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勇者のケープすごい

 コーネルさんのチーズをナイフで薄く切って食べる。ナッツみたいなこくと乳の旨味とほんのりの塩気が美味しい。

 水筒の水を飲んで、大きな竜の魔物をどうするか考える。

 家みたいな大きな身体には刀で首や心臓を狙ったところで致命傷にはならないと思う。

 やっぱり狙うのは頭だろうか。

 仰向けで大きなお腹を上下させ、少しだけ口を開けて目蓋はしっかり閉じている。

 高いところから眉間を目掛けて刀を突き刺す作戦でいこう。

 頭に一番近そうな木に、四つの鉄塊を段々の足場にして螺旋階段みたいに登っていく。

 このくらいでいいかな。

 一呼吸して鉄塊を足場にして跳ぶ。

 刀を逆さに構え、眉間目掛けて落ちていく。

 やばい、思ったより高かったかもしれない。

 今にも叫び出しそうになるのを堪え刀をぎゅっと握り締める。

 ガーンという金属音が響いて刀が少しずれて左目の上に刺さる。

 衝撃が肩に響いて痛みが走り、刀を放して転げ落ちる。

 身体中が痛い。

 生暖かい風を感じて、身体を起こすと大きな顔がこちらを睨む。左目の上には深々と刀が刺さっている。

 本当に魔物に心はないんだろうか。絶対怒ってると思う。

 大きく口を開けて叫び出すかと思いきや、真っ黒い煙みたいなものが雪崩のように押し寄せてきて、咄嗟に盾を目の前に出す。

 真っ黒で何も見えない。刀を手元に出し直し、構えて警戒する。

 黒煙が後ろの木々にまで届くとギシギシ、バキバキと音を立てながら枯木に変わり朽ちていく。

 ようやく黒煙が晴れてきたと思ったらまた暗くなる。

 おかしいと思い上を見上げると大きな嗅ぎ爪が振り下ろされる。

 右に跳び、避けるとガンっと音がする。

 揺れもしなければ傷もつかない床の頑丈さにも驚きつつ、刀で床についた右手を斬りつける。

 小さい赤ちゃん竜よりも鱗が分厚いみたいだ。切り落とすつもりだったのに大した傷はない。

 距離を取って、考える。

 大きなお腹が重たくてその場からほとんど動けないみたいだ。

 届かないのにバタバタとこちらに前足を叩きつけている。

 ここだけ拓けた場所になってるのは黒煙の影響だろうか。

 前足をばたつかせても意味がないことに気づいたのか、また黒煙を吐き出す。

 周囲が真っ黒に包まれた隙に一度木々の中に隠れる。

 起き上がったことだし頭を狙うしかないだろうか。

 けど目の上にしっかり刺さったのに平然としているし、ちゃんと効いてくれるだろうか。

 このままじゃ隠れるところも無くなりそうだから早く決着をつけないと。

 四つの鉄塊を囮にナイフを使って自力で木をよじ登る。内股が擦れて痛いけど我慢して高さを稼ぐ。チラチラと鉄塊が動きを止めないように下を見ながら。ナイフを突き刺して上に登る。頭が割れそう。

 徐々に鉄塊達が木の方に近づいてくる。高さがついて距離が空いたからだろうか。

 脳天を狙うにはどちらにしろこっちに来てくれないと困るから丁度いい。

 盾を消して自分の足場として出す。

 突然目の前で消えた四つの鉄塊に驚いたのか床を見つめてきょろきょろとしている。

 静かに脳天を目掛けて飛び降りる。

 内蔵がふわっとして恐怖と気持ち悪さが込み上げる。でももう叫び出しそうな気はしない。

 ぎゅっと刀を握り締め、がっと音が鳴り肩に響く、深く刀が頭に刺さり、突いた両足がじーんと痺れる。

 時が止まったみたいな時間が流れる。

 まさかこれも効いてない?

 短い手がゆっくりと伸びてきて、顔を掻きじゃくりゆっくりと倒れ始める。

 このまま頭にいたら潰されると思い、宙に出した盾に飛び移る。

 まん丸なおおきなお腹を上に向けて、ごろんと倒れると次第に手とお腹の動きがゆっくりになり、そして動かなくなる。

 念のために心臓を狙って最後に盾から飛び降りる。


「ごめん!」


 私の声に反応したのか閉じかけた目蓋がかっと見開き、口を開けて黒煙を吐く。

 まともに煙に包まれ、咄嗟に息を止めて目を瞑る。

 がっという音と刀と両手に伝わる感覚がどこかに刺さったのを教えてくれ、痛む膝で鱗の上だとわかる。

 盾を四つに分裂させて自分の回りを高速で旋回させる。身を守るためと煙が散ってくれることを祈りながら。

 もう息を止めていられない。まずゆっくりと目を開く。

 煙はもう無さそうだ。ゆっくりと息を吸う。

 とりあえず大丈夫そう。

 今のが最後の力だったのか、竜の頭が横を向いて力なく口から舌が垂れ下がっている。お腹も上下していない。

 黒煙をまともに浴びたけど怪我は無さそう。

 でもブーツと手袋が黒ずんでボロボロになっている。

 勇者の青いケープは何ともないみたい。

 ケープに守られたのか中のシャツとパンツや腰に着けていた水筒、角灯、巾着、ナイフの鞘も無事みたい。

 魔法攻撃だから私は平気だったんだろうか。ただの毒ならきっと死んでた。

 覚悟が足りないって師匠とコーネルさんに怒られちゃうそう。

 高い所に刺したままのナイフを思い出し、回収して、コーネルさんの鞄の所に戻って、鞄が無事なのを見てへたり混む。

 黒煙に巻き込まれてたら終わりだった。途中から完全に忘れていた。次はもっと物の位置とか地形を考えないと。

 そしてまだまだ先は長いのに自分の水筒を飲みきってしまった。

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