次の敵
「レイゼリア!左からくるぞ!」
赤い髪を翻し、左手の指輪から迫るオークに向かって閃光が走る。
閃光を浴びて黒焦げになったオークが倒れても次から次へと魔族達が迫ってくる。
「エリン!まだなの?もう指輪の魔力が…!」
ゴブリン達を蹴散らし、エリンを守るレイゼリアの元へ勇者が駆けつける。
「エリン、もう囲まれてる!」
「大丈夫…もういける……」
オークが振り下ろした鉈を盾が受け止め、その隙に懐に入った勇者が両断する。
「伏せて!」
エリンが掲げた杖から光の筋が四方八方に放射状に散らばると、光に射抜かれた魔族達が次々に倒れていく。
空を裂く光で目がチカチカして目が覚める。
まずい。いつからどれだけ眠っていたんだろう。
慌てて鞄の中身や自分の身体を確認する。
鞄も自分もとりあえず何も問題はないみたい。
でも竜の魔物の黒煙を浴びた手袋とブーツが更に黒くボロボロになっている。崩れて無くなったりしてないってことはこれ以上は酷くならないと思いたい。
起き上がり魔物の死骸があるはずの拓けた場所に行ってみると、黒い巨大な水溜まりみたいなものが出来ている。
近づいてみるとぽこぽこと泡が浮かんで消えていて、何か塊が中央に落ちているけど水溜まりに触れるのはちょっと危ない気がする。
少し眠ったからか、ちょっと身体が軽くなった気がするけど肩がまだ痛む。
ケープを外して、肩を見ると赤紫色に内出血してるみたいだ。
とりあえず次の階に行く方法を探さないと。
ケープを着て、鞄を担ぎ、大きな竜の魔物を警戒して進めなかった奥へと歩いてみる。
真っ直ぐな木立が並び、特に変わったところは見当たらない。
いっそのこと端まで行ってみようと、ひたすら真っ直ぐ歩き続ける。迷子になったり、曲がったりしないようナイフで木に傷を着けていく。
振り返るとうっすら矢印達が見え、ちゃんと真っ直ぐに進めていることを確認する。
魔物の気配もなく、足が疲れてきた。
側の木に腰掛け、少し休む。
コーネルさんの鞄から師匠のバンカンを取り出して、長方形の塊をナイフで四角く切って食べる。そのまま食べるのは初めてだ。
油脂で固めたものと言っていただけあり、ギトギトしているけど臭みはなく、甘酸っぱいドライフルーツとサクサクのナッツも入っていて脂っこくても食べやすくて食感も良くて美味しい。
でも確かにこれはお姉さまの言う通り当たり外れがありそう。この脂っこさで臭かったら、かなり食べにくいと思う。
栄養補給をすませて立ち上がり、また歩き続けて壁に辿り着く。
一面のっぺりとして磨かれたような床や天井と変わらぬ石の壁だ。
左右を見ても見渡す限り何もない壁のようだ。
諦めて、来た道を長い時間をかけて戻る。今度は休憩を挟まない。
やっと拓けた場所に戻ってくると、もう黒い水溜まりは無くなっていて、先ほど見かけた塊だけがまだ残っている。
近づいて確認してみると、黒い結晶みたいなものが落ちている。私の拳二つ分くらいだろうか。
指でそっとつついて見るけど何とも無さそうなので掴んで、持ち上げてみる。
手袋が崩れるとか真っ黒になるとかそういうことはないみたいだ。
何かに使えるかなととりあえず鞄に入れておく。
他に何か手がかりがないか見渡していると段差に気がつき、近づくと段差に見える四角い板が横に滑るようにずれ動き出して階段が現れる。
大きな魔物はボス的な奴だったんだろうか。
お姉さまの水筒の水を飲んで、ドライフルーツを一つ食べて英気を養い、階段を降りる。
てっきり明るいと思っていたけど真っ暗で、途中から角灯を灯して降りていく。
次の階に着いたら明るくなるという期待も裏切られ、目の前には暗く四角い通路が伸びているみたいだ。
その光景は想像していたダンジョンという感じだ。
けどこの暗さで真っ黒の魔物にすぐに気づけるだろうか。
角灯を左手に持ち、右手に刀を握って盾を四つに分裂させて四方を守りながら通路を進んでいく。
通路の奥まで着くと、左右に道が分かれる。
どっちだろう。とりあえず右へと進んでみる。
途中、行き止まりかと思いきや左に道が曲がっていて、更に奥へと進んで行く。
更にその通路の奥には扉のようなものがある。
枠みたいなものがあるから扉だとは思うけどノブ等は無く、ただの石の壁だ。
そっとつついて見るとガガガガガガと大きな音を立てながら上に壁が持ち上がっていき、中に入れるようになる。
これは入ったら閉じ込められるんじゃないかという気がするけど迷っている暇はない。
中に入ると案の定、ガンと大きな音を立て壁が落ちて塞がれる。
壁に等間隔にぐるっと火の玉が灯り、部屋が明るくなると、部屋の奥に石の塊が浮かび上がる。
ゆっくりと立ち上がったそれは石のゴーレムだ。四角と長方形で作られた姿はおもちゃのようにも見える。
ふとブロックという単語が頭に浮かぶ。そういえば勇者の盾もブロックを四個縦にくっつけただけみたいだ。
ゴーレムが動き出し、目の前の敵に集中する。何か大事なことならまた夢に見るかもしれない。




