動かなくなる。

 右手でがっしりと振り切る前に掴まれて押さえ込まれ、びくともしない。

 刀を消して、後ろに下がる。左手だけで軽々と上段から両手剣を振り下ろされ、更に後ろに下がろうとした瞬間、剣先が伸びて私の肩を掠める。


「うっ!」


 痛みで声が漏れる。勇者のケープじゃなかったらそのまま斬られてたかもしれない。

 何が起きたのかよくわからない。両手剣に変化は無いのに急に伸びてきて避けきれなかった。

 そしてまたふわっと距離を詰めてきて、迫る刃を咄嗟に刀で受け止める。

 重たくて膝が曲がりそうになる。

 身体強化を使っているのに完全に相手の力が上回っている。かなりまずい。

 盾を分裂させて、背中にぶつける。

 びくともしない。しかし怒ったのか力任せに押し飛ばされる。

 体勢を崩した瞬間、また脇腹を目掛けた一撃が迫る。

 咄嗟に刀を構えなおそうとしながら、盾を消してすぐに私の横へ、鎧の剣士の押し出しに私の腕力では到底抗えず、刀で防ぐことも出来ずに無造作のまま肘の下を両手剣が抜け、脇腹に当たる。

 ボグッという変な音を聞きながら、口から体内の空気が勝手に出ていく。そこから先はよく覚えていない。気づいた時には床に寝ていた。無様に弾き飛ばされたんだろう。

 意外と痛みは感じない。でも身体は動かず、視界が定まらない。

 死んだと思われているんだろうか。追撃はないみたい。

 あれ?なんか苦しい…息がうまく吸えない…

 目の前がチカチカとして、白に包まれていく。

 いつの間にか、草原に座っている。

 一面に白いナズナの花が咲き乱れている。

 死んだのかな。それともこれから。

 今日は子供達はいないのかな。


「いないよ」


後ろから声がして、振り向こうとするけど身体が動かない。

 立ち上がることも横を向くことも出来ないみたい。


「そうですか。前に似たところでみんなで遊ぶ夢を見たんです」

「それは良い夢だね」

「あなたの夢だったんでしょうか?」

「いいや、俺はみんなと花畑に行ったことなんてないから」

「そうですか。あの私は死ぬんでしょうか」

「わからない。君が俺と今話せているのは多分魔力を使っているから」

「エリンさんを助けたいんです。勇者のあなたなら…」

「俺は勇者じゃないし、何も出来ない。君がやるんだ」

「でも、まるで歯が立ちませんでした…」

「君は人間じゃない。俺も子供達もどこにもいない」


 胸が苦しくなる。


「どうして…いきなりそんなこと言うんですか…?」

「俺達は魔力に染み着いた汚れみたいなものだから。それに君が思ってることだよ」

「私が思ってること?」

「そうだよ。君は怖がっている。力を使うことを」

「怖がるも何も使い方なんてわからないし、そもそも力って何ですか?」

「魔力だよ」

「それならさっきも使いました…でもダメだった…」

「無意識に押さえ込んでも漏れ出る程の勇者の魔力を君は引き継いでいる。別に使い切ったって無くならない」

「無くならない?」

「もう君の物だから。休めば回復する。俺達に会えなくなることもないから」

「ほんと?」

「あなたがそう望むなら」


 子供達が答えてくれる。


「三十秒」

「三十秒?」

「魔力を解放できる時間だよ」

「それ以上使ったら?」

「初めて身体強化を使った時よりひどいことになるよ。でも大丈夫。その前に勝手に終わっちゃうだろうから」

「もしも倒せなくて使けい続けたら…死にますか?」

「いいや、でも戦場で倒れるようなことになれば…」

「死ぬかもしれない…」

「そういうことだよ。さぁそろそろ行かないと死んじゃう」

「え?」


 花畑が消えて、真っ白な視界が徐々に色付いていく。

 見えるようになった目に入ってきたのは、火の玉の灯りを反射した怪しく光る剣先。

 両手剣を逆手に握った鎧の剣士が私に止めを刺すべく、今まさにその剣先を突き立てようとしている。


「あぐっ…!」


 身を捩ろうとした瞬間に右の脇腹に激痛が走り、うずくまる。

 振り下ろされる剣先を盾で受け止め、痛みに耐えて起き上がる。

 身体の何処かに力が入る度に脇腹に刺すような痛みが走り、そうじゃなくても息をする度ズキズキして、ぐりぐりとまるで傷口に指を突っ込まれているみたいな痛みと不快感がある。

 骨が折れてるんだろうか。そういえばなぜ私は真っ二つなってないんだろう。

 そろそろ自分が人間だという幻想は完全に捨てないといけないのかもしれない。

 考えてる間も剣撃が放たれては盾で防ぐ。

 制限して身体強化をしていたつもりはない。お腹に手を置いて集中し、魔力の熱を感じる。その全てを使う。

 下腹部から全力で魔力を回す。

 火傷しそうな程の熱が心臓を焼き、焼かれた心臓から身体中を焼き尽くす。

 全身が焼けるように熱い。右の脇腹は感覚が麻痺してじんじんとする。

 魔力の量とかはわからないけど身体の方が本当に三十秒も持つのだろうか。

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