熱
石のゴーレムが一歩踏み出し、こちらに向かって走り出す。
見た目よりもずっと早い動きで目の前に迫り、私を掴もうと両手を伸ばしてくる。
私は駆け出し、ゴーレムの両手を抜けて自分から懐に飛び込み、無防備な胴体に刀を抜いて居合のように振り抜く。
これはかなりまずい。
うっすらとついた切り傷が、迷宮の入口を塞いでいた石の壁を思い出させる。
私にはこのゴーレムは斬れない。股下を潜り抜けて背後に回って距離を取る。
師匠の言葉を思い出す。身体強化を使うには外部から魔力を取り入れるか、貯めていた魔力を使うか。
魔力が混ざるのが危険なことなら、魔族を含めた亜人族の人達は体内に貯まった魔力で無意識に行ってるということだと思う。
私にもあるはずだけど使い方がさっぱりわからない。
でも私の肌に触れた魔法道具が使えなくなったり、魔法が消えたりするということは魔力が出ているってことなんじゃ?
それとも武器由来の効果で関係ないんだろうか。
刀を中段に構え、集中する。刀に魔力があるのかないのか、とりあえず力を込めたり何かが流れてきたりをイメージする。
ガン、ゴンと盾を殴る音がしてなかなか集中できない。
ブロックの継ぎ目のようになっている腕の関節を狙って斬ってみても効果はない。
このままじゃ体力が尽きて殺られてしまう。
徐々に恐怖が込み上げてくる。
単調なパンチもずっと避けて防いでいられるわけじゃない。
距離を取って盾を抱き締める。
「お願いみんな!力を貸して!」
返事はない。
「誰か……聞こえないの…?」
子供達は返事をしてくれない。
全身に衝撃が走って、気がついた時には盾を抱き締めたまま床に仰向けに倒れている。頬が冷たい。
上から振ってくる拳を盾が浮かび上がり、受け止める。
両手を握り込み、何度も何度も力任せに振り下ろされる拳を盾が防ぎ続ける。
空中で微動だにせず金属音を響かせる盾にはきっと魔力があるはずだ。
でもその魔力を使えても、もし盾が動かなくなってしまったら私はすぐに殺される。
身体の内にあるはずの魔力の貯まっている場所、頭、心臓、お腹、感じ取れない魔力を想像して集中する。
どこにあるんだ。魔力ってなんだ。
そういえば魔力の過剰活性は身体強化とは全くの別物なんだろうか。
あの時は確か、全身が沸騰するみたいに熱くなって、頭がくらくらして…。
そしてそのあと汁まみれに…。
涙も出たけど、お漏らしみたいになったくらいだからお腹だろうか。
痛みを堪えて立ち上がり、お腹に手を当てる。
あの時の熱を必死に探す。
盾を分裂させて、ゴーレムにぶつけまくる。
鉄塊でゴーレムを砕くつもりで本気で叩きつける。ダメージは無さそうだけど足止めは出来ている。
四方八方から何度も繰り返しぶつけながら、お腹の熱を探す。頭が割れそうになって額に汗が滲む。
このままじゃただの過剰活性とやらでまた倒れてしまう。
その時、お腹の奥に暖かな熱を感じ取る。へその下、下腹部の方だ。
きっとこれだ。
手でなぞりながら想像する。
下腹部からへそ、心臓、そして鼓動と共に身体中へと熱を送る。
身体が熱を帯びていって、肩の痛みが消えて、身体が軽くなっていく。
集中しすぎて鉄塊の動きが止まり、ゴーレムが私に右の拳を振りかぶる。
素早く突き出される拳を右に避けて懐に入り、刀で右腕の肘の継ぎ目を狙って斬り上げる。
ごんという大きな音が肘から先がどうなったかを教えてくれる。
いけるかもしれない。そのまま胴体を迷いなく斬りつけ、すぐに距離を取って構え直し、盾を出し直す。
両断は出来なさそうだけど、しっかりと深く刀傷が胴体に斜めに刻まれていて、ゴーレムの
脇には斬り落とした右腕が転がる。
「これなら……!」
ゴーレムが左腕でなぎ払うように横に大振りする。
盾でそれを押さえ、左腕の肘を狙うけど、ゴーレムが腕を引っ込めてそれを避け、即座に私に向けて拳を放つ。
私は盾を拳にぶつけ、軌道を反らす。
ガン!っと先ほどよりも大きな音を立てて、ゴーレムの腕が弾かれる。
盾を動かす力も上がってるみたいだ。
突然腕を強い力で弾かれたからか、ゴーレムが姿勢を崩して、膝突き、そのまま左腕を下敷きにして倒れ込む。
呼吸が急に苦しくなる。でもまだ熱を感じる。
もうそろそろ魔力が尽きるのかもしれない。
倒れたゴーレムの核を狙い、胸に刀を突き刺す。
私の力では刀身の半分程しか刺さらず、柄尻に盾に当て、奥まで刺す。
核に刃が届いたのか、ゴーレムの頭が落ち、足がバラバラになる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ごめんね、ありがとう。はぁ、はぁ、あなたの、おかげで、少し、強く、はぁ、はぁ、なれたと思う…」
苦しい。膝が折れ、床に手を突く。垂れ下がってきた自分の長い髪が白から黒に戻っていく。
コーネルさんみたいに髪の毛の色が変わっていたみたい。
鞄どこにやったっけ、肩で息をしながら辺りを見回すと入ってきた扉の側に落ちている。
そのまま四つん這いで這うよう鞄を拾って、お姉さまの水筒を飲み、壁によしかかってへたり込む。
苦しい。少し怖くてレイゼリアさんがくれた指輪をぎゅっと握り締める。
そしてまた寝落ちしてしまう。




