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あなたはだれ?

 話かけようとして口元を手で覆われる。

 細くて色白の綺麗な指を立てて口元に当て、静かにと青い瞳で訴えかけてくる。

 ガサゴソと周囲から音が聞こえ、徐々に離れていく。


「一先ず行ったみたいね。あいつらいきなり地面から湧いてきて運が悪かったわ。仲間ともはぐれちゃったし」

「仲間って鎧を着た金髪の男の人ですか?」

「ええそうよ。私と五人の兵士で途中までは馬に乗ってね。今思えば魔物の気配を感じて進まなくなったのね」

「あの、レイゼリア、さん。森の動物達と花畑にいたら男の人が倒れこんできて、近くに寄ったところを魔物が追いかけてきて、それで彼は私を庇って襲われて、助けないとと思ってナイフを投げつけて逃げてきたんです」

「そう。聞きたいことはいろいろあるけど、とりあえずその人を助けてくれてありがとう」

「いえ、あの人が私を投げてなかったらきっと私が死んでたので…」

「まずは花畑に戻ってみましょうか。魔物がいても私の魔法でやっつけてあげるわ」

「わかりました。こっちです」


 まだ目覚めてから数日しか経っていないけど、活動範囲が狭いからか小川と花畑とブブの実のあるところにはなんとなく行けるようになっていた。


「この先です」


 藪を掻き分けて、レイゼリアさんに目配せをし、二人で静かに花畑を覗き込む。

 狼さんと二体の魔物が睨み合っているようだ。


「私が魔法で一体を引きつけるわ。そうすればリネ様がきっともう一体をどうにかしてくれる。あなたはここで隠れてて」


 優しく諭すような声色でそう言いながら微笑みかけられ、私はゆっくりと頷く。


―――――――――


 藪から飛び出し、右手に魔力を込めながら、花畑を縁取るように弧を描いて走る。

 魔物達は森の主から目が離せないのかこちらには反応しない。それならそれで都合がいい。

 魔物の横で足を止め、右手の魔力を水に変える。お母様がくれた紺青の指輪が光り、私に力をくれる。

 よく狙いを定め、私の身体を隠す程の大きな水の球を魔物に向けて弾き飛ばす。

 真っ直ぐ飛んでいった水球は狙い通りに魔物の一体に当たり、弾ける。

 ずぶ濡れになった魔物はギギギギギと唸りながらこちらを見る。


「お前の相手は私だ!」


 大声で叫ぶともう一体もこちらを向くが、その隙を見逃さなかった森の主に組み付かれる。

 そしてずぶ濡れの一体が怒りに任せてこちらに駆け出す。

 左手を魔物に向けて人差し指の指輪に魔力を込めると、金色に輝く指輪から閃光が放たれる。

 閃光が魔物に当たると弾ける音と共に魔物の全身に閃光が走り、黒焦げになって崩れ落ちる。力を使い果たした指輪も黒くその輝きを失った。

 奥の方を見るともう一体の方も既に事切れているようだ。

 私はほっと息をつき、少女のいる藪に手を振る。


―――――――――


 レイゼリアさんの放った雷が魔物を倒す。

 私も魔法が使えたりするんだろうか。

 レイゼリアさんが安堵の表情を浮かべ、こちらに手を振ってくれる。狼さんも魔物を倒したみたいだ。

 レイゼリアさんの後ろでボロボロの黒い身体が起き上がり、爪の伸びた長い左手を大きく振りかぶる。

 咄嗟に駆け出す。


「レイゼリア!レイゼリア!後ろ!」


 振り向いたレイゼリア目掛けて爪が振り下ろされる。

 赤い髪のレイゼリアが目の前で斬られる光景が脳裏に浮かぶ。間に合わない。また間に合わない。

 四人の子供が突然、私を後ろから抜き去っていく。


 お願い、レイゼリアを助けて!

 任せて


 子供達が鉄の塊に姿を変えて飛んでいく。

 厚みのある長方形の形は墓で見た石板のよう。

 目にも追えぬ速度でレイゼリアと魔物の間に割って入り、四つが一つとなって振り下ろされた爪を受け止める。

 レイゼリアの左肩の上に浮かび彼女を守る姿は具足の袖のようにも騎士の盾のようにも見える。

 驚いていたレイゼリアが表情を強張らせ、地面にすぐさま両手を着く。


「大地よ!」


 花畑から大きな刺が隆起して魔物の腹を捉える。貫かれなかったようだが、よろけたところを狼さんに組み付かれ、首を噛み千切られて事切れる。

 アオーーンと狼さんが遠吠えをすると、動物達が森へと戻っていく。

 魔物はすべて倒したみたいだ。


「兵士さんは!?」


 私が声をあげると花畑からゆっくりと手が伸びてひらひらと手を振る。無事で良かった。

 駆け寄ると、身体痛くて起き上がれないようでどうしたらいいのかわからない。

 レイゼリアも気づいたようで駆け寄ってくる。


「君も無事で、良かった。姫様も、よくぞご無事で」

「クリフト、生きていてくれて嬉しいわ」

「姫様、他の、皆は?」

「わからない、はぐれてしまって。探しにいかないと」

「私も、行きたい、ところですが、恐らく、あばらが」


 起き上がろうとして、ぐっとうめき声が漏れる。脂汗もかいてるようで痛々しい。


「そんな、顔を、しないでくれ」


 クリフトと呼ばれた彼が私の頬を優しく撫でる。

 彼の手を取って優しく両手で包むと、微笑みながら眠ってしまった。

 私はケープを脱いで丸めて彼の頭に枕代わりに入れてあげる。


「あなた服はどうしたの?」

「えっあっえっと、これだけ、です」


 全裸に慣れすぎて躊躇なく脱いでしまった。


「とりあえずこれを着なさい」


 そう言ってレイゼリアさんが自分の着ていた緑色のマントを私に掛けてくれる。


「ありがとうございます」

「そういえばあなたの名前を聞いてもいいかしら」

「わからないです」

「え?」

「気がついたらそこで寝てたみたいなんです。何か知りませんか?」


 私は墓と思しきあそこを指差して、正直に話してみる。

 レイゼリアさんはそうと一言呟いて黙ってしまう。少しして胸に手を当てて狼さんの方を向く。


「森の主リネ様申し訳ありませんがもう少しお力を貸してください。兵達の無事を確かめたいのです」


 狼さんの名前はリネというらしい。伏せて休んでいたリネはゆっくりと立ち上がり、ちらちら振り返りながら歩き出す。

 それを眺めているとポンポンとレイゼリアさんが私の頭に優しく手を乗せる。


「あなたのことはまずは皆の無事を確かめてからね」

「はい」


 二人が森の中へ歩いていくのを眺めて、クリフトさんの横に座る。一人にしておくのは可哀想だから。

 途中気づいたレイゼリアさんが振り返り、お願いねと言って軽く手を振って、すぐにまた森の中へと歩いていく。

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